講演情報
[14-O-L007-07]脳梗塞後における腰椎破裂骨折後の自己管理の難しさ~在宅復帰に向けた支援~
*熊谷 美樹1 (1. 岩手県 介護老人保健施設ハートフルもりおか)
本症例は脳梗塞発症後に在宅復帰したが、転倒により腰椎破裂骨折を受傷。回復と共に活動が増えた一方で、腰痛増強し活動に消極的となった。腰痛の自己管理を行いながら活動を再獲得していく事を目的に様々な評価を行い、個別リハビリでの介入や環境調整等を実施した結果、往復利用での在宅復帰に至った。複数の疾患により自己管理の難しさはあるが、適切な評価を選択し生活をどうマネジメントしていくかを改めて学ぶ機会となった。
【はじめに】
要介護度が進行する原因の一つとして転倒がある。高齢者や脳卒中後遺症者の転倒に関する先行研究では、歩行障害やバランス/感覚障害だけでなく感情や注意障害等が転倒に関与するとの報告がある。本症例は脳梗塞発症後に杖歩行を獲得し在宅復帰したが、転倒により骨折し病院で加療後、腰痛は改善していたが在宅復帰に不安があり当施設入所に至った。活動量の増加に伴い腰痛が再発し、痛みに対する恐怖・不安から日常生活動作や歩行に消極的になり、統一した支援の仕方にも難渋した。そこで再評価を行い、症例の問題点を整理し在宅復帰に向けた支援を行った。
【症例紹介】
80代女性/要介護2。平成29年に脳梗塞(左放線冠)を発症し右片麻痺・軽度構音障害が残ったが、自宅退院し訪問・通所リハビリを利用しながら次女夫婦支援の下、在宅生活を送っていた。令和5年1月自宅でトイレに向かおうとして転倒、左腰部を強打し歩行困難となりA病院に救急搬送、第一腰椎破裂骨折の診断で入院治療後、B病院へ2月に転院。同年5月当施設に入所。本人needは「歩けるようになりたい」。家族は「歩行やトイレが自分でできるようになった際は自宅で生活してほしい」。
【作業療法評価と経過】
(初回)上肢の麻痺は重度で末梢部に屈曲拘縮、下肢は中等度で下垂足により装具装着。右半身の感覚は軽度~中等度鈍麻。改定長谷川式簡易知能検査(以下HDS-R):22点。注意障害により理解力低下や指示が入りにくいことあり。入所時、軟性コルセット装着。腰痛の段階的評価であるNumerical Rating Scale(以下NRS)は1~2。
Barthal Index(以下、BI):55点。杖歩行は近位見守りで可能だが注意の散漫さや立位バランス不良で転倒リスクあり車椅子使用。動作の性急さ・粗雑さがあり、コルセット・装具の着脱順序が定着しておらず、装具等の着脱や移乗、トイレ動作は見守り。
(3,4ヶ月後)初回評価より2ヶ月後、コルセットが外れたが1ヶ月後に腰痛悪化。その際のNRS5~6。Trail Making Test(以下TMT)A;1分46秒、B;4分44秒。Subset of Functional Balance Scaleと“Stops Walking When Talking”testを組み合わせた、自立歩行開始を判定する評価チャートであるF&S:歩行時の二重課題難しく、要見守りの判定。腰痛による日常生活の障害を評価する尺度であるRoland-Morris Disability Questionnaire(以下RDQ):12/24点。非特異的腰痛の心理社会的要因の把握に用い、腰痛予後のリスク度に応じて分類できる評価のKeele STarT Back スクリーニングツール(以下、KST):総合得点3点、領域得点2点。
【問題点の整理、介入経過】
認知機能は比較的保たれているが、運動麻痺・感覚・注意・バランス障害が認められた。腰痛悪化の原因としてコルセットで体幹が固定され廃用的な筋力低下が生じていた中、活動により患部に負担がかかり痛みを生じたと考えられ、注意障害により禁忌肢位に留意できない事も自己管理の難しさに影響していたと思われる。腰痛が落ち着いてきても恐怖心の訴えが聞かれたが、腰痛に関しては発症から3ヶ月以上経過し慢性期であり、日常生活では屈むなど特定の動作で痛みや恐怖心が生じており一時的・限定的な痛みであること、慢性的な腰痛に繋がるリスクが低いこと、心因性の影響は少ないことが明らかとなった。その為、恐怖心を考慮し痛みが生じない範囲の運動経験を積み重ねることで活動性を改善していけるのではないかと考え、個別リハビリでは体幹や股関節を中心とした柔軟性の改善および能動的な運動やコルセットや靴・装具の着脱順序の確認・動作の反復練習を実施した。生活場面では多職種協働し、特に靴・装具の着脱は工程毎に段階付けし、歩行は距離や頻度を調整する等、統一した支援を行った。また本人が一人で実施する動作内容を理解できるよう張り紙を活用する等、環境も工夫した。
