講演情報
[14-O-L004-02]通所リハ卒業に向けての取り組み~要支援利用者の自立支援を通して~
*渡邉 由香1、角井 美貴1 (1. 東京都 ウエストケアセンター)
要支援利用者の自立支援は介護保険上でも積極的に行うべきものとされているが、実際に機能向上に伴って通所リハを卒業する例は少ない。今回、当通所リハの要支援利用者において、自立支援を目標に機能向上訓練から外出評価等を行った結果、身体機能が向上し公共交通機関での外出が可能となり、卒業に至った。現在も外出を含めた在宅生活を継続できている。今後も利用者の自立支援に向け、卒業を視野にした取り組みを行っていく。
【はじめに】
当施設通所リハは、近隣の通所リハとは異なり、要支援の利用者の受け入れと個別リハビリを実施している。要支援利用者の自立支援は介護保険上でも積極的に行うべきものとされているが、実際に機能向上に伴って通所リハを卒業する例は少ない。
今回、当通所リハの要支援利用者に対し、自立支援を目標として機能向上訓練から外出評価等を行ったところ、卒業に至った例があった為、ここに報告する。
【目的】
要支援利用者の自立支援に向けた取り組みを行い、通所リハの卒業を目指す。
【研究方法】
1.対象症例
1)対象:A氏 60代 男性 要支援2
疾患名:脊柱管狭窄症、頚椎症、
利用開始日:R4.3.18
2)開始前の経過:デイサービスを利用していたが、マシントレーニングを自己流で行い、過度な運動になってしまった結果、右肩を痛めてしまった。自宅では左手の不自由さや左下肢の筋力低下を感じており、外出もうまくいかず、専門の職員がいるところでのリハビリ希望があった為、当通所リハの利用開始となった。
3)開始時のADL:ADLは概ね自立していたが、脊柱管狭窄症、頚椎症の影響により、左上下肢の筋力が弱く、物を落とすことが多かった。支持物なしでの立位は困難であり、自宅内では伝い歩き、屋外では歩行器を使用していた。
4)利用開始時の長期目標
友人との外食や日帰り旅行を安心して楽しむことができる
2.倫理的配慮
個人情報の活用について対象利用者及び関係者から同意を得た上で、当施設倫理委員会からの承認を得た。
【結果】
1.利用経過
1)利用開始時~初回測定終了時(R4.4末)
利用開始時は右肩の痛みが強かったが、過度な運動がなくなったことにより、初回測定終了時には痛みは消失した。運動負荷について主治医に相談の下行うこととし、本人を通じて負荷量を確認しながら運動指導を実施していった。
2) R4.5~R4.9
本人の希望により80Kg以下を目指して減量を開始した。施設での食事も本人の要望により主食半量とおやつの提供を中止とした。自宅での食事摂取についても管理栄養士よりアドバイスをもらい、食事内容に気を付けていた。
この頃より自主トレーニングとして屋内歩行、訓練として屋外歩行を開始。連続歩行は250~300mであった。
3)R4.10~R5.4
主食半量で提供を続けていたが、R4.12より目標体重の80Kgを切るようになった為、減量を終了し、主食全量、おやつの提供も再開した。
R4.10頃より屋外歩行訓練が継続して800~900m行えるようになった。
4)R5.5~R5.9
自宅でも運動ができるように自主トレーニングのメニューを作成、指導した。以前のような過度な運動にならずに実施出来るようになった。R5.7~8は本人の都合により約1ヶ月の利用休止期間があったが、身体機能は維持できていた。
5)R5.10~R6.3
A氏より外出が一人で出来るようになったら卒業したいという希望が聞かれるようになった。この時点で屋外歩行は1.5km程度可能だった。
外出に必要な歩行能力は満たされたと判断し、段差昇降訓練を実施後、バスを利用しての外出評価を実施した。バスの乗降時は乗務員がスロープを出す、歩行器を乗せる等のサービスがあり、本人の動作も含めて問題なく行えることを確認した。
地域ケア会議では卒業に伴い、主治医より引きこもり予防に買い物以外に外出できる場所を見つけた方が良いとの助言があり、地域のサロンに同行したが定着には至らなかった。
