講演情報

[14-O-L007-06]自己効力感の変化に伴い趣味活動が再開できた症例

*寺本 夏巳1 (1. 三重県 介護老人保健施設あのう)
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今回、身体的フレイルに陥った症例に対して、自己効力感の向上に伴い趣味活動を再開することができたので報告する。活動量低下により身体的フレイルの状態に陥ってしまった症例に対して1)身体機能面の向上、2)意欲の向上・身体活動の拡大、3)身体活動の自立化、4)趣味活動の再開と段階的に目標を立てリハビリテーションを実施した。その結果、目標の成功体験から自己効力感や意欲の向上に繋がり趣味活動の再開が可能になった。
【はじめに】
 一般的に高齢者は疾病や身体機能の低下などの理由から活動性が低下するため容易に廃用症候群を引き起こし更なる機能低下を招く。また、身体的フレイルでは加齢による骨格筋量の減少や食欲不振による慢性的な低栄養などが相互に影響しあうことで身体機能の低下を加速させると言われている。
 今回、当施設において大腿骨顆上骨折によって身体機能制限を呈し車椅子乗車困難となり、身体活動量が著しく制限され身体的フレイルな状態であった症例を経験した。活動・参加へと繋がる段階づけた目標設定を行うことで、趣味活動の再開へと繋げることができたため報告する。
【症例紹介】
 80代、女性、右利き。主訴:トイレに行きたい。みんなで一緒に歌を歌いたい。既往歴:高血圧症、閉塞性動脈硬化症、変形性膝関節症(両人工膝関節置換術)、認知症。生活背景:独居。現病歴:左大腿骨顆上骨折。受傷Z日+17日後に観血的骨接合術実施(術後2か月は免荷指示あり)。入所時は左下肢ニーブレイスにて固定、免荷期間中であった。そこで、まず身体機能向上から活動・参加に繋げる目標設定を大きく3つに段階づけしてリハビリテーション開始した。目標設定は1)ベッド上での座位保持が可能となる。2)意欲の向上を捉えつつ身体活動の拡大を目指す。3)立位バランス、移乗動作の安定を図り身体活動の自立・拡大を図るとした。
【身体状況】
 入所当初は荷重制限もあり寝たきり状態であったため他の利用者様との関わりが少なく身体活動に対して消極的であった。関節可動域制限:股関節伸展、膝関節屈曲、足関節背屈制限あり。徒手筋力測定(MMT)体幹2、下肢2。BI 10/100点、食事動作は自立、それ以外は全介助。階段昇降は未実施であった。認知機能はMMSE 21点であるがコミュニケーションは良好で日常会話、指示の理解に問題はなかった。
【実施内容】
 ベッド上での運動プログラムから始め、活動量の向上に従い起立訓練へと移行した。開始初期はリハビリ以外の日常生活ではリクライニング型車椅子を使用しており、食事時間を中心に離床時間を徐々に拡大させ半年後再評価を実施した。少しずつフロアにいる時間が増えたことで他利用者様とのコミュニケーションも増加し、身体活動に対する姿勢や言動にも変化がみられた。以前は聞かれなかった前向きな言動が聞かれるようになった為、趣味活動であるカラオケに焦点をあてる事とした。
【実践方法】
 初期段階では、上下肢可動域訓練、下肢体幹機能訓練(座位保持訓練)、起立訓練を実施した。中間段階では重心移動訓練、移乗動作訓練を追加し、趣味活動や軽作業の実施に至った。趣味活動は1)曲を決める(2曲)、2)歌詞カードを利用者様に作っていただく(本人様と他の利用者様の2セット)、3)個別リハビリにてYouTubeを流し練習する。4)本番は他の利用者様の前で歌を一緒に歌っていただく。その際、他の利用者様はマラカス等使用し一緒に楽しんでいただく事とした。
【結果】
 日常生活動作の向上が認められた事で趣味活動の再開が可能となった。中間評価では歌を歌うことに関してCOPM満足度1/10点,遂行度1/10点であったが、最終評価ではCOPM満足度5/10点、遂行度5/10点。BIでは40/100点となり満足度・遂行度共に5/10へと向上した。
【考察】
 身体機能面の向上が活動意欲の向上に繋がり趣味活動へと上手く移行することができた。本人の「出来ない」という思いを受け止め会話を大切にし、他者との関わりを少しずつ増やした事、身体機能の改善に伴い、想いを引き出せた事が活動・参加に繋がったと考えられる。これは、先行研究により身体機能維持や趣味活動実施及び継続関連の研究より認められ活動・参加、他者との交流を持つ事の重要性が示唆されている。つまり、成功体験をもとに自己効力感が改善し、趣味活動への移行に繋がったと考える事ができる。
【結論】
 本症例は、身体機能や意欲の低下等の要因で寝たきり状態であったが、身体機能の改善に加え趣味活動を実施することで活動・参加に繋げる事ができた。片山らは趣味活動の継続と身体機能維持について、身体機能維持者に占める趣味活動あり者の割合は80.9%であり、趣味活動なし者の53.5%に比して高い傾向であると述べている。また、身体機能の維持と趣味活動の実施及び継続の関連が認められ、活動参加、他者との交流をもつことの重要性も示唆されている。また、猿爪らは自己効力感の認識に影響を与える情報源としてある課題を達成することで得られる「成功体験」、他者の行動から自己効力感を感じる「代理経験」、ある行動を成功できると思えるような「言語説明」、感情や生理現象などといった「生理的・情緒的安定」の4つを上げ、これらの情報源によって人の自己効力感は変化していると述べており、まずは身体機能の制限となる下肢・体幹の機能向上や座位保持機能の向上に至ったこと、その際「できない・したくない」という悲観的な発言が多く見られたが、座位保持の獲得が成功体験に繋がったことで必然的に離床時間や他利用者との交流機会が増えた。リハビリ実施の際には、小さな目標から大きな目標まで段階づけを行い達成しやすい訓練内容、環境設定、声掛けを行った。当初は、意欲的な発言がなかったが「成功体験」をもとに前向きな発言が聞かれるようになり、自己効力感の向上に繋がった。これは、自己効力感の変化が大きい対象者の方が自己効力感の変化が小さい対象者に比べてCOPMで測定される対象者の介入後のパフォーマンスの変化が大きい事を示していると報告されている。また、江本は自己効力感が強いほど実際にその行動を遂行できる傾向にあると述べている。本症例は身体機能の改善、趣味活動によって自己効力感が大きく変化し充実した活動・参加を実現することができた。今後も身体機能の改善だけでなく、自己効力感の向上に繋がるアプローチを続けていきたい。