講演情報
[14-O-L005-08]同居家族の有無が認知機能及び活動性に与える影響
*山本 勝智1 (1. 千葉県 介護老人保健施設フェルマータ船橋)
同居家族の有無が認知機能及び活動性にどの様な影響を与えるのか明らかにする事とした。当施設通所リハの利用者を独居群と同居群に分け、TUG、HDS-R、FAI、利用率の1年間の経時的変化及び群間の差を比較した結果、独居群においてHDS-RとFAIの有意な低下を示した。家族やケアマネジャーへの情報共有やサービス調整をする事で状態変化に対する気付きや認知機能低下を予防し、在宅生活を継続していく一助となると考える。
【はじめに】
当施設が所在する船橋市の高齢化率は24.3%と高く、全国平均の29.1%と比較しても高い水準を示している。課題として高齢夫婦のみで生活する世帯や独居世帯は年々増加しており、今後も増加していくと予測される。
高齢者において、認知症は介護が必要となる主な原因の一つであり認知機能の維持・改善は在宅生活を継続する上で重要な課題の1つとされている。また、在宅リハビリテーションに求められる役割として、地域在住高齢者の障害予防や社会参加への支援が挙げられており、これまでにも認知機能の維持・改善には週3回程度の運動療法の実施や、適切な食事摂取や栄養補助食品を用いた栄養状態の改善、社会参加への取り組みが有用との報告は散見される。しかし、家族や社会資源を含む他者との関わりが認知機能及び活動性へ与える影響を報告しているものは渉猟し得た限り少ない。
【目的】
本研究では同居生活を送る高齢者と独居生活を送る高齢者の1年間を比較し、認知機能や手段的日常生活動作(Instrumental Activities of Daily Living;IADL)にどのような影響を与えるのかを明らかにする事とした。
【対象】
令和3年1月から令和6年1月の3年間の内に当施設通所リハビリテーション(以下;通所リハ)の利用を開始し、1年間経過を追う事が出来た要介護認定者86名とした。内訳は男性43名、女性43名とした。除外基準は評価が実施出来なかった者、体調不良等の理由で利用を評価期間中1か月以上休止した者とした。
【方法】
対象者のうち、独居生活を送っている群(以下;独居群)と同居生活を送っている群(以下;同居群)の2群に分けた。内訳は独居群29名(男性6名、女性23名、平均年齢81.34±7.07歳、平均介護度1.98±0.97)、同居群57名(男性37名、女性20名、平均年齢81.83±8.32歳、平均介護度1.59±0.81)とした。
評価項目はTime up & GO test(以下;TUG)、長谷川式簡易知能評価スケール(以下;HDS-R)、Frenchay Activities index(以下;FAI)、利用率とした。利用率は評価期間内の利用日数を利用予定日で除した値とした。
評価時期は利用開始時、3か月後、6か月後、12か月後の4期とし、それぞれ評価項目の経時的変化及び群間の差を比較した。統計解析はRコマンダー4.4.0の分割プロット分散分析を用い、有意水準は5%未満とした。
【結果】
TUGの利用開始時、3か月後、6か月後、12か月後において、独居群では17.01秒、16.15秒、16.04秒、16.90秒で有意差は認めなかった。同居群では20.96秒、18.95秒、19.42秒、20.15秒で有意差は認めなかった。また、群間の差においても有意差は認めなかった。
HDS-Rの利用開始時、3か月後、6か月後、12か月後において、独居群では25.76点、26.34点、25.90点、21.72点で3か月後と12か月後間、6か月後と12か月後間でそれぞれ有意差を認めた(p<0.01)。同居群では23.82点、24.46点、24.35点、24.53点で有意差は認めなかった。また、群間の差においても有意差は認めなかった。
FAIの利用開始時、3か月後、6か月後、12か月後において、独居群では18.72点、20.17点、20.17点、17.83点で3か月後と12か月後間、6か月後と12か月後間でそれぞれ有意差を認めた(p<0.01)。同居群は10.44点、12.72点、12.77点、12.40点で有意差は認めなかった。また、群間の差では全評価時期で独居群が優位に高値を示した(p<0.01)。