目標であった友人との外食は行えるようになり3月末に卒業となった。
R6.6月現在でも自分のペースで在宅生活が出来ており、適宜外出もしている。
2.身体機能の推移
初回介入より目標や希望に合わせて運動指導等の介入を行った結果、身体機能は徐々に改善した。(表1)
初回介入時とR5.10~R6.3での6カ月毎の平均を比較すると、体重が約11Kg減少した。左上下肢機能では握力は約85%増となり、右手とほぼ同程度となった。片脚立位は当初困難であったが16.5秒保持できるまでになり、TUGは所要時間が約64%短縮された。
【考察】
介護保険法第4条は、国民が自ら要介護状態を予防する為に健康の増進に努め、更に有する能力の維持向上に努めることと定めている。また、介護予防の定義は「要介護状態の発生をできる限り防ぐ(遅らせる)こと、そして要介護状態にあってもその悪化をできる限り防ぐこと、さらには軽減を目指すこと」である。
このことから、要支援利用者の自立支援に向けた取り組みをしていくことは、通所リハにおける大きな課題の一つである。
今回のケースは減量や運動指導により身体機能の回復が著明にみられた。また、屋外歩行訓練の距離の延長と利用休止期間も自宅での運動等により身体機能が維持できたことで、自宅での生活に自信がつき、通所リハの卒業につながったと考える。
ただし、卒業後の生活やサービスの利用について不安を抱く利用者は多い。サロン等の地域資源の把握や同行しての参加等、卒業に対し本人の不安が解消できるように支援していく関わりも、場合により必要になると思われる。卒業後も生きがいを持って生活できるような支援ができるよう、今後も努力していきたい。
【結論】
今回、要支援利用者に自立支援を目標として機能向上訓練から外出評価等を行ったことで、通所リハの卒業に至った。今後も利用者の自立支援に向け、卒業を視野にした取り組みを行っていきたい。
参考文献
厚生労働省,「介護予防マニュアル第4版」,2022(2024年2月26日取得,
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000930363.pdf)
運動器科学会,「運動器不安定症」, https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/mads.html
当施設通所リハは、近隣の通所リハとは異なり、要支援の利用者の受け入れと個別リハビリを実施している。要支援利用者の自立支援は介護保険上でも積極的に行うべきものとされているが、実際に機能向上に伴って通所リハを卒業する例は少ない。
今回、当通所リハの要支援利用者に対し、自立支援を目標として機能向上訓練から外出評価等を行ったところ、卒業に至った例があった為、ここに報告する。
【目的】
要支援利用者の自立支援に向けた取り組みを行い、通所リハの卒業を目指す。
【研究方法】
1.対象症例
1)対象:A氏 60代 男性 要支援2
疾患名:脊柱管狭窄症、頚椎症、
利用開始日:R4.3.18
2)開始前の経過:デイサービスを利用していたが、マシントレーニングを自己流で行い、過度な運動になってしまった結果、右肩を痛めてしまった。自宅では左手の不自由さや左下肢の筋力低下を感じており、外出もうまくいかず、専門の職員がいるところでのリハビリ希望があった為、当通所リハの利用開始となった。
3)開始時のADL:ADLは概ね自立していたが、脊柱管狭窄症、頚椎症の影響により、左上下肢の筋力が弱く、物を落とすことが多かった。支持物なしでの立位は困難であり、自宅内では伝い歩き、屋外では歩行器を使用していた。
4)利用開始時の長期目標
友人との外食や日帰り旅行を安心して楽しむことができる
2.倫理的配慮
個人情報の活用について対象利用者及び関係者から同意を得た上で、当施設倫理委員会からの承認を得た。
【結果】
1.利用経過
1)利用開始時~初回測定終了時(R4.4末)
