講演情報

[14-O-L003-06]訪問リハによるADL・IADL支援の効果と課題LIFEデータを活用して

*中村 有紀1、田邊 龍太1、當利 賢一1、大久保 智明1、渡邊 進1、野尻 晋一1 (1. 熊本県 介護老人保健施設清雅苑)
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今回、訪問リハの効果と今後の介入への課題を分析するために、LIFEデータを活用しADL・IADLの改善に向けた効果的な支援方法を検討した。対象期間中の新規利用者77名について、BIやFAIの合計点が向上した群とその他の群を比較した。その結果、開始時の全身状態が安定しBIやFAIの合計点が低い利用者については活動・参加を明確に目標設定することで3カ月に点数が向上しやすいことが示唆された。
【はじめに】
2021年4月、科学的介護情報システム(以下、LIFE)が運用開始となった。当施設でもLIFEを導入し、データ化したリハビリテーション計画書(以下、リハ計画書)を3ヶ月に1回厚生労働省へ送信しフィードバックを受けている。訪問リハビリテーション(以下、訪問リハ)において、利用者の生活の質の向上には 、心身機能の維持・改善のみならず、日常生活動作(以下、ADL)や手段的日常生活動作(以下、IADL)を支援することが重要である。
【目的】
本研究の目的は、LIFEデータを活用しADL・IADLの改善について訪問リハの支援内容と効果、今後の介入への課題を分析することである。
【対象】
2021年5月から2024年3月に当施設訪問リハを利用した要介護者は209名であった。そのうち対象者は2021年5月以前からの利用者、利用期間が3カ月未満の者(LIFEにおいてリハ計画書は3カ月に1回更新するため)を除外した77名である。男性35名、女性42名、平均年齢79±11.4歳、要介護度の中央値が要介護3、障害高齢者の日常生活自立度(以下、自立度)の中央値がA2、認知症高齢者の日常生活自立度(以下、認知度)の中央値がI、疾患内訳は脳血管疾患32名、整形疾患27名、内部疾患8名、認知症・精神疾患5名、その他5名 である。
【方法】
対象者の 初回と2回目(3カ月後) のリハ計画書における Barthel Index(以下、BI)・Frenchay Activities Index(以下、FAI)の合計点に着目した。BI・FAIが向上した利用者の特徴を把握するため、BI合計点のみが向上した群(以下、BI群)、 FAI合計点のみが向上した群(以下、FAI群)、 BI・FAIの合計点がともに向上した群(以下、BOTH群)、BI・FAIの合計点数が維持または低下した群(以下、NOT群)とした。各群について以下の4つの方法で特徴を調査した。
1)BI群・FAI群・BOTH群・NOT群それぞれの人数、年齢、自立度、認知度、初回のBI合計点、初回のFAI合計点を比較した。
2)4群それぞれにおいてリハ計画書における目標の優先順位が最も高い項目(以下、第一目標)を集計した。
3)BI群、FAI群、BOTH群の BI・FAIの下位項目に着目し、点数が向上している項目を調査した。
4)第一目標をICFコードの頭文字b(心身機能)、s(身体構造)、d(活動・参加)、e(環境因子)に分類した。4群のうち活動・参加が改善したBI群、FAI群、BOTH群において、第一目標のICFコードを集計し、ICFコードとの一致率について調査した。
【結果】
1)BI群4名、FAI群13名、BOTH群12名、NOT群48名であった。年齢はBI群77±21.50歳、FAI群76.53±13.05歳、BOTH群77.25±11.54歳、NOT群80.27±10.21歳であった。BOTH群とNOT群、FAI群とNOT群の間に有意差がみられた(p<0.05、Welchのt検定)。自立度(中央値)はBI群A1、FAI群A2、BOTH群B1、NOT群A2であった。認知度(中央値)はBI群I、FAI群Ia、BOTH群I、NOT群Iであった。初回のBI合計点(平均値)はBI群71.3点、FAI群80.4点、BOTH群55.4点、NOT群69.8点であった。FAI群とBOTH群に有意な差を認めた(p=0.03、Bonferroni法による多重比較検定)。初回のFAI合計点(平均値)はBI群11.5点、FAI群7.92点、BOTH群5.5点、NOT群7.8点であった。
2)各群の第一目標の集計を行った結果は以下であった。BI群は筋力の機能、健康に注意すること各2名であった。FAI群は筋力の機能5名、健康に注意すること2名、運動耐用能、痛みの感覚、立位の保持、自宅内の移動、屋外の移動、日課の遂行各1名であった。BOTH群は用具を用いての移動3名、筋力の機能、健康に注意すること各2名、音声と発話の機能、食事や体調の管理、乗り移り(移乗)、排泄、レクリエーションとレジャー各1名であった。NOT群は健康に注意すること18名、筋力の機能7名、運動耐用能6名、歩行4名、乗り移り(移乗)、排泄各2名、関節の可動性の機能、食事や体調の管理、痛みの感覚、立つこと、用具を用いての移動、短距離歩行、食べること、持ち上げることと運ぶこと、報酬を伴う仕事各1名であった。
3)BI群、FAI群、BOTH群のBI・FAIの 下位項目の点数が向上している項目は以下であった。BI群は排尿コントロール2名、食事、椅子とベッド間の移乗、整容、階段昇降、更衣各1名であった。FAI群は外出7名、屋外歩行、食事の片づけ、庭仕事各4名、買い物、交通手段の利用各3名、食事の用意、洗濯、趣味各2名であった。BOTH群のBIの向上項目は椅子とベッド間の移乗、トイレ動作、階段昇降各6名、入浴、平地歩行各5名、更衣、排尿コントロール各4名、食事、排便コントロール各1名であった。FAIの向上項目は買い物5名、外出、屋外歩行各4名、食事の用意3名、食事の片づけ、庭仕事、趣味各2名、洗濯、掃除や整頓、交通手段の利用、旅行、仕事各1名であった。
4)活動・参加が改善したBI群、FAI群、BOTH群において第一目標のICFコードがdであった利用者は17名であり、一致率は約58.6%と高い割合であった。
【考察】
今回、訪問リハ初回介入から3カ月間のBI・FAIの合計点の推移、目標設定内容、BI・FAI の向上項目、第一目標との一致率を調査した。
1)BOTH群とFAI群はNOT群よりもそれぞれ有意に年齢が若く、年齢がFAIを向上させる1因子になる可能性が示唆された。
2)BOTH群はFAI群と比較しBI合計点が有意に低く、初回から3カ月間でBIの椅子とベッド間の移乗・トイレ動作・階段昇降が改善し、かつFAIの買い物・外出・屋外歩行が多く改善していた。
3)NOT群は健康に注意することを第一目標にしている利用者が約4割存在した。訪問リハ開始当初は疾患コントロールが活動参加より優先されていた可能性がある。
4)BI群、FAI群、BOTH群では第一目標がICF分類コードの活動と参加に設定されている者が多くみられた。目標設定の活動・参加を明確にすることでBIやFAIが向上しやすい可能性がある。
今後は長期利用者について調査を行い 、ADLやIADLへの効果的な支援方法を検討していきたい。