講演情報

[14-O-L004-05]SPDCAサイクルによるリハビリテーション会議の必要性もう一度、桜の下を歩きたい

*若山 和貴1 (1. 岐阜県 介護老人保健施設ラポール)
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当通所リハではリハ会議をSPDCAサイクルに沿って行い、個別のニーズに応じたリハビリ目標設定や進捗の確認を行っている。本症例は脳梗塞発症後、集中的なリハビリにて機能回復したが、腰椎圧迫骨折後に活動意欲が低下。しかし、再度目標を設定し訓練を続けた結果、杖歩行で桜並木を散歩するまで回復。リハ会議は多職種と共に包括的アプローチの重要性を示した。
【はじめに】
当通所リハビリテーション(以下、通所リハ)では平成27年度より積極的にリハビリテーション会議(以下、リハ会議)を開催しており、利用者全体(介護予防は除く)の約9割が対象となっている。リハ会議は、利用者、家族、医師、セラピスト、ケアマネジャー、その他サービス関係者等にて構成されており、SPDCA(Survey:調査、Plan:計画、Do:実行、Check:評価、Action:改善)サイクルに沿って個別のニーズに応じたリハビリテーションの目標設定や進捗状況の確認、リハビリ計画の見直しを行い、適切なサービスを提供するためにも重要な場である。今回、医師や訪問リハビリ等と連携を図り利用者の目標達成ができた事例について報告する。
【症例紹介・経過】
K様70歳代女性、要介護3、日常生活自立度A2 、認知症自立度1(令和6年6月現在)
令和元年5月、脳梗塞発症し左片麻痺、左半側空間無視を発症、Y病院へ入院。その後状態が安定したため在宅復帰を視野に当老健へ入所。入所時のバーセルインデックス(以下、BI)は45点で車椅子での生活であるが、集中的なリハビリの実施にてBIは45→60点に改善が見られたため本人希望もあり自宅へ退所、令和元年12月より当通所リハご利用となる。同時に在宅生活における環境整備や家族指導を目的に訪問リハビリテーションも介入となった。
しかし、令和5年5月に胆嚢炎にて手術目的のために入院、入院中に腰椎圧迫骨折発症、同年7月に自宅退院されるも、同年8月に再び胸椎圧迫骨折を発症し入院、疼痛の訴えもあり積極的なリハビリも行えず体動困難にて一時廃用が進行した。ダーメンコルセット作製にてその後は少しづつ離床も可能、疼痛も軽減したため自宅復帰可能となり令和5年9月下旬自宅へ退院も生活意欲の低下やBI60→30点とADLの低下が出現した。
【取り組み】
リハ会議開催件数、令和元年12月から令和6年6月まで計22回実施。
令和元年12月の通所開始時のBIの減点項目である主にトイレ動作や移乗動作の確立がケアプランでも目標となっており、同年12月1回目のリハ会議にて目標であるトイレ動作の自立に向けて通所リハではエルゴメーターやマシンを用いたパワーリハビリなどによる体力や身体機能の改善と、トイレ動作や移乗動作のADL訓練を実施した。また、リハ会議をご自宅開催するにあたり自宅でのトイレ動作の確認を訪問リハスタッフと評価共有し、訓練内容や介助方法についても随時見直しを行った。
令和3年5月10回目のリハ会議開催ころにはトイレ動作が自立レベルまで改善され、不安視されていたトイレ動作に安心感が根付いたことで、医師からも身体的に状態は安定しているので積極的な外出をしてみてはどうか?と助言。夫や家族と一緒に買い物や外食など出かけることが徐々に増えた。
令和4年6月15回目のリハ会議では初回のリハ会議からの目標が達成でき、現状の維持が続いていたことで目標の見直しを図るべく新たなニーズを聴取すると、以前は近くの川沿いにある桜並木を散歩していたから、少しでも杖をついて歩きたいと新たな目標が出現。立位荷重訓練と並行して歩行訓練にも積極的に取り組んだ。
しかし、令和5年5月から入院が続き、活動性や生活意欲・ADLの低下を認め、退院後は日常生活の介助量軽減が通所リハにおいて主の目標であった。骨折後の令和5年9月19回目のリハ会議では再度目標設定を確認し、起居動作のスムースさの改善、トイレ動作の自立、体幹可動域制限による出来なくなった靴の着脱の獲得に向けてADL動作中心の介入となった。徐々に生活動作もBI30→50点と改善が見られたことで、令和5年12月20回目のリハ会議にて歩行について再度検討した結果、医師より骨密度の低下はあるため身体的負担増による疼痛増悪に注意しつつ、無理と最初から決めつけずやれそうなら挑戦してみてはどうか?と助言を頂き、利用者本人より一度諦めた目標であったけどもう一度挑戦したいと意欲の改善が見られ、荷重訓練と4点杖歩行訓練を再開した。ケアマネジャーからも一度は断念した目標を再度掲げ、リハビリに取り組むことが前向きにできるようになって良かった。K様らしいやりたいことが実現できると良いですねと助言もいただき、ケアプランにも具体的な目標として反映することが出来た。
【結果】
令和6年4月にリハ会議兼訪問リハビリにて実際に桜並木の下を介助下ではあるが、杖歩行を実施することができた。何度も桜を見上げて「リハビリを頑張ってきて良かった」「またこうやって歩けるなんて思ってなかった」「ほんと嬉しい、ありがとう」と笑顔が溢れる機会となった。家族からも「最初は歩けるなんて思わなかったけど、会議を何度か経て目標を一つずつ確実に達成できたからこそここまで辿り着けたんじゃないかな」との意見を頂くことができた。大きな目標が達成できたことで、今では生活意欲が更に向上し卓上IHクッキングヒーターでの調理にも挑戦中である。
【考察】
リハ会議を通じて、利用者の具体的なニーズに応じた目標設定と計画の立案・実施は、利用者の状態や環境によって常に見直しの必要性があり、適切な目標を掲げ共有することでリハビリテーション成果に大きく貢献することが示された。本事例は、利用者中心の包括的なアプローチと情報交換や課題の提示の重要性を強調している。この事例を通して決して諦めないこと「やればできる」を学ぶ貴重な経験となった。今後もその人らしい暮らしを支援するためにも多職種によるリハビリテーションマネジメントSPDCAサイクルの強化に努めていく。