利用開始時は右肩の痛みが強かったが、過度な運動がなくなったことにより、初回測定終了時には痛みは消失した。運動負荷について主治医に相談の下行うこととし、本人を通じて負荷量を確認しながら運動指導を実施していった。
2) R4.5~R4.9
本人の希望により80Kg以下を目指して減量を開始した。施設での食事も本人の要望により主食半量とおやつの提供を中止とした。自宅での食事摂取についても管理栄養士よりアドバイスをもらい、食事内容に気を付けていた。
この頃より自主トレーニングとして屋内歩行、訓練として屋外歩行を開始。連続歩行は250~300mであった。
3)R4.10~R5.4
主食半量で提供を続けていたが、R4.12より目標体重の80Kgを切るようになった為、減量を終了し、主食全量、おやつの提供も再開した。
R4.10頃より屋外歩行訓練が継続して800~900m行えるようになった。
4)R5.5~R5.9
自宅でも運動ができるように自主トレーニングのメニューを作成、指導した。以前のような過度な運動にならずに実施出来るようになった。R5.7~8は本人の都合により約1ヶ月の利用休止期間があったが、身体機能は維持できていた。
5)R5.10~R6.3
A氏より外出が一人で出来るようになったら卒業したいという希望が聞かれるようになった。この時点で屋外歩行は1.5km程度可能だった。
外出に必要な歩行能力は満たされたと判断し、段差昇降訓練を実施後、バスを利用しての外出評価を実施した。バスの乗降時は乗務員がスロープを出す、歩行器を乗せる等のサービスがあり、本人の動作も含めて問題なく行えることを確認した。
地域ケア会議では卒業に伴い、主治医より引きこもり予防に買い物以外に外出できる場所を見つけた方が良いとの助言があり、地域のサロンに同行したが定着には至らなかった。
目標であった友人との外食は行えるようになり3月末に卒業となった。
R6.6月現在でも自分のペースで在宅生活が出来ており、適宜外出もしている。
2.身体機能の推移
初回介入より目標や希望に合わせて運動指導等の介入を行った結果、身体機能は徐々に改善した。(表1)
初回介入時とR5.10~R6.3での6カ月毎の平均を比較すると、体重が約11Kg減少した。左上下肢機能では握力は約85%増となり、右手とほぼ同程度となった。片脚立位は当初困難であったが16.5秒保持できるまでになり、TUGは所要時間が約64%短縮された。
【考察】
介護保険法第4条は、国民が自ら要介護状態を予防する為に健康の増進に努め、更に有する能力の維持向上に努めることと定めている。また、介護予防の定義は「要介護状態の発生をできる限り防ぐ(遅らせる)こと、そして要介護状態にあってもその悪化をできる限り防ぐこと、さらには軽減を目指すこと」である。
このことから、要支援利用者の自立支援に向けた取り組みをしていくことは、通所リハにおける大きな課題の一つである。
今回のケースは減量や運動指導により身体機能の回復が著明にみられた。また、屋外歩行訓練の距離の延長と利用休止期間も自宅での運動等により身体機能が維持できたことで、自宅での生活に自信がつき、通所リハの卒業につながったと考える。
ただし、卒業後の生活やサービスの利用について不安を抱く利用者は多い。サロン等の地域資源の把握や同行しての参加等、卒業に対し本人の不安が解消できるように支援していく関わりも、場合により必要になると思われる。卒業後も生きがいを持って生活できるような支援ができるよう、今後も努力していきたい。
【結論】
今回、要支援利用者に自立支援を目標として機能向上訓練から外出評価等を行ったことで、通所リハの卒業に至った。今後も利用者の自立支援に向け、卒業を視野にした取り組みを行っていきたい。
参考文献
厚生労働省,「介護予防マニュアル第4版」,2022(2024年2月26日取得,
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000930363.pdf)
運動器科学会,「運動器不安定症」, https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/mads.html