講演情報
[14-O-L002-05]やっぱり家が一番好き! 家で好きな事をしていたい!暑い日も、寒い日も、しんどい時も
*石黒 里香1 (1. 京都府 介護老人保健施設 ハーモニーこが)
第33回全国老人保健施設大会にて、通所リハビリを中止して訪問リハビリを開始した利用者に関わる中で、介護者が考える生活ではなく、本人が望む生活を大事にする必要性を再認識する事ができ、報告を行った。その後、その利用者を支えていた家族の一人が他界し、利用者の生活に変化が起こり、心身機能に変化が起こってきている。改めて訪問リハビリの必要性を感じ、今後何ができるのか考える機会を得たので報告する。
【はじめに】
第33回全国老人保健施設大会にて、「デイには行きたくない」と訴える利用者の訪問リハビリを通じて、要介護者の社会参加の場はデイと押し付けていた事に気が付き、本人が望む社会参加の場を作っていく重要性を学んだ事を報告した。その後、その利用者を支えていた家族の一人が他界し、利用者の生活にも変化が起こり、心身機能に変化が起こってきた。改めて訪問リハビリの必要性を感じ、その役割を考える機会を得たので報告する。
【事例紹介】
A氏、女性、85歳、要介護4。夫と長男の3人暮らし。約30年前に両岸黄斑部平成萎縮の診断を受け、徐々に症状が進行し、ボヤッとしか見えない程度にまで視力が低下。前年に腰椎圧迫骨折にて動けなくなり、2か月後に巨大胃潰瘍穿孔で緊急手術。退院後、家族や関係者の強い勧めで通所リハビリを利用開始するが、「家が一番好き!家で好きな事をしたい!デイで1日拘束されるのは嫌!」と利用を拒み、2か月後には終了。自宅にこもり腰痛を訴え、歩行状態もさらに低下してきたため、家族や関係者の強い勧めで訪問リハビリが開始となる。
【経過】
開始時:手すりを持ってゆっくり立ち上がり、伝い歩きでトイレまでの移動は可能だが、円背で膝関節が軽度屈曲し、歩行スピードは非常にゆっくりで体幹が左右に大きくふらつき小刻み歩行。表情硬く警戒するように体調不良の訴えあり。
2ヶ月後:体調不良の訴えが減って表情が明るくなり、夫と歩行車で犬の散歩に出かけ、植木鉢の花を手入れし始め、長男が花の苗を買いに大型商業施設に連れ出すようになる。
4か月後:長男の運転で商業施設に出かけ、夫と店舗を回り、食事をして食料品を買うのが毎週末の楽しみになり、自分から犬の散歩に夫を誘って杖歩行で出かけるようになる。
7ヶ月後:外に出て花の手入れを楽しむ時間が増え、レンタルしていた歩行車とベッド用介助バーを返却。毎日散歩に出かけ、散歩中に出会う友人とおしゃべりを楽しむようになる。
10ヶ月後:夏の暑さで活動意欲が低下、散歩に行く頻度が減り、運動もしたくないと訴えあり。一時期腰痛出現。
12ヶ月後:浴槽の出入りや先体・洗髪が夫の介助や見守りなしで行えるようになる。
15ヶ月後:長男が入院し、商業施設に出かけられなくなる。寒さで散歩の頻度も減少。
18ヶ月後:一時期下肢痛の訴えあり。長男は退院して自宅療養中。
21ヶ月後:長男が車を運転できる状態に回復し、商業施設への外出が再開。夏は運動したくないとの本人の希望を大事にし、週2日の訪問リハビリを1日に変更。
23ヶ月後:長男の体調が悪化、商業施設に出かけられなくなる。同じ部屋で長男も療養していて、長男の前では本人も運動に前向き。
26ヶ月後:約7000キロ離れた実家から妹が来て、数年ぶりに再会。
28ヶ月後:長男が他界。訪問リハ長期休み。
30ヶ月後:孫に付き添ってもらい、新幹線と特急を乗り継ぎ実家へ。訪問リハ再開。片足立ちが6秒可能だったのが1秒に、5歩で歩けていた距離が8歩に。入浴をしなくなってきている。
【結果】
A氏は視力障害がある為、悪口を言われてから他者との関わりを避け、新しい事や慣れない場所への不安も強かった。編み物等を頼まれるほど器用だったので、思うように出来ないとデイの作品作りには強い抵抗があり、A氏にとってデイはストレスがたまる場所で、慣れた自宅が安心できる場所だった。訪問リハビリ開始時は、体調不良の訴えを傾聴しながら関係作りから行い、徐々に運動プログラムを加え、体幹のストレッチ、体幹・下肢の筋力強化、立位バランス向上、歩行能力向上訓練へと進め、A氏が望む社会参加の場を見つけていった。
犬の散歩と商業施設へのお出かけがA氏の楽しみとなり、歩行車歩行が杖歩行になり、杖を忘れて独歩で帰ってくるまで歩行能力は向上していった。しかし、犬の散歩は季節や天候に左右されやすく、夏や冬は行けない日が続いた。商業施設へのお出かけは、長男が体調を崩し車の運転が出来なくなると行けなくなった。
同居の長男が他界した事で夫の負担感は強くなり、次男や孫が関わるようになった。孫が付き添う事で公共交通機関を利用して十数年ぶりに実家に帰省し、妹や親戚と会う事ができた。しかし、夫の気持ちが落ち着くまで訪問リハビリを2か月休み、A氏の心身機能は低下が見られた。
【考察】
