講演情報
[14-O-L007-03]老人介護保健施設と介護医療院の入所者像の比較
*福田 圭佑1、柴 隆広1、沢谷 洋平2、広瀬 環2、浦野 友彦3 (1. 栃木県 介護老人施設 マロニエ苑、2. 学校法人国際医療福祉大学 保健医療学部 理学療法学科、3. 学校法人国際医療福祉大学 医学部 老年病科)
併設する介護老人保健施設(老健)と介護医療院(医療院)の入所者を対象に体組成成分とBarthel Index(BI)を調査し比較した.結果,体組成成分では老健入所者の方が骨格筋指数やPhaze Angleは高く,細胞外水分比は低かった.要介護度については差はみられなかったが,BIの比較においては医療院に比べて老健の方がBIは有意に高いという結果であった.医療院利用者は栄養状態が低く,動作能力が低下する傾向にあることが分かった.
【はじめに】 厚生労働省では,今後要介護者の中でも医療的処置の必要性が高い高齢者が増えていく中で,介護保健サービスでこれらのニーズに応えるべく2018年に介護医療院(医療院)が創設された.医療院は長期にわたって療養が必要な方に,医学的な管理や介護・看取りを行うことが可能な施設である. 当施設は介護老人介護保健施設(老健)であったが,2022年より老健を一部転換し医療院を併設している(老健149床,医療院51床).老健の役割としては,要介護者に対して心身の機能維持図り,多職種共同で在宅生活を支援することにある.しかし通所サービス等で在宅生活をサポートしても,長期化する場合には徐々に老衰によって在宅生活が困難となる場合もあり,看取りにも対応する必要性がある.そのため今後医学的なケアが重点におかれる要介護者に対して,医療院は重要な連携先の一つである可能性がある. 当施設の実際として,老健でも看取りは行うが,医学的に重篤となった場合や禁食対応となった方の中には,医療院に転院される方もいる.そこで医療院に必要な人員を配置して痰の吸引や点滴管理,在宅酸素の導入などを行っている. 同じ入所サービスでも,老健は在宅復帰を目指す中間施設であり,医療院は看取りやターミナルケアも可能な施設であることから,対象者や属性も異なることが推察される.まず我々は老健と医療院での利用者像を把握するため,栄養状態の評価として用いられる体組成成分と日常生活動作能力の評価を行い,比較した.これらの実態を把握することで今後施設内での利用者の生活の質の向上やリハビリテーションの方針を決める際の一助となると考えた.【対象・方法】 取り込み基準は2024年3月に当施設の老健入所者43名と医療院入所者42名の内,測定が実施できた老健40名(男性12名,女性28名,平均年齢;87.6±7.6歳),医療院39名(男性11名,女性28名,平均年齢;87.8±8.0歳)を解析対象者とした. 体組成の調査は体組成分析装置(Inbody S10)を使用した.計測姿勢は安楽座位もしくは臥位で計測した.また,計測前には普段と体調が変わらない事を確認した. 解析は老健群(40名)と医療院群(39名)に分類して,年齢,体組成成分であるBMI・骨格筋指数(SMI)・Phaze Angle(PhA)・細胞外水分比(ECW/TBW),要介護度,Barthel Index(BI),性別を比較した.年齢と体組成に関しては対応のないt検定,要介護度とBIについてはMann-Whitneyのu検定,性別はX2検定でそれぞれ群間比較を行った.有意水準は5%とした.なお,本研究は国際医療福祉大学の倫理審査委員会の承認を得て実施した.【結果】 結果SMIは老健群4.97±0.14,医療院群4.39±0.17で有意な差を認め(P=0.013),PhAは老健群3.11±0.09,医療院群2.55±0.12で有意な差を認め(P=0.001),ECW/TBWは老健群0.409±0.01,医療院群0.417±0.02で有意な差を認め(P<0.001),BIでは中央値が老健群35点,医療院群10点で有意な差が認められた(P=0.007).年齢,性別,BMIや要介護度について差は認められなかった. 【考察】 本研究は施設入所者の中でも老健と医療院の利用者を対象として体組成成分とBIの違いについて調査した.その結果,老健群ではSMIとPhA,BIの項目で医療院群に対して有意に高く,医療院群はECW/TBWが老健群に対して有意に高かった. SMIはサルコペニアの診断基準の項目としてもあり,サルコペニアは転倒やADL,自宅復帰率などと関係しており,BIとともに医療院でより低かった.また医療院群では老健群に対してPhAが低く,ECW/TBWが有意に高かった.PhAは一般に細胞の生理的機能(栄養状態,体細胞量)レベルを反映する指標であり,低いPhAは栄養リスクや在院日数,死亡率と関係があると報告されている.ECW/TBWについては高値を示すと,栄養障害による浮腫や重篤な疾患と関連があるとされている.今回、BMIでは医療院群と老健群との間で有意差を認めなかったが、体組成を調査すると2群で有意差を認めた.BMIは栄養状態、筋肉量を反映する指標ではあるが体組成測定の方がより鋭敏に要介護高齢者の筋肉量をはじめとした健康状態を鋭敏に反映する指標である可能性が示された. 本研究により、介護医療院の方は全身状態が悪い利用者が適切に分配されていることが分かった.年齢,性別,要介護度には差がないことから,今後は体組成分析など目に見えない部分も合わせて全身状態を評価することは重要である.全身状態の悪化を予測出来れば,新たなリハやケアの対策が必要であるという根拠一つになる可能性がある. 本研究の限界としては,単独施設で対象者も少ないため施設バイアスである可能性がある.また縦断研究ではないため,体組成分析とBIが医療院の方が低かったことの因果関係の説明は難しい. 今後の展望としては多施設展開して老健・医療院の入所者の特徴をより明らかにしていくことと,縦断調査を行って因果関係を明らかにしていくことである.