講演情報
[14-O-L008-05]発見!馴染みのある関わりを通じた認短リハの在り方~内子町の伝統行事を通じて~
*守岡 祐輔1 (1. 愛媛県 介護老人保健施設アンビションうちこ園)
2025年には65歳以上の5.4人に1人が認知症になると予測されている。今回、当施設においてHDS-Rと移動能力の関係性を調べ入所者との関わりを検討した。認短リハでは入所者に馴染みのある畑仕事や町の伝統行事に参加し、その結果移動に介助を要する入所者の方がHDS-Rの得点が優位に改善した。また在宅復帰後の再入所者では再入所時のHDS-Rの得点が、前回退所時と比べ低下していた。馴染みのある関わりが在宅、施設にて重要と考える。
【はじめに】
厚生労働省で人生100年時代と言われる中、2025年には65歳以上の5.4人に1人が認知症になると予測されている。その後も認知症の有病率は右肩上がりになっていくことが予想される。
介護老人保健施設では2006年から認知症短期集中リハビリテーション(以下認短リハ)が開始された。以降、認短リハの介入効果については多くの研究が行われている。今回、当施設においての改訂長谷川式簡易知能評価スケール(以下HDS-R)と移動能力の関係性を調べ、認短リハの関わり方について検討した。
【方法】
期間は令和4年9月1日から令和5年9月30日とした。対象は当施設に入所し3ヵ月間認短リハを実施した30名(男性5名、女性25名)。年齢88.1±8.5歳。対象者全員がアルツハイマー型認知症である。対象者30名のうち歩行動作自立または車椅子自操自立者は17名、介助が必要な者は13名であった。入所後と退所前にHDS-Rを用いて認短リハの効果判定を行った。また在宅復帰後に再入所した7名は同様に入所後と退所前にHDS-Rを実施した。統計解析は対応のあるt検定を用い、有意水準は5%とした。認短リハは週に3回、1回の介入時間は20分以上として実施した。内容は学習療法や回想法、運動療法を中心に入所者の身体機能や認知機能の状態に応じて実施した。特に回想法では愛媛県喜多郡内子町の伝統行事である笹祭りに参加し、笹飾りの作製や会話を行うことを実施した。
【結果】
対象者全員のHDS-Rの平均点数は入所時14.9、退所時17.4(P<0.01)であった。施設内移動自立群のHDS-Rの平均点数は入所時16.1、退所時17.9(P<0.05)となり、施設内移動介助群のHDS-Rの平均点数は入所時13.3、退所時16.7(P<0.01)であった。
また再入所者7名のHDS-Rの平均点数は、入院退所者1名を除き入所時13.8、退所時16.3(P<0.05)であった。
【考察】
3ヵ月間の認短リハを行った結果、移動に介助が必要な入所者の方がHDS-Rの得点が優位に改善を認めた。施設や在宅での生活において移動に介助が必要な場合、居室での時間が増えるため他者との関わりが少なくなることが考えられる