講演情報

[14-O-L005-02]反応速度は片脚立位に代わる指標となるのか~スープリュームビジョンを使用した取り組み~

*長野 由起子1、中村 裕1、今池 有貴1、深川 真由1、新井 寛都1 (1. 大分県 医療法人 信和会 介護老人保健施設 和光園)
PDFダウンロードPDFダウンロード
当施設では要支援者の転倒リスクを把握するため, 毎月筋力, バランス能力, 歩行能力等の評価を行っている. しかし,開眼片脚立位保持時間測定(以下片脚立位)においては実施困難な対象者も多い.片脚立位に代わる指標としてスープリュームビジョン(以下SV)を使用した反応速度を用いることに着目し,TUG,片脚立位,転倒歴との関連性を検証した.その結果,一定の傾向を見出し,SV指標を定めたことを報告する.
【はじめに】高齢者の転倒は骨折や頭部外傷等に繋がりやすく,それが原因となり介護が必要な状態になることもある.内閣府令和4年版高齢社会白書によると要介護要因の13%は転倒・骨折であり,認知症や脳血管障害と並び主要な要因となっている.自立した生活を長く行うには転倒予防は不可欠である.
当施設では要支援者の転倒リスクを把握するため,日本整形外科学会の運動器不安定症の運動機能評価基準を参考に毎月筋力,バランス能力,歩行能力等の評価を行っている.しかし,開眼片脚立位保持時間測定(以下片脚立位)においては実施困難な対象者も多く,状態の変化を追えない現状がある.そこで片脚立位に代わる指標として反応速度を用いることに着目した.当施設にて令和5年6月に導入した動体視力機器で反応速度を評価し,Timed up & Go Test(以下TUG),片脚立位,転倒歴との関連性を検証した.その結果,一定の傾向を見出せたことを報告する.
【対象】当施設通所リハビリの要支援利用者20名(男性2名.女性18名).重篤な合併症は無く,自力での立位保持が可能な方とした.評価開始時年齢82.5±13.5歳,認知機能検査 長谷川式認知症スケール:23.5±6.5点,Mini Mental State Examination:24.5±5.5点.
【方法】令和5年11月から令和6年5月までの7カ月間毎月片脚立位とTUG,反応速度検査を実施した.反応速度検査はセノー社製スープリュームビジョン(以下SV)を使用.30秒間に点灯する数字を押せる回数を測定した.検査は各2回実施しTUGは最短時間,片脚立位は左右いずれかの最短時間,SVは最高回数の値を採用した.また,評価期間内の転倒の有無について本人,家族からの聞き取りを行った.
日本整形外科学会の運動器不安定症の運動機能評価基準を参考に片脚立位保持は0~5秒を危険,6~15秒を要注意,16秒以上を問題なし,TUGは13秒以上を危険,11~13秒を要注意,11秒以下を問題なしとした.それに転倒あり,なしを加えた8つの項目とSVの反応速度の関連性を検証した.
【結果】8つの項目に該当するそれぞれの平均値を算出した.反応速度は危険,要注意,問題なしの順に片脚立位では0.95,0.91,0.74,TUGでは0.94,0.88,0.63,転倒歴ありは0.97,なしは0.87であった.反応速度とSV回数の傾向から,転倒に対するSVの回数指標を32回以下は危険,33~40回は要注意,40回以上は問題なしとした.転倒歴なしの中には転倒はないが不安を感じている対象者も見られた為,要注意のカテゴリに分類した.
【考察】片脚立位,TUGが危険,転倒歴ありの反応速度は遅く,片脚立位,TUGが問題なく,転倒歴なしの反応速度は速い傾向が見られた.小山ら1)は「バランス能力に問題が生じる場合は,筋力や姿勢保持能力のみならず反応速度も影響していることは明らかである」としている.小山らの研究では反応速度をジャンプで測定しており方法は異なるが,SVを使用した反応速度においても,バランス能力に必要な他の要素と比較し一定の傾向があることが分かった.しかし,今回はサンプル数が少なく,反応速度が片脚立位に代わり転倒リスクを把握できる指標になるという断定まではできなかった.
小山らの研究では,転倒あり・なし群の反応速度の時間差は0.25秒に対し,SV指標での転倒リスクあり・なし群での差は0.28秒であった.測定方法は異なるものの反応速度を転倒リスクの指標にする上では0.25秒という時間差がおおよその目安になるのではないか.これらのことから今回定めたSV指標は転倒リスクを把握する上での一つの判断材料になるのではないかと考える.
【結語】SVを使用した反応速度からと片脚立位,TUG,転倒歴との相関を検証し,転倒リスクの一定の傾向を見出した.結果からSV回数が32以下は転倒の危険性が高く,33~40は転倒への注意が必要,40以上は転倒の危険性は現状では低いことが考えられた.今後サンプル数を増やし,当施設の転倒リスク把握の一指標として反応速度(SV回数)を活用できるように検証を継続していきたい.また,SVを訓練としても活用し,実施回数の変化と転倒の頻度の関連性についても検証できればと考えている.
【引用文献】1)小山沙也夏、太田尾浩、宮原洋八・他:転倒する地域在住女性高齢者の反応速度は遅い.理学療法さが,2017,3(1):37-41.