講演情報
[14-O-L008-04]生活リハビリの定着を目指して
*菅野 初哉1 (1. 東京都 介護老人保健施設デンマークイン新宿)
当施設では、生活リハの導入までに時間を要する事が課題であった。今回、早期導入が、在宅復帰とその後の在宅生活に影響を与えた症例を報告する。症例は腰椎圧迫骨折により、リハビリ目的で当施設入所。入所日から他職種で生活動作の評価を行い、介助量と生活リハ内容を検討した。生活リハの早期導入により、心身の早期回復が得られた。在宅復帰後も、「生活リハの定着」により、充実した生活が継続されている。
【はじめに】リハビリの成果は、生活の場で活かされなければならない。そのためには、利用者の生活を最も近くで支援している看護・介護職とリハ職の連携により、生活の中でのリハビリ(以下、生活リハとする)を実施する必要がある。当施設では、生活リハの内容を検討する際、身体機能や精神機能の評価だけでなく、在宅での生活様式を視野に入れた内容を立案している。生活リハの開始時期は、できる限り早期に導入することを目指しているが、短期集中リハが終了する入所後3か月目から開始する事が多い。しかし、この時期からの開始では、利用者・職員ともに、実施内容の把握に時間がかかり、生活リハが定着するまでに時間を要することが課題であった。今回、早期から生活リハを実施したことで、利用者の希望である在宅復帰が実現し、その後の在宅生活においても、影響を与えた症例を報告する。【症例紹介】80代 女性 診断名:腰椎圧迫骨折 主訴:「腰が痛い」 本人希望:「家に帰りたい・主人の手伝いがしたい」入所経緯:腰椎圧迫骨折により入院。その後、在宅復帰するも痛みが強く、起き上がり・歩行等に介助が必要な状態となった為、リハビリ目的で入所となる。入所前生活:夫、息子夫婦と同居し、夫の介護や家事の一部を積極的に行っていた。入所時から「このまま痛みが続いて、何も出来なくなったらどうしよう・・・」と痛みに対する不安の訴えが強く聞かれていた。≪生活リハ立案までの経過≫入所当日から看護・介護職と共に、「できるADL」の評価を開始した。特に介護職とリハ職は、生活動作の評価を共に行いながら、介助量の検討を行った。同時に、生活の場でどの様な生活リハが実施できるか検討した。その結果、本症例は、痛みの訴えが多いものの、できる動作が多くある事が分かった。しかしながら、痛みに対する精神的不安が強い為、他者と共に実施する方法が望ましいと判断した。生活リハの内容は、介護職の見守りのもと、朝・昼に端坐位で出来る簡単な運動を行う事とし、入所10日目から開始した。常に、痛みの状態と精神状態の変化を、他職種で情報共有しながら実施した。≪経過≫痛みに対する不安や悲観的な言動は徐々に減少し、自発的・積極的な言動が多くなった。入所後1か月頃から自主トレーニングが可能となった。また、自身の健康状態に合わせて運動の強度を調整し取り組む様子が見られ、運動実施の有無を職員に伝える様子も見られた。生活リハが徐々に定着している事が伺えた。職員も症例に「出来ている事・出来るようになった事」を伝える会話が増えていた。この頃、在宅復帰した後に「痛みが再発するのではないか」という不安も聞かれたが、運動が1人で出来るようになった自信や職員、他利用者からの励ましにより、「自主トレを家で続ければ、痛みは出ないかもしれない」と思うようになり、不安は減少した。そして、入所後3か月で在宅復帰された。在宅復帰後は、ご本人の希望により訪問リハビリを週1回利用する事となった。現在、退所後約1年が経過したが、自主トレーニングは継続されている。生活に余裕が生まれ、自分で出来る事を探し、取り組まれる様子が見られている。その一つとして、ご主人の希望でもあった朝食時の味噌汁づくりを家族と共に始められた。「出来る事・出来るようになった事」を自己評価する様子も見られ、身体面・精神面ともに自信が持てている様子である。外出する機会も増え、全体的に活動性が増えているが、自らの能力を認識し転倒への危機管理も可能となった。【考察】 今回、生活リハとして、痛みへの不安解消と身体機能の向上を目的とし、介助者の支援を本人の能力に合わせて加減しながら、ADLの自立へと繋げる取り組みを行った。早期から生活リハを開始した事で、利用者が抱える様々な不安は解消され、ADLの向上が見られた。そして、自主的な運動や他者との交流を好むようになり、活動性の向上も図ることが出来た。在宅復帰後も、施設内で取り組んだ生活リハが継続された事は、「生活リハの定着」がなされたと考える。今回、入所日から他職種での評価と情報共有を速やかに行ったことが、早期開始を可能にしたと考える。今後も、適切な開始時期について更に検討を深めて行く。