講演情報
[14-O-L005-03]自宅での生活範囲の拡大を目指して
*右下 大輔1、田村 光春1 (1. 兵庫県 介護老人保健施設ウエルハウス清和台、2. 介護老人保健施設ウエルハウス清和台)
通所リハビリの利用者に自宅での自主練習を提供し定着を図った。またそこから生活範囲に変化があったかを調査したので報告する。生活の変化については、日本理学療法士協会が作成したElderlyStatusAsessment Set(E-SAS)を使用して3名の利用者を評価した。結果、自主練習が定着した利用者は生活範囲も拡大した。自主練習の定着から生活動作の自信に繋がり、生活範囲が拡大したと考えられた。
はじめに 通所リハビリの利用者に自宅生活を聴取すると、「寝ていることが多い。」「あまり動かない。」と発言される事が多く、普段の生活で運動の機会が少ないと加齢と共に筋力低下は進行し活動範囲も狭くなると考えられる。そこで、自宅内で行う自主練習を提供し、運動習慣を定着させ生活範囲が拡大するように取り組んだのでここで報告する。1.研究方法1.研究期間:2023年9月1日~11月30日2.対象者:通所リハビリから3名選出。 年齢 介護度 疾患A氏(男) 87 要介護1 ラクナ梗塞B氏(女) 83 要介護2 パーキンソン病C氏(男) 95 要介護3 糖尿病3.目標A氏 :息子の送迎でコーラスに通いたい。車の乗り降りやコーラス会場まで杖で安全に歩きたい。新しく囲碁クラブに参加したい。(駐車場から会場まで約50m程度) B氏:自宅内の歩行が安定することで、離床時間を増やしたい。C氏:歯医者まで、家族同伴で歩いて通う。バスの乗車や10段の階段があり段差昇降が必要。4.自主練習メニュー(各10分程度で設定)A氏:座位・立位の下肢筋力増強練習B氏:下肢・体幹の筋力強化練習。立ち上がり動作練習。固縮予防のストレッチ。C氏:重錘を使用しての立位練習。5. Key personA氏:息子(同居)B氏:夫(同居。高齢の為に介助が難しい)C氏:長男嫁(同居)6.分析方法身体機能向上だけでなく、地域生活の営みを評価するアセスメントセット1)の、日本理学療法士協会が作成したElderlyStatusAsessment Set(以下E-SAS)を使用した。評価項目は、(1)生活のひろがり(2)ころばない自信(3)自宅での入浴動作(4)歩く力(Timed Up&Go Testで評価)(5)休まず歩ける距離(6)人とのつながり、に分かれている。自主練習提供前に対象者に聴取を行い点数付けた。提供後はカレンダーを用いて継続できるようにフォローを行う。家族からも可能な範囲で協力を得た。毎月の点数の変動はグラフ化して利用者に提示し変化点やアドバイスを行った。2.論理的配慮研究にあたり、対象者には個人が特定されないようにプライバシーを守る事、研究で得た情報は研究以外で使用しない事を本人・家族に説明して了承を得た。3.結果(著明な変更点・着目部分)生活のひろがり(120点満点) A氏 B氏 C氏初回 2 8 19.5中間 16 8 43.5最終 21 8 43.5人との繋がり(30点満点) A氏 B氏 C氏初回 15 1 11中間 15 1 11最終 15 1 11自主練習の頻度 A氏 B氏 C氏初回 3回/週 7回/週 7回/週最終 6~7回/週 1~2/週 7回/週目標の進捗A氏:コーラスは息子同伴で車から会場まで杖歩行で通える。家族の送迎協力が得られず囲碁クラブには通えていない。B氏:離床してリビングまでは独歩で移動。自宅での活動量に変化は見られない。C氏:家族同伴し歯科受診が行える。杖歩行でバス停へ移動する。ステップ乗車、階段昇降は見守りで行う。4.考察A氏・C氏は具体的な目標設定があり自主練習に反映できた。またE-SASを用いながら問題点を再確認し聴取した内容は自主練習や通所リハビリの訓練内容へ反映させた。目標達成まで繰り返すことで最後まで自主練習の意欲が維持した。家族協力がある事で自主練習が運動習慣として身についた。そして自信に繋がり生活範囲も拡大したと考える。B氏も自主練習を提供したが、歩行の安定がゴールで、身体機能向上後どのように活動範囲を拡大するか不明瞭で、自主練習の意欲が維持できず徐々に回数が減少した。また家族協力を得る働きかけも不十分で、運動習慣の定着に至らなかった。その為、自信にも繋がらず生活範囲も大きく変化しなかったと考える。またE-SASの「人とのつながり」も、B氏は他利用者に比べて点数が低い。荘村1)らは「リハビリテーションの目標はADLの向上にとどまらない。QOLの向上、例えば、仲間と楽しい時間をすごせるようになる、自分なりに少しでも充実した時間をすごせるようになるといった事柄も、重要な課題である。」と述べている。活動や他者との交流に消極的な利用者に自宅での運動を促しても定着は難しい。家族や多職種と連携を図りつつ、本人が少しでも自宅での活動量向上に意欲が持てるように調整することも重要である。おわりに具体的な目標設定があり家族からの協力が得られる利用者は、目標到達に向けて自主練習を継続して生活範囲の拡大を目指しやすい。しかし目標が漫然して家族への働き掛けも不十分では自主練習も定着しにくい。その為カンファレンスの場などを活用して、活動範囲を拡大できるかを家族や多職種とも一緒に話し合い、その内容を訓練に反映させていく事が必要と感じた。参考文献1)半田 一登:バランスがとれた身体機能・活動・参加に向けた 理学療法の役割、公益社団法人 日本理学療法士協会 引用文献1)荘村多加志:リハビリテーション論中央法規出版(株),P126