講演情報
[14-O-L005-09]自分で目標を設定したリハビリがもたらす意欲と幸福感
*大野 史恵1、吉田 淳子1、山岡 明治1 (1. 神奈川県 介護老人保健施設 野比苑)
通所リハビリテーション(以後デイケア)に通うご利用者にはそれぞれに通ってくるまでの異なる境遇とデイケアを利用する目的があります。今回、お元気で他者との交流を楽しまれていた方が突然原因不明の歩行困難となり、当施設を利用開始となった方がいます。その方がデイケアの中でどのようにして回復していったかを通して、デイケアの意義と今後の取り組みのあり方を考察したので報告します。
【はじめに】
リハビリにおいて意欲があるかどうかは、取り組みを継続していく上で非常に重要な役割を持つ。意欲は前向きな気持ちにさせ、潜在的に持っている力を引き出す。健康に支障をきたし不安を抱えながらも、その不安に職員も寄り添う事により自分で目標を設定し、体調の変化に伴い目標も変わっていく中で亡くなられる直前まで通所リハビリテーション(以下 デイケア)に通い、意欲的にリハビリに取り組んだ症例を報告する。
【利用者紹介と経過】
90歳の男性T氏。要介護3、既往歴に陳旧性脳梗塞(1998年、麻痺症状無し)と心房細動。お元気な頃は全国の郵便局巡りを趣味とされ、先々で出会う方々との交流を楽しまれていた。だが突然歩行困難となり救急搬送された。検査をするが原因不明で、メンタルによるものではないかとの診断が出た。
デイケア利用にあたりご本人の目標をお聞きしたところ、「庭に出られるようになりたい。100歳まで元気でいたい」と言われた。目標に沿うように歩行訓練のリハビリを中心に、家でほとんど入っていなかった入浴の実施、さらに他者との交流を目的としたプランを挙げて週に1回のデイケアの利用が始まった。利用開始1年後に要介護1になった。日数を追加したいと申し入れがあり、同時期に週に2回に増やした。
2回に増やして間もなく体調不良となり、1年2か月後に食道癌と診断された後は急激に体調が悪化され固形物が食べられなくなった。しかし、ご本人の強い意志でお亡くなりになる2週間前(1年4か月後)までデイケアに通われた。
【方法】
1.入浴
入浴に慣れる為、初めは車椅子利用の機械浴を利用した。歩行が安定してきた頃に一般浴に誘うが気が進まない様子だった。そこで機械浴の気泡の入浴が気に入っていたので、一般浴もジャグジーのお風呂にしたところ喜ばれ、毎回の入浴を楽しみにするようになった。
体調不良後
体の負担を少なくする為に車椅子を利用したシャワー浴とした。
2.歩行練習
勉強熱心な方で、新聞からフレイルの記事を見つけてフレイル状態から脱する事を自身の目標として、独歩での歩行を自分で設定され行われた。施設内の廊下を午前・午後に5往復ずつ、距離にして約2km歩いた。
体調不良後
食事と入浴以外は臥床している事が多かったが、医師からデイケア利用を中止と言われる数日前にはご本人よりリハビリがしたいと言われ、理学療法士によるマッサージおよびサークル歩行器で約7m歩行された。
3.他利用者との交流
利用開始から1年後に週2回に増やした。追加した曜日では自ら進んで自己紹介をされた。「孫の写真を持ってきて職員や利用者にも見せて欲しい」とご本人にお願いしたところ、写真を持参され他の利用者と笑顔で会話が弾むようになった。
お誕生日会では「来年生まれるひ孫の為にも、100歳までデイケアに通って元気でいられるように頑張りたい」と話された。
体調不良後
来所されてもほとんど臥床して過ごしていた為、他の利用者が心配し交代で傍に来て話をしていた。とても嬉しそうに笑顔で会話をされていた。職員によるピアノ演奏の歌唱の時には、起き上がって席に戻り笑顔で歌われていた。
4.食事
常食から開始した。
体調不良後
利用開始1年後、胃の調子が悪くなり食事が5割しか食べられなくなった。
1年1か月後、塩味が分かりにくいと訴えた。さらに胃の調子が悪いとの訴えが続く為お粥に変更した。始めは主食全量・副食2割ほど摂取するが、次の利用では主食1割・副食1割となった。
