講演情報

[14-O-L005-04]転倒予防におけるトランクソリューションの使用効果身体機能と転倒恐怖感、外出頻度に着目して

*中野 隆造1、福田 大二郎1、高須 美希1 (1. 愛知県 岡崎老人保健施設スクエアガーデン)
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通所リハビリ利用者に対してトランクソリューション(以下TS)を使用し訓練を行った際の使用結果について報告する。TS使用前後での身体機能、転倒恐怖感、外出頻度の変化について比較した。その結果、全項目で向上がみられた。一方、例数が少なく有意差は出なかったが、結果から身体機能の変化が転倒恐怖感や外出頻度に関与する可能性が示唆された。今後、多くの対象者で転倒予防に活用したい。
【はじめに】
 高齢者は加齢や疾患により胸腰椎の後弯や骨盤後傾の姿勢変化が生じやすく、これにより歩行能力やバランス能力が低下し転倒のリスクが高まる。高齢者の転倒はQOLのみならず生命予後に影響を与えることから、転倒予防は高齢社会における重要な課題である。当通所リハビリテーション(以下リハビリ)では、身体機能向上、転倒予防を目的にトランクソリューション(以下TS)を使用した訓練を実施している。TSは、装着して歩行することで、骨盤を前傾させ、胸腰椎を伸展し、腹部インナーマッスルの活動を促す体幹訓練機器である。TSの着用後には、腹横筋の賦活が見られ歩行速度やバランス能力の改善効果が報告されている。
 また、転倒と関連する心理的問題として、転倒恐怖感が注目されており、転倒恐怖感が強い人ほど外出頻度が減少し、廃用に陥りやすく、加えて歩行速度、バランス能力および下肢筋力などの身体機能が低下していると報告されている。転倒予防の観点から、転倒恐怖感を軽減する介入の必要性が高まっている。転倒恐怖感を評価する指標としてthe Modified Falls Efficacy Scale(以下MFES)が使用されている。MFESは妥当性が高い転倒恐怖評価ツールであり、MFESのスコアが低い人ほど歩行速度が遅くなり、これが転倒リスクの増加と強く関連していることが報告されている。今回、TSの使用により歩行速度やバランス能力を向上させることができれば、転倒予防の促進や転倒恐怖感の軽減、外出頻度の増加が期待されると考えた。
 しかし、生活期高齢者に対する低頻度で持続したTS使用効果に関する報告は少ない。ある通所リハビリでは散歩や付き添い歩行、徒手的訓練を中心としたリハビリ内容においては、生活期高齢者の歩行状態を改善することは難しいという報告がされている。当通所リハビリ利用者は平均週1~2回の利用であり、TSの有用性を検証することは重要な課題である。以上よりTSを用いた歩行訓練の介入効果を身体機能、転倒恐怖感、外出頻度に着目して検証した。
【事例紹介】
 事例1:女性 要介護1 主病:腰椎圧迫骨折 利用歴:3年 利用頻度:週2回 HDS-R:20点 過去1年間での転倒歴:あり ADL:独歩にて自立しているが自宅での活動量は少ない。利用時はシルバーカーを使用。
 事例2:男性 要介護1 主病:脳梗塞 利用歴:3ヶ月(退院後まもなく利用開始) 利用頻度:週2回 過去1年間での転倒歴:あり HDS-R:29点 ADL:T字杖にて自立しているが、退院後は転倒の不安から自宅以外での活動を控えていた。
【方法】
 事例1:徒手的療法、運動療法を中心に15分、歩行5分(以下A期)を8週間、A期の歩行時にTSを使用した内容(以下B期)を8週間実施した。 評価項目:(1)片脚立位時間、(2)快適10m歩行テスト、(3)胸椎後弯測定(第7頸椎と壁からの距離)。評価は各期前後の訓練前に実施した。
 事例2:徒手的療法、運動療法を中心に30分、歩行10分(以下A期)を4週間、A期の歩行時にTSを使用した内容(以下B期)を4週間実施した。 評価項目:(1)Short Physical Performance Battery(以下SPPB)内容はタンデム立位、4m歩行、5回椅子立ち上がりテストである。(2)350m屋外歩行時間、(3)MFES、(4)外出頻度(各期間の1週間外出回数の平均を調査。ただし通院、通所リハビリ利用の回数を除いた通院除外法にて調査を実施した。また、自宅周辺の散歩も外出としてカウントした)。評価は各期前後の訓練前に実施した[評価(4)に関しては毎利用日に聴取した]。
【結果】
 事例1
 (1)片脚立位時間:A期 4.1秒 → B期 14.1秒
 (2)快適10m歩行テスト:A期 15.3秒(20歩) → B期 10.6秒(15歩)
 (3)胸椎後弯測定(第7頸椎と壁からの距離):A期 23.5cm → B期 18.4cm
 事例2
 (1)SPPB: A期 7点 → B期 10点
 タンデム肢位:A期 0秒 → B期 5.86秒
 4m歩行:A期 5.0秒(11歩) → B期 3.9秒(8歩)
 5回立ち上がり:A期 15.5秒 → B期 11.3秒
 (2)350m屋外歩行:A期 9分52秒 → B期 7分35秒
 (3)MFES:A期 82点 → B期 101点
 (4)外出頻度:A期 週1.25回 → B期 週4.25回
 外出頻度の内訳:A期 自宅周辺の散歩1往復 → B期 自宅周辺の散歩2往復、お墓参り、コンビニ
【考察】
 今回の検証では、徒手的療法、運動療法に加えTSを使用した歩行により、歩行速度やバランス能力の向上が確認された。先行研究にあるようにTSを使用したことで骨盤の前傾、胸腰椎の伸展、腹部インナーマッスルの活動が促され、腹横筋が賦活されたことが影響していると考えられる。また、事例2では歩行速度、バランス能力に加えMFESの点数増加、外出頻度の増加が確認された。転倒者や外出を控える人の特徴として下肢筋力や移動能力、バランス能力の低下が報告されている。今回、歩行速度、バランス能力に変化があったことで、転倒恐怖感の減少、外出頻度が増加した可能性が考えられる。
 一方、事例2は退院後という背景から慎重に生活しており外出頻度が少なかったが、徐々に生活に慣れ外出頻度が増加、転倒恐怖感の減少につながった可能性も考えられる。したがって、身体機能の向上が転倒恐怖感の減少を引き起こしたと断定するには至らない。しかし、今回の結果をポジティブに捉え今後も継続的に検証を行い、身体機能、転倒恐怖感、外出頻度の関係について考察を深めていきたい。
 また、今回の検証はシングルケースであり、正確な有意差を見出すことは困難であった。今後、複数の症例での介入効果を検証し、更なる検証を通じて利用者の転倒予防に努めていきたい。