【作業療法再評価と経過】
(7ヶ月後) NRSは1~2。BI:75点。装具・靴の着脱においては環境調整し自立。トイレ・移乗動作自立。腰椎ベルトの装着は介助を要する。装具・靴の着脱順序は定着してきているが、注意障害による動作の性急さや粗雑さは残存。TMT-A;3分2秒、TMT-B;4分33秒。 F&S:歩行自立の判定。RDQ:8/24点。KST:総合得点3点、領域得点3点。
環境調整や職員の見守りは必要だが、活動性改善に伴う腰痛は聞かれず自制内で経過し、自己管理が行えるようになってきている。F&Sは自立判定だが、普段の注意障害の変動を考慮すると転倒リスクはあり完全な自立は難しい為、施設内では車椅子・歩行を併用した。自宅では車椅子走行が困難な為、見守りでの歩行が必要となるが、家族が不在の間一人で過ごすことは難しいことから、当施設短期入所を中心に利用し数日間自宅復帰する往復利用となった。
【考察・まとめ】
痛みに関しては主体的に動き自己管理していくことが重要だとされているが、骨折による痛み等の身体的構造の問題に加えて、本症例は注意障害が影響し当初は自己身体の管理が難しいケースであった。腰痛が改善した後も痛みの再発に対する恐怖心から活動に消極的だったが、発症からの経過・時期を考慮しRDQ等の評価を通し、痛みの出現する姿勢や運動、心理社会的要因等の把握を行うことが、腰痛に対しての理解や介入方法を明確にする上で有効だった。動作や歩行時に不安や恐怖心を訴えることはなく、成功体験を積み重ねたことが疼痛の自己管理にも繋がったと考える。一方で最終評価時にF&Sでは歩行自立判定も、注意障害が影響し自立歩行獲得に至らなかった。F&Sはバランスと認知機能の関連性を把握し移動手段を判断する一助となったが、本症例のような複数の疾患を抱えたケースではその点も踏まえて判断していく必要があると思われる。今回、複数の疾患により自己管理の難しさがある症例に対し適切な評価を選択し、生活をどうマネジメントしていくかを改めて学ぶ機会となった。
要介護度が進行する原因の一つとして転倒がある。高齢者や脳卒中後遺症者の転倒に関する先行研究では、歩行障害やバランス/感覚障害だけでなく感情や注意障害等が転倒に関与するとの報告がある。本症例は脳梗塞発症後に杖歩行を獲得し在宅復帰したが、転倒により骨折し病院で加療後、腰痛は改善していたが在宅復帰に不安があり当施設入所に至った。活動量の増加に伴い腰痛が再発し、痛みに対する恐怖・不安から日常生活動作や歩行に消極的になり、統一した支援の仕方にも難渋した。そこで再評価を行い、症例の問題点を整理し在宅復帰に向けた支援を行った。
【症例紹介】
80代女性/要介護2。平成29年に脳梗塞(左放線冠)を発症し右片麻痺・軽度構音障害が残ったが、自宅退院し訪問・通所リハビリを利用しながら次女夫婦支援の下、在宅生活を送っていた。令和5年1月自宅でトイレに向かおうとして転倒、左腰部を強打し歩行困難となりA病院に救急搬送、第一腰椎破裂骨折の診断で入院治療後、B病院へ2月に転院。同年5月当施設に入所。本人needは「歩けるようになりたい」。家族は「歩行やトイレが自分でできるようになった際は自宅で生活してほしい」。
【作業療法評価と経過】
(初回)上肢の麻痺は重度で末梢部に屈曲拘縮、下肢は中等度で下垂足により装具装着。右半身の感覚は軽度~中等度鈍麻。改定長谷川式簡易知能検査(以下HDS-R):22点。注意障害により理解力低下や指示が入りにくいことあり。入所時、軟性コルセット装着。腰痛の段階的評価であるNumerical Rating Scale(以下NRS)は1~2。
Barthal Index(以下、BI):55点。杖歩行は近位見守りで可能だが注意の散漫さや立位バランス不良で転倒リスクあり車椅子使用。動作の性急さ・粗雑さがあり、コルセット・装具の着脱順序が定着しておらず、装具等の着脱や移乗、トイレ動作は見守り。