1年2か月後、食べ物が飲み込みにくいと言われ、管理栄養士と相談しミキサー食とした。食事量はミキサー食の主食1割・副食4割であった。検査入院後、ご本人から食道癌だと伝えられた。その後在宅医療となり経口流動食が処方された。
1年3か月後から食事は拒否されるようになってきた。
5.送迎
利用開始から送迎車まで自分で歩行され席に座られていた。
体調不良後
車椅子のまま乗られる席にした。自宅の玄関まで床を寝そべりながら移動し横になって待っていた。職員の呼びかけに「野比苑に行きますよ」としっかり答えられ、2人介助で車椅子に移乗した。
【結果】
T氏は熱心に施設の廊下を歩いて歩行訓練の自主トレを取り組まれた。筋力が向上し歩行が改善された。利用1年で要介護3から1に変更になった。また、人との積極的な交流もあり楽しく過ごされたと思われる。ケアマネージャーから「大好きな野比苑に最後まで通えてご本人も幸せだったと思いますよ」とお話を頂いた。歩くのが好きで、人との関わり合いが大好きだったT氏。デイケアはT氏の生活の一部となり、楽しみの目標になっていたと思われた。
【考察】
食道癌が発症し日を追うごとに体調不良となる中で、デイケアに来て楽しいという気持ちが途切れないように、職員全員がご本人と常に対話し日々の心身の状態を把握するように努めた。大好きなお孫さんの写真を毎回持参されていたので、「また見せて下さいね」と話し次回の利用に繋げる約束もした。歩けなくなると、食事とトイレ以外は「横になって休んで大丈夫ですよ。他の利用者と同じ行動をする必要はありませんよ」と個別対応で安心して過ごして頂くようにした。
さらにその都度、他部署と連携し心身の状況に合わせ早めの対応をとるよう心掛けた事も、ご本人の潜在的な意欲を引き出したと考えられえる。
積極的に自主歩行練習に取り組まれる利用者がいる一方で、声を掛けても体の不調を訴えたり意欲が低下したりしていて、リハビリに消極的な利用者もいます。
自主的に歩行練習をしている利用者は、日帰りバスツアーに参加したいなど具体的な目標を持っている。自分自身の目標がある事は意欲向上につながると考えられる。
これからも利用者の潜在的なやる気を引き出すように身体面や気持ちに寄り添い、他部署と連携を取り利用者に合った対策を考えていきたい。
リハビリにおいて意欲があるかどうかは、取り組みを継続していく上で非常に重要な役割を持つ。意欲は前向きな気持ちにさせ、潜在的に持っている力を引き出す。健康に支障をきたし不安を抱えながらも、その不安に職員も寄り添う事により自分で目標を設定し、体調の変化に伴い目標も変わっていく中で亡くなられる直前まで通所リハビリテーション(以下 デイケア)に通い、意欲的にリハビリに取り組んだ症例を報告する。
【利用者紹介と経過】
90歳の男性T氏。要介護3、既往歴に陳旧性脳梗塞(1998年、麻痺症状無し)と心房細動。お元気な頃は全国の郵便局巡りを趣味とされ、先々で出会う方々との交流を楽しまれていた。だが突然歩行困難となり救急搬送された。検査をするが原因不明で、メンタルによるものではないかとの診断が出た。
デイケア利用にあたりご本人の目標をお聞きしたところ、「庭に出られるようになりたい。100歳まで元気でいたい」と言われた。目標に沿うように歩行訓練のリハビリを中心に、家でほとんど入っていなかった入浴の実施、さらに他者との交流を目的としたプランを挙げて週に1回のデイケアの利用が始まった。利用開始1年後に要介護1になった。日数を追加したいと申し入れがあり、同時期に週に2回に増やした。
2回に増やして間もなく体調不良となり、1年2か月後に食道癌と診断された後は急激に体調が悪化され固形物が食べられなくなった。しかし、ご本人の強い意志でお亡くなりになる2週間前(1年4か月後)までデイケアに通われた。
【方法】
1.入浴
入浴に慣れる為、初めは車椅子利用の機械浴を利用した。歩行が安定してきた頃に一般浴に誘うが気が進まない様子だった。そこで機械浴の気泡の入浴が気に入っていたので、一般浴もジャグジーのお風呂にしたところ喜ばれ、毎回の入浴を楽しみにするようになった。
