講演情報

[14-O-L002-06]生活機能向上連携加算は老健と特養の懸け橋となるセラピストチームの民営化1年間

*岩田 真記1、山中 奈緒子1 (1. 岐阜県 介護老人保健施設はつらつ海津)
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民営化1年目のセラピストが、赤字運営からの脱却を目的とした収益向上の取組の中で、機能向上連携加算に携わった。加算を通じて特養の機能訓練を計画する中で、今まで知り得なかった入所者の生活や、老健と特養の役割の違いに触れ、法人として老健と特養の連携の必要性を感じる事となった。その経緯について、きっかけとなった症例とともに報告する。
【はじめに】
当施設は令和5年4月に民営化し、社会福祉法人豊寿会・介護老人保健施設はつらつ海津として生まれ変わった。公営時代の赤字運営から脱却すべく、我々セラピストも短期集中リハビリテーション実施加算や短期入所個別リハビリテーション加算の高頻度化やリハビリテーションマネジメント加算B(ロ)への拡充等を図った。その取組の1つが生活機能向上連携加算(II)であった。
外部のセラピストが介護施設を訪問して機能訓練の計画を立てるというこの加算は、依頼側にのみ介護報酬の設定があり、派遣に対する報酬は双方が独自に契約を締結し支払うという特殊な報酬体系である。そのこともあって算定率は令和3年度の改定時の介護給付費分科会の報告では特養等で3.4%と低く、加えて連携側のほとんどは医療機関のセラピストによるもので、老健のセラピストが介護施設に派遣されるケースは稀である。実際、岐阜県老健協会西濃ブロックセラピスト部会にて参画の有無を確認したところ、当施設以外には無かった。当法人は同時に民営化した特別養護老人ホームしょうふう海津(以下特養)を運営している。同一法人で老健と特養を運営しているメリットを活用し、報酬の取り決めを省略して参画することができた。法人全体の収益向上への取組を通じて特養の運営に関わり、老健のセラピストにできる施設間の役割について報告する。
【取り組みの内容と概要】
令和5年10月、11月に計4回特養を訪問し特養職員と連携して入所者の状態を確認しながら意見交換し、相談に対して助言をした。事前に対象となる利用者の課題を特養職員が抽出し、情報提供を受けつつ実際に入所者の状態をみて助言を行う形式で行った。相談の内容はベッド上の臥位姿勢のポジショニング、車椅子座位のポジショニング、移乗や移動動作の際の注意点、現在実施している機能訓練の確認等が中心であった。中には現状の関わりで問題ない計画となっていることもあれば、まったく別の方法を提案する事もあった。要介護度が高い入所者が多いことから、ベッド臥床と車椅子座位のポジショニングについては時間を掛けて説明を行った。
ここで本報告の端緒となったAさんという入所者を一例として紹介する。
事前情報によると、Aさんの入所期間は約半年程度で特養入所時に重度の左片麻痺と左半側空間無視を呈しており、動作は介助中心で行う必要があった。三角巾で左上肢を吊り、レバー式片手走行用車椅子を右手で操作し移動している、という方であった。
実際にAさんを訪問した際の状態は麻痺側の左上下肢は不十分ながらも分離運動が可能となっていた。そのため左上肢の自動運動をテストし低緊張によって腕が下垂しないことを確認し三角巾の使用を中止。空間認識はスクリーニングではあるが正中線近くに偏移していたことから、左半側空間無視も軽減がみられ車椅子をレバー式から標準型に変更。麻痺側下肢も活用し、両下肢を使用して車椅子駆動が可能であること確認し、機能訓練として取り入れることを助言した。
Aさんは事前情報と実際の身体状況に乖離があったため、相談員に質問をすると次のとおりであった。Aさんは病院での治療後に直接特養に入所された。当時左片麻痺は重度であり、入所後の機能面・能力面に変化があるということを読み取れなかった。そのため麻痺側上下肢の分離運動の獲得や左半側空間無視の軽減に気付くことができず、レバー式走行車椅子や三角巾の固定を継続したのではないだろうか。ということであった。
【結果】
今回の取組で、Aさんのように事前の情報と実際の身体機能に差がある入所者に数名出会うこととなった。軽度の介助があれば歩行可能な入所者であっても、その残存機能を評価できず、歩行はできないと思い込んでいる例もあった。特養には身体機能を評価できるセラピストの配置義務がない。入所者の身体機能の低下は介助量の増大で体感しやすいが、機能改善はわずかしか変化しない事が多くある。そのため、適切なタイミングで評価がなされなかったことにより、機能面の改善が生活状況に反映されていないことがあった。
【まとめ】
民営化により老健のセラピストという立場で、特養の加算算定に参画する機会を得ることができた。生活機能向上連携加算は単なる機能訓練の計画だけでなく、そこには入所者の身体機能を評価する副次的なプロセスを含む。そのことが入所者の生活を見直すきっかけとなった。今回関わりを持ったAさんのように機能改善の可能性を残した方が病院から直接特養に入所し、入所後の機能面の変化が生活状況に反映されていないという点についても、老健を経由していれば違った可能性を開くことができたかもしれない、という思いを抱いた。施設を利用される方々には様々な背景があるが、老健と特養が連携した上で入所者の個々のニーズや背景に適した施設を選択していただけるようにしていくことが、両施設を運営する当法人のスケールメリットとして必要ではないだろうか。今回、生活機能向上連携加算に関わったことで初めて老健と特養の連携を意識するに至った。算定率が低く、老健に勤務しているセラピストにもその存在を知られていない加算であるが、そこには深い意義を感じることができた。施設としての役割の違いから継続には課題があるが、我々セラピストが老健と特養をつなぐ懸け橋になるよう、この取組を第一歩として継続していきたい。