利用率の利用開始時、3か月後、6か月後、12か月後において、独居群では87.83%、83.77%、80.40%、80.16%で有意差は認めなかった。同居群では85.06%、82.01%、80.27%、80.58%で有意差は認めなかった。また、群間の差においても有意差は認めなかった。
【考察】
TUGにおいて2群間に差が認められなかった事から、身体機能には差がなかったと考えられる。また、FAIにおいて全評価期間を通し独居群の方が優位に高値を示した。生活を送る上で必要な家事や外出等を自身で行わなくてはならない為、結果的に高値を示したと考えられる。逆に同居群の場合は、各自家庭内での役割分担や、本人が行わずとも家族が担ってくれる事で実際の出来る能力よりも数値が低くなっている事が予想される。
一方、経時的変化において独居群ではHDS-RとFAIの項目で3か月後と12か月後間及び6か月後と12か月後間で有意な低下が認められた。先行研究にて山下らは、独居世帯群では同居世帯群と比較して認知機能の低下が認められたと報告しており、本研究の結果からも独居生活を送る高齢者は同居家族がいる高齢者よりも認知機能やIADLが低下していく事が予想される。将来的に在宅生活の継続が困難になる事が危惧されるが認知機能やIADLの変化は本人には自覚しにくい為、家族やケアマネジャーに対しても周知を促し、状態の変化を早期発見する事で進行を予防していく必要があると考える。
また、独居群の利用率の経時的変化において、有意差は認められなかったものの利用開始時から12か月後を比較すると低下傾向を示しており、認知機能の低下も相まって将来的に引きこもりに繋がる可能性が考えられる。そこでサービスの提案として引きこもりの防止や他者とのコミュニケーションを目的とした通所介護や地域サロン等への参加が挙げられる。また、就労や遠方に在住しており自宅に通う事が困難な家族に対しては、情報通信技術(Information and Communication Technology;ICT)の活用の提案も有用となる。五代らは、ICTを用いた群と用いていない群を比較すると、特に80歳以上の高齢者でICTを用いた群は有意に社会的孤立度が低く認知機能の低下が少なかったと報告している事から、独居生活を送る高齢者であってもICTを活用する事で日常的に家族とのコミュニケーションが図れ、日々の状態の変化に対する気付きに繋がるとともに認知機能の低下を予防し在宅生活を継続していく一助となると考える。
当施設が所在する船橋市の高齢化率は24.3%と高く、全国平均の29.1%と比較しても高い水準を示している。課題として高齢夫婦のみで生活する世帯や独居世帯は年々増加しており、今後も増加していくと予測される。
高齢者において、認知症は介護が必要となる主な原因の一つであり認知機能の維持・改善は在宅生活を継続する上で重要な課題の1つとされている。また、在宅リハビリテーションに求められる役割として、地域在住高齢者の障害予防や社会参加への支援が挙げられており、これまでにも認知機能の維持・改善には週3回程度の運動療法の実施や、適切な食事摂取や栄養補助食品を用いた栄養状態の改善、社会参加への取り組みが有用との報告は散見される。しかし、家族や社会資源を含む他者との関わりが認知機能及び活動性へ与える影響を報告しているものは渉猟し得た限り少ない。
【目的】
本研究では同居生活を送る高齢者と独居生活を送る高齢者の1年間を比較し、認知機能や手段的日常生活動作(Instrumental Activities of Daily Living;IADL)にどのような影響を与えるのかを明らかにする事とした。
【対象】
令和3年1月から令和6年1月の3年間の内に当施設通所リハビリテーション(以下;通所リハ)の利用を開始し、1年間経過を追う事が出来た要介護認定者86名とした。内訳は男性43名、女性43名とした。除外基準は評価が実施出来なかった者、体調不良等の理由で利用を評価期間中1か月以上休止した者とした。
【方法】
対象者のうち、独居生活を送っている群(以下;独居群)と同居生活を送っている群(以下;同居群)の2群に分けた。内訳は独居群29名(男性6名、女性23名、平均年齢81.34±7.07歳、平均介護度1.98±0.97)、同居群57名(男性37名、女性20名、平均年齢81.83±8.32歳、平均介護度1.59±0.81)とした。