体調不良後
体の負担を少なくする為に車椅子を利用したシャワー浴とした。
2.歩行練習
勉強熱心な方で、新聞からフレイルの記事を見つけてフレイル状態から脱する事を自身の目標として、独歩での歩行を自分で設定され行われた。施設内の廊下を午前・午後に5往復ずつ、距離にして約2km歩いた。
体調不良後
食事と入浴以外は臥床している事が多かったが、医師からデイケア利用を中止と言われる数日前にはご本人よりリハビリがしたいと言われ、理学療法士によるマッサージおよびサークル歩行器で約7m歩行された。
3.他利用者との交流
利用開始から1年後に週2回に増やした。追加した曜日では自ら進んで自己紹介をされた。「孫の写真を持ってきて職員や利用者にも見せて欲しい」とご本人にお願いしたところ、写真を持参され他の利用者と笑顔で会話が弾むようになった。
お誕生日会では「来年生まれるひ孫の為にも、100歳までデイケアに通って元気でいられるように頑張りたい」と話された。
体調不良後
来所されてもほとんど臥床して過ごしていた為、他の利用者が心配し交代で傍に来て話をしていた。とても嬉しそうに笑顔で会話をされていた。職員によるピアノ演奏の歌唱の時には、起き上がって席に戻り笑顔で歌われていた。
4.食事
常食から開始した。
体調不良後
利用開始1年後、胃の調子が悪くなり食事が5割しか食べられなくなった。
1年1か月後、塩味が分かりにくいと訴えた。さらに胃の調子が悪いとの訴えが続く為お粥に変更した。始めは主食全量・副食2割ほど摂取するが、次の利用では主食1割・副食1割となった。
1年2か月後、食べ物が飲み込みにくいと言われ、管理栄養士と相談しミキサー食とした。食事量はミキサー食の主食1割・副食4割であった。検査入院後、ご本人から食道癌だと伝えられた。その後在宅医療となり経口流動食が処方された。
1年3か月後から食事は拒否されるようになってきた。
5.送迎
利用開始から送迎車まで自分で歩行され席に座られていた。
体調不良後
車椅子のまま乗られる席にした。自宅の玄関まで床を寝そべりながら移動し横になって待っていた。職員の呼びかけに「野比苑に行きますよ」としっかり答えられ、2人介助で車椅子に移乗した。
【結果】
T氏は熱心に施設の廊下を歩いて歩行訓練の自主トレを取り組まれた。筋力が向上し歩行が改善された。利用1年で要介護3から1に変更になった。また、人との積極的な交流もあり楽しく過ごされたと思われる。ケアマネージャーから「大好きな野比苑に最後まで通えてご本人も幸せだったと思いますよ」とお話を頂いた。歩くのが好きで、人との関わり合いが大好きだったT氏。デイケアはT氏の生活の一部となり、楽しみの目標になっていたと思われた。
【考察】
食道癌が発症し日を追うごとに体調不良となる中で、デイケアに来て楽しいという気持ちが途切れないように、職員全員がご本人と常に対話し日々の心身の状態を把握するように努めた。大好きなお孫さんの写真を毎回持参されていたので、「また見せて下さいね」と話し次回の利用に繋げる約束もした。歩けなくなると、食事とトイレ以外は「横になって休んで大丈夫ですよ。他の利用者と同じ行動をする必要はありませんよ」と個別対応で安心して過ごして頂くようにした。
さらにその都度、他部署と連携し心身の状況に合わせ早めの対応をとるよう心掛けた事も、ご本人の潜在的な意欲を引き出したと考えられえる。
積極的に自主歩行練習に取り組まれる利用者がいる一方で、声を掛けても体の不調を訴えたり意欲が低下したりしていて、リハビリに消極的な利用者もいます。
自主的に歩行練習をしている利用者は、日帰りバスツアーに参加したいなど具体的な目標を持っている。自分自身の目標がある事は意欲向上につながると考えられる。
これからも利用者の潜在的なやる気を引き出すように身体面や気持ちに寄り添い、他部署と連携を取り利用者に合った対策を考えていきたい。