講演情報

[14-O-L007-01]在宅復帰に際し移乗用リフトを導入した事例

*高地 祐一郎1、井出 希1、田中 恵理子1 (1. 長野県 老人保健施設シルバーポートつかばら)
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長期入所利用者の在宅復帰に際し、在宅での移乗用リフトの使用を提案、導入を行なった。入所早期から施設のリフトにて使用感に慣れていただいた。同時に介護サイド主導で家族への介護指導を実施。リフトの使用、オムツ交換の行い方を説明、実践していただいた。退所後の生活環境について、本人、妻の抵抗感はかなり軽減され、スムーズに受け入れることができていた。リフト導入により、妻の介護負担感が大きく軽減された。
【はじめに】
 今回、長期入所利用者の在宅復帰に際し、身体機能の低下から在宅での移乗用リフトの使用を提案し、導入を行なった結果、在宅生活を続けることができた事例について、報告を行なう。
【事例紹介】
 年齢性別:60代男性 主病名:右被殻出血(2011.1.7)(重度左麻痺、感情失禁、注意障害、構音障害) 介護度:要介護度4 家族構成:妻、長男夫婦、孫(未就学児)と6人暮らし 主介護者:妻(腰痛、膝痛、喘息あり) 経過:通所リハビリ、訪問看護、ヘルパー、ショートステイを利用しながら在宅にて生活されていた。排泄動作や移乗時の転落が増え、家族の介助では負担が大きくなり、ショートステイへ入所するが、入所期間が確保出来ず、臀部の褥瘡もあったため、病院へ3ヶ月入院し、リハビリを行った後、当施設へ長期入所となる。 
本人希望:この先も家を起点に暮らしていきたい。 家族希望:現状では介助量が多く困っています。特養を申し込んであるけど、今はまた自宅に戻ってきて欲しいと思っています。
【理学療法評価】
 運動麻痺:左不全麻痺 BRS上肢3、手指3、下肢3レベル 姿勢:長時間車椅子座位でいると緊張が上がり、傾きが強くなり、修正が困難となっていく。 日常生活動作能力:Barthel Index 30点 移乗動作は男性一人介助にて可能ではあるが、後方への突っ張りも強く、女性一人介助では困難
【問題点】
 #1.主介護者である妻の体調が悪く、現状の移乗、トイレ介助量では自宅での移乗・トイレ介助が困難。また、車椅子上での姿勢の修正が困難。#2.特養への申し込みは行ったが、60代と若年であることもあり、本人、家族共に自宅に帰りたいとの思いが強い。#3.本人の拘りが強く、新しい物事への受け入れが悪い。
 以上により、入所早期に本人、家族、居宅ケアマネを交えた話し合いの場を設け、1.移乗には移乗用リフトを使用。2.排泄はオムツにて行う。3.座位姿勢の安定のため、車椅子を変更。以上を自宅へ退所する条件として本人、家族同意の下決定する。
【リフト導入】
 自宅退所の際に混乱しないように、入所早期から移乗は施設のリフトを使用し、使用感に慣れていただいた。使用するスリングシートについてもこの段階で検討、評価を行い、脚分離型スリングシートを使用することとした。退所1ヶ月程前から、実際に使用するリフトや福祉用具をお試しとしてレンタルし、施設内で使用し、慣れていただいた。同時に介護サイド主導で家族への介護指導を実施。リフトの使用、オムツ交換の行い方を説明、実践していただいた。
【結果】
 退所後の生活環境について、本人、妻の抵抗感はかなり軽減され、スムーズに受け入れることができていた。リフト導入により、妻の介護負担感が大きく軽減された。副次的な効果として、移乗による努力性の筋活動が少なくなったためか、以前より筋緊張が上がりにくくなった。本人の気持ちも楽になったのか表情が軟らかくなり、通所でのレクへの参加もするようになってきた。以前は妻から通所に困りごとの相談の連絡が頻回にあったが、現在はほとんどなくなっている。
【考察】
 移乗用リフトの使用には腰部負担軽減効果があり、腰痛予防となる。1)個人の介護技術・能力によらず、安全に移乗介助を行うことができる。また、習得度を上げることで作業時間の短縮、更に腰部負担の軽減を図ることができる。2)以上により、腰痛や膝痛を抱える妻でも安全に移乗介助ができた。リフト使用方法について、動画を撮りながら介護スタッフ間で統一した方法を提供できたことで、本人の環境変化に対する抵抗感が軽減し、妻への介護指導もスムーズに行うことができたと考える。
【まとめ】
 在宅での介護が困難となり、一時特養への入所も考えることとなった利用者に対し、介護用リフトを導入することで在宅生活を継続することができた。在宅生活継続の選択肢を広げ、こちらから提案ができるように、普段の業務の中でも移乗用リフトに限らず、福祉機器を積極的に活用し、正しく理解していくことが必要ではないだろうか。
【参考文献】
1)吉川 徹,原 邦男,酒井一博・他:天井走行型リフトの導入が介護者の腰部負担軽減に及ぼす効果.産業医学ジャーナル26: p41-47, 2003.
2)冨岡公子,栄健一郎,保田淳子.移乗介助におけるリフトの腰部負担軽減の効果-介護者の介護技術の習得度を考慮した有効性の検証-.産業衛生学雑誌 2008;50:103-10.