評価項目はTime up & GO test(以下;TUG)、長谷川式簡易知能評価スケール(以下;HDS-R)、Frenchay Activities index(以下;FAI)、利用率とした。利用率は評価期間内の利用日数を利用予定日で除した値とした。
評価時期は利用開始時、3か月後、6か月後、12か月後の4期とし、それぞれ評価項目の経時的変化及び群間の差を比較した。統計解析はRコマンダー4.4.0の分割プロット分散分析を用い、有意水準は5%未満とした。
【結果】
TUGの利用開始時、3か月後、6か月後、12か月後において、独居群では17.01秒、16.15秒、16.04秒、16.90秒で有意差は認めなかった。同居群では20.96秒、18.95秒、19.42秒、20.15秒で有意差は認めなかった。また、群間の差においても有意差は認めなかった。
HDS-Rの利用開始時、3か月後、6か月後、12か月後において、独居群では25.76点、26.34点、25.90点、21.72点で3か月後と12か月後間、6か月後と12か月後間でそれぞれ有意差を認めた(p<0.01)。同居群では23.82点、24.46点、24.35点、24.53点で有意差は認めなかった。また、群間の差においても有意差は認めなかった。
FAIの利用開始時、3か月後、6か月後、12か月後において、独居群では18.72点、20.17点、20.17点、17.83点で3か月後と12か月後間、6か月後と12か月後間でそれぞれ有意差を認めた(p<0.01)。同居群は10.44点、12.72点、12.77点、12.40点で有意差は認めなかった。また、群間の差では全評価時期で独居群が優位に高値を示した(p<0.01)。
利用率の利用開始時、3か月後、6か月後、12か月後において、独居群では87.83%、83.77%、80.40%、80.16%で有意差は認めなかった。同居群では85.06%、82.01%、80.27%、80.58%で有意差は認めなかった。また、群間の差においても有意差は認めなかった。
【考察】
TUGにおいて2群間に差が認められなかった事から、身体機能には差がなかったと考えられる。また、FAIにおいて全評価期間を通し独居群の方が優位に高値を示した。生活を送る上で必要な家事や外出等を自身で行わなくてはならない為、結果的に高値を示したと考えられる。逆に同居群の場合は、各自家庭内での役割分担や、本人が行わずとも家族が担ってくれる事で実際の出来る能力よりも数値が低くなっている事が予想される。
一方、経時的変化において独居群ではHDS-RとFAIの項目で3か月後と12か月後間及び6か月後と12か月後間で有意な低下が認められた。先行研究にて山下らは、独居世帯群では同居世帯群と比較して認知機能の低下が認められたと報告しており、本研究の結果からも独居生活を送る高齢者は同居家族がいる高齢者よりも認知機能やIADLが低下していく事が予想される。将来的に在宅生活の継続が困難になる事が危惧されるが認知機能やIADLの変化は本人には自覚しにくい為、家族やケアマネジャーに対しても周知を促し、状態の変化を早期発見する事で進行を予防していく必要があると考える。
また、独居群の利用率の経時的変化において、有意差は認められなかったものの利用開始時から12か月後を比較すると低下傾向を示しており、認知機能の低下も相まって将来的に引きこもりに繋がる可能性が考えられる。そこでサービスの提案として引きこもりの防止や他者とのコミュニケーションを目的とした通所介護や地域サロン等への参加が挙げられる。また、就労や遠方に在住しており自宅に通う事が困難な家族に対しては、情報通信技術(Information and Communication Technology;ICT)の活用の提案も有用となる。五代らは、ICTを用いた群と用いていない群を比較すると、特に80歳以上の高齢者でICTを用いた群は有意に社会的孤立度が低く認知機能の低下が少なかったと報告している事から、独居生活を送る高齢者であってもICTを活用する事で日常的に家族とのコミュニケーションが図れ、日々の状態の変化に対する気付きに繋がるとともに認知機能の低下を予防し在宅生活を継続していく一助となると考える。