(3,4ヶ月後)初回評価より2ヶ月後、コルセットが外れたが1ヶ月後に腰痛悪化。その際のNRS5~6。Trail Making Test(以下TMT)A;1分46秒、B;4分44秒。Subset of Functional Balance Scaleと“Stops Walking When Talking”testを組み合わせた、自立歩行開始を判定する評価チャートであるF&S:歩行時の二重課題難しく、要見守りの判定。腰痛による日常生活の障害を評価する尺度であるRoland-Morris Disability Questionnaire(以下RDQ):12/24点。非特異的腰痛の心理社会的要因の把握に用い、腰痛予後のリスク度に応じて分類できる評価のKeele STarT Back スクリーニングツール(以下、KST):総合得点3点、領域得点2点。
【問題点の整理、介入経過】
認知機能は比較的保たれているが、運動麻痺・感覚・注意・バランス障害が認められた。腰痛悪化の原因としてコルセットで体幹が固定され廃用的な筋力低下が生じていた中、活動により患部に負担がかかり痛みを生じたと考えられ、注意障害により禁忌肢位に留意できない事も自己管理の難しさに影響していたと思われる。腰痛が落ち着いてきても恐怖心の訴えが聞かれたが、腰痛に関しては発症から3ヶ月以上経過し慢性期であり、日常生活では屈むなど特定の動作で痛みや恐怖心が生じており一時的・限定的な痛みであること、慢性的な腰痛に繋がるリスクが低いこと、心因性の影響は少ないことが明らかとなった。その為、恐怖心を考慮し痛みが生じない範囲の運動経験を積み重ねることで活動性を改善していけるのではないかと考え、個別リハビリでは体幹や股関節を中心とした柔軟性の改善および能動的な運動やコルセットや靴・装具の着脱順序の確認・動作の反復練習を実施した。生活場面では多職種協働し、特に靴・装具の着脱は工程毎に段階付けし、歩行は距離や頻度を調整する等、統一した支援を行った。また本人が一人で実施する動作内容を理解できるよう張り紙を活用する等、環境も工夫した。
【作業療法再評価と経過】
(7ヶ月後) NRSは1~2。BI:75点。装具・靴の着脱においては環境調整し自立。トイレ・移乗動作自立。腰椎ベルトの装着は介助を要する。装具・靴の着脱順序は定着してきているが、注意障害による動作の性急さや粗雑さは残存。TMT-A;3分2秒、TMT-B;4分33秒。 F&S:歩行自立の判定。RDQ:8/24点。KST:総合得点3点、領域得点3点。
環境調整や職員の見守りは必要だが、活動性改善に伴う腰痛は聞かれず自制内で経過し、自己管理が行えるようになってきている。F&Sは自立判定だが、普段の注意障害の変動を考慮すると転倒リスクはあり完全な自立は難しい為、施設内では車椅子・歩行を併用した。自宅では車椅子走行が困難な為、見守りでの歩行が必要となるが、家族が不在の間一人で過ごすことは難しいことから、当施設短期入所を中心に利用し数日間自宅復帰する往復利用となった。
【考察・まとめ】
痛みに関しては主体的に動き自己管理していくことが重要だとされているが、骨折による痛み等の身体的構造の問題に加えて、本症例は注意障害が影響し当初は自己身体の管理が難しいケースであった。腰痛が改善した後も痛みの再発に対する恐怖心から活動に消極的だったが、発症からの経過・時期を考慮しRDQ等の評価を通し、痛みの出現する姿勢や運動、心理社会的要因等の把握を行うことが、腰痛に対しての理解や介入方法を明確にする上で有効だった。動作や歩行時に不安や恐怖心を訴えることはなく、成功体験を積み重ねたことが疼痛の自己管理にも繋がったと考える。一方で最終評価時にF&Sでは歩行自立判定も、注意障害が影響し自立歩行獲得に至らなかった。F&Sはバランスと認知機能の関連性を把握し移動手段を判断する一助となったが、本症例のような複数の疾患を抱えたケースではその点も踏まえて判断していく必要があると思われる。今回、複数の疾患により自己管理の難しさがある症例に対し適切な評価を選択し、生活をどうマネジメントしていくかを改めて学ぶ機会となった。