講演情報
[14-O-L006-02]パソコンとスマートフォン操作の再獲得に向けて~その結果得られたもの~
*前馬 智萌1 (1. 茨城県 介護老人保健施設はなみずき)
左前頭葉脳出血後の方に、パソコン・スマートフォンの操作再獲得を目指した事例について報告する。言語機能訓練、高次脳機能訓練に加え、実物を使用した実用練習、自主練習の提案を行った。パソコン操作では文字入力は困難だが、画面上のアイコン、3~4語文のメッセージ表記の理解は可能となり、スマートフォンではLINEスタンプのやり取りや画像の送信が可能となった。実用練習、自主練習は大変有効であったと考える。
【はじめに】
本症例は、左前頭葉脳出血後の後遺症(失語症、高次脳機能障害)により、病前行っていたパソコン操作とスマートフォンの操作が困難となった事例である。電子機器操作の再獲得に向けて、高次脳機能訓練、言語機能訓練、実用練習を実施した。
【症例紹介】40代男性 左前頭葉脳出血、うつ病
○HOPE:パソコンでゲームがしたい、LINEが使えるようになりたい
○生活歴 職業:システムエンジニア 自宅では自室に籠り趣味のゲームに熱中していた。パソコンのモニターを6台使用し、右手でマウス、左手でキーボード操作、ヘッドフォンを着用しリアルタイムでスピード感溢れるゲームが得意。家族(同居の父・母)との会話は殆どなし。仕事のストレスにより以前うつ病を発症、休職と復職を繰り返す
【入所時評価】
失語症の影響により、会話場面では言いたい事を上手く伝達できず、焦りや不安、諦めがみられている。聞き手の推測や誘導が必要。病識の低下、受容が不十分な様子あり。
○言語機能面:中等度失語症(表出)話す・書く:単語レベルで困難
(理解)聞く・読む:短文レベルで可能
○高次脳機能面 TMT‐J(PartA126″PartB235″)BIT行動性無視検査 131/143点
注意機能(持続力、同時処理能力)の低下、右半側空間無視が認められる。
○パソコン操作:画面上の複数のアイコン表記、文字の羅列に戸惑う。必要な情報を選び出せず、クリック操作に時間がかかる。メッセージに対する正しい選択ができない。
○LINEの使用:LINEのアイコンを見つけるまで時間がかかる。文字入力画面では、入力が出来ない。受信メッセージの理解は短文であれば可能だが、返信は不可能である。
【目標】
1.パソコンとLINE操作に必要な言語機能の獲得
(表出)単語レベルの文字想起(理解)アイコン表記、短文の読解
2.電子機器操作に必要な注意機能の向上
【訓練プログラム】
○言語課題 読解課題、呼称課題 ○高次脳機能練習 机上課題、動作性課題
○実用練習 日常的に使用していたパソコンとスマートフォンを用いて操作練習
○自主練習の提案 言語アプリ、脳トレゲームアプリの活用
【再評価】 入所から5カ月後
入所当初と比較し、穏やかに過ごす場面が増えている。会話場面では、自ら他利用者や職員へ挨拶や声掛けをする等積極性がみられている。困り事や悩みがある際は自発的にセラピストへ相談する等、自らの解決方法の模索が出来ている。
○言語機能面:(表出)話す:単語レベルで向上 書く:若干低下あり
(理解)聞く:短文レベルで保持 読む:長文レベルで向上
○高次脳機能面 TMT‐J(PartA102″PartB218″)BIT行動性無視検査 140/143点
入所時と比較し注意機能(持続力、同時処理能力)の向上、右半側空間無視が軽減
○パソコン操作:文字入力は困難だが、画面上のアイコン、3~4語文のメッセージ表記の理解は可能となり誤選択や誤操作のリスク軽減。予測変換やキーワードの活用可能。
○LINEの使用:LINEのアイコンを直ぐに見つけられる。文字と絵のマッチングが可能でスタンプ活用ができる。文字入力は困難だが、代替として画像を撮って送信する。
【考察・まとめ】
パソコンとスマートフォン操作の再獲得に向けて、言語機能面と高次脳機能面の訓練、実用練習を実施したところ、ご本人の要望する病前の様な流暢な操作の再獲得には至らなかったが、日常的に動画を見たり脳トレゲームを行う事が可能となり、自分なりの活用や楽しみ方を再獲得できた。その要因として次の3点が考えられる。
1.高次脳機能練習、言語機能練習による機能の向上
電子機器操作に必要と云われる、図形認識力、複数刺激の同時処理等の注意機能、単語や文章の理解力について、訓練を通して向上がみられた。必要な情報を画面上から探し出す能力の高まり、文字理解の向上から操作のスピーディーさに繋がったと考える。
2.実際のパソコン、スマートフォンを用いた環境調整
高次脳機能障害への対応で重要な環境調整を行った。使う機能/使わない機能の選択、アイコン位置の調整を行った事が、実用化のスピーディーさを生み出したと考える。
3.自主練習で導入したアプリの活用
高次脳機能面・言語機能面でのアプローチの強化及び操作練習の機会が増えた。言語アプリは、難易度選択や適切なヒントを得る事が可能でより効果的な自主練習が行えた。
また、実用練習を通して「病識の受容」や「社会性の向上」を得ることが出来た。入所当初、病識の受容の途中段階であり、回復の期待、悲観、防衛を行き来している状態であった。実際にパソコンやスマートフォンで実用練習を重ねる過程で「出来る事」と「出来ない事」が自身の中で確立され病識の受容が出来るようになったのではないか。そして、自己認識が向上したことで、困った際には自ら解決方法を模索し他者へ働きかけたり、日常的に挨拶を交わす等、社会性の向上へ繋がったのではないかと考える。