その利用者にあった社会参加の場が出来、生活が安定してきても、利用者を取り巻く環境は常に同じではなく、時間と共に変化してくる。そのわずかな変化でも利用者の生活リズムが変わり、心身機能の低下を引き起こす危険性がある。訪問リハは自宅に訪問するので、その変化に気が付きやすい。早期に気付き、落ちてしまう前に働きかけ、体調の変化、生活状況の変化をなるべく最小限にとどめるのも役割りではないかと考える。今後も、利用者が望む在宅生活の伴走者として、生活支援を続けていきたい。
第33回全国老人保健施設大会にて、「デイには行きたくない」と訴える利用者の訪問リハビリを通じて、要介護者の社会参加の場はデイと押し付けていた事に気が付き、本人が望む社会参加の場を作っていく重要性を学んだ事を報告した。その後、その利用者を支えていた家族の一人が他界し、利用者の生活にも変化が起こり、心身機能に変化が起こってきた。改めて訪問リハビリの必要性を感じ、その役割を考える機会を得たので報告する。
【事例紹介】
A氏、女性、85歳、要介護4。夫と長男の3人暮らし。約30年前に両岸黄斑部平成萎縮の診断を受け、徐々に症状が進行し、ボヤッとしか見えない程度にまで視力が低下。前年に腰椎圧迫骨折にて動けなくなり、2か月後に巨大胃潰瘍穿孔で緊急手術。退院後、家族や関係者の強い勧めで通所リハビリを利用開始するが、「家が一番好き!家で好きな事をしたい!デイで1日拘束されるのは嫌!」と利用を拒み、2か月後には終了。自宅にこもり腰痛を訴え、歩行状態もさらに低下してきたため、家族や関係者の強い勧めで訪問リハビリが開始となる。
【経過】
開始時:手すりを持ってゆっくり立ち上がり、伝い歩きでトイレまでの移動は可能だが、円背で膝関節が軽度屈曲し、歩行スピードは非常にゆっくりで体幹が左右に大きくふらつき小刻み歩行。表情硬く警戒するように体調不良の訴えあり。
2ヶ月後:体調不良の訴えが減って表情が明るくなり、夫と歩行車で犬の散歩に出かけ、植木鉢の花を手入れし始め、長男が花の苗を買いに大型商業施設に連れ出すようになる。
4か月後:長男の運転で商業施設に出かけ、夫と店舗を回り、食事をして食料品を買うのが毎週末の楽しみになり、自分から犬の散歩に夫を誘って杖歩行で出かけるようになる。
7ヶ月後:外に出て花の手入れを楽しむ時間が増え、レンタルしていた歩行車とベッド用介助バーを返却。毎日散歩に出かけ、散歩中に出会う友人とおしゃべりを楽しむようになる。
10ヶ月後:夏の暑さで活動意欲が低下、散歩に行く頻度が減り、運動もしたくないと訴えあり。一時期腰痛出現。
12ヶ月後:浴槽の出入りや先体・洗髪が夫の介助や見守りなしで行えるようになる。
15ヶ月後:長男が入院し、商業施設に出かけられなくなる。寒さで散歩の頻度も減少。
18ヶ月後:一時期下肢痛の訴えあり。長男は退院して自宅療養中。
21ヶ月後:長男が車を運転できる状態に回復し、商業施設への外出が再開。夏は運動したくないとの本人の希望を大事にし、週2日の訪問リハビリを1日に変更。
23ヶ月後:長男の体調が悪化、商業施設に出かけられなくなる。同じ部屋で長男も療養していて、長男の前では本人も運動に前向き。
26ヶ月後:約7000キロ離れた実家から妹が来て、数年ぶりに再会。
28ヶ月後:長男が他界。訪問リハ長期休み。
30ヶ月後:孫に付き添ってもらい、新幹線と特急を乗り継ぎ実家へ。訪問リハ再開。片足立ちが6秒可能だったのが1秒に、5歩で歩けていた距離が8歩に。入浴をしなくなってきている。
【結果】
A氏は視力障害がある為、悪口を言われてから他者との関わりを避け、新しい事や慣れない場所への不安も強かった。編み物等を頼まれるほど器用だったので、思うように出来ないとデイの作品作りには強い抵抗があり、A氏にとってデイはストレスがたまる場所で、慣れた自宅が安心できる場所だった。訪問リハビリ開始時は、体調不良の訴えを傾聴しながら関係作りから行い、徐々に運動プログラムを加え、体幹のストレッチ、体幹・下肢の筋力強化、立位バランス向上、歩行能力向上訓練へと進め、A氏が望む社会参加の場を見つけていった。
犬の散歩と商業施設へのお出かけがA氏の楽しみとなり、歩行車歩行が杖歩行になり、杖を忘れて独歩で帰ってくるまで歩行能力は向上していった。しかし、犬の散歩は季節や天候に左右されやすく、夏や冬は行けない日が続いた。商業施設へのお出かけは、長男が体調を崩し車の運転が出来なくなると行けなくなった。
同居の長男が他界した事で夫の負担感は強くなり、次男や孫が関わるようになった。孫が付き添う事で公共交通機関を利用して十数年ぶりに実家に帰省し、妹や親戚と会う事ができた。しかし、夫の気持ちが落ち着くまで訪問リハビリを2か月休み、A氏の心身機能は低下が見られた。
【考察】
その利用者にあった社会参加の場が出来、生活が安定してきても、利用者を取り巻く環境は常に同じではなく、時間と共に変化してくる。そのわずかな変化でも利用者の生活リズムが変わり、心身機能の低下を引き起こす危険性がある。訪問リハは自宅に訪問するので、その変化に気が付きやすい。早期に気付き、落ちてしまう前に働きかけ、体調の変化、生活状況の変化をなるべく最小限にとどめるのも役割りではないかと考える。今後も、利用者が望む在宅生活の伴走者として、生活支援を続けていきたい。