【おわりに】
本症例は、現在でも言語機能・高次脳機能面において向上がみられており、実用的な練習は大変有効であったと感じる。現代社会において電子機器操作のニーズは高く、今回の経験を生かしQOLの向上を目指していきたい。
本症例は、左前頭葉脳出血後の後遺症(失語症、高次脳機能障害)により、病前行っていたパソコン操作とスマートフォンの操作が困難となった事例である。電子機器操作の再獲得に向けて、高次脳機能訓練、言語機能訓練、実用練習を実施した。
【症例紹介】40代男性 左前頭葉脳出血、うつ病
○HOPE:パソコンでゲームがしたい、LINEが使えるようになりたい
○生活歴 職業:システムエンジニア 自宅では自室に籠り趣味のゲームに熱中していた。パソコンのモニターを6台使用し、右手でマウス、左手でキーボード操作、ヘッドフォンを着用しリアルタイムでスピード感溢れるゲームが得意。家族(同居の父・母)との会話は殆どなし。仕事のストレスにより以前うつ病を発症、休職と復職を繰り返す
【入所時評価】
失語症の影響により、会話場面では言いたい事を上手く伝達できず、焦りや不安、諦めがみられている。聞き手の推測や誘導が必要。病識の低下、受容が不十分な様子あり。
○言語機能面:中等度失語症(表出)話す・書く:単語レベルで困難
(理解)聞く・読む:短文レベルで可能
○高次脳機能面 TMT‐J(PartA126″PartB235″)BIT行動性無視検査 131/143点
注意機能(持続力、同時処理能力)の低下、右半側空間無視が認められる。
○パソコン操作:画面上の複数のアイコン表記、文字の羅列に戸惑う。必要な情報を選び出せず、クリック操作に時間がかかる。メッセージに対する正しい選択ができない。
○LINEの使用:LINEのアイコンを見つけるまで時間がかかる。文字入力画面では、入力が出来ない。受信メッセージの理解は短文であれば可能だが、返信は不可能である。
【目標】
1.パソコンとLINE操作に必要な言語機能の獲得
(表出)単語レベルの文字想起(理解)アイコン表記、短文の読解
2.電子機器操作に必要な注意機能の向上
【訓練プログラム】
○言語課題 読解課題、呼称課題 ○高次脳機能練習 机上課題、動作性課題
○実用練習 日常的に使用していたパソコンとスマートフォンを用いて操作練習
○自主練習の提案 言語アプリ、脳トレゲームアプリの活用
【再評価】 入所から5カ月後
入所当初と比較し、穏やかに過ごす場面が増えている。会話場面では、自ら他利用者や職員へ挨拶や声掛けをする等積極性がみられている。困り事や悩みがある際は自発的にセラピストへ相談する等、自らの解決方法の模索が出来ている。
○言語機能面:(表出)話す:単語レベルで向上 書く:若干低下あり
(理解)聞く:短文レベルで保持 読む:長文レベルで向上
○高次脳機能面 TMT‐J(PartA102″PartB218″)BIT行動性無視検査 140/143点
入所時と比較し注意機能(持続力、同時処理能力)の向上、右半側空間無視が軽減
○パソコン操作:文字入力は困難だが、画面上のアイコン、3~4語文のメッセージ表記の理解は可能となり誤選択や誤操作のリスク軽減。予測変換やキーワードの活用可能。
○LINEの使用:LINEのアイコンを直ぐに見つけられる。文字と絵のマッチングが可能でスタンプ活用ができる。文字入力は困難だが、代替として画像を撮って送信する。
【考察・まとめ】
パソコンとスマートフォン操作の再獲得に向けて、言語機能面と高次脳機能面の訓練、実用練習を実施したところ、ご本人の要望する病前の様な流暢な操作の再獲得には至らなかったが、日常的に動画を見たり脳トレゲームを行う事が可能となり、自分なりの活用や楽しみ方を再獲得できた。その要因として次の3点が考えられる。
1.高次脳機能練習、言語機能練習による機能の向上
電子機器操作に必要と云われる、図形認識力、複数刺激の同時処理等の注意機能、単語や文章の理解力について、訓練を通して向上がみられた。必要な情報を画面上から探し出す能力の高まり、文字理解の向上から操作のスピーディーさに繋がったと考える。
2.実際のパソコン、スマートフォンを用いた環境調整
高次脳機能障害への対応で重要な環境調整を行った。使う機能/使わない機能の選択、アイコン位置の調整を行った事が、実用化のスピーディーさを生み出したと考える。
3.自主練習で導入したアプリの活用
高次脳機能面・言語機能面でのアプローチの強化及び操作練習の機会が増えた。言語アプリは、難易度選択や適切なヒントを得る事が可能でより効果的な自主練習が行えた。
また、実用練習を通して「病識の受容」や「社会性の向上」を得ることが出来た。入所当初、病識の受容の途中段階であり、回復の期待、悲観、防衛を行き来している状態であった。実際にパソコンやスマートフォンで実用練習を重ねる過程で「出来る事」と「出来ない事」が自身の中で確立され病識の受容が出来るようになったのではないか。そして、自己認識が向上したことで、困った際には自ら解決方法を模索し他者へ働きかけたり、日常的に挨拶を交わす等、社会性の向上へ繋がったのではないかと考える。
【おわりに】
本症例は、現在でも言語機能・高次脳機能面において向上がみられており、実用的な練習は大変有効であったと感じる。現代社会において電子機器操作のニーズは高く、今回の経験を生かしQOLの向上を目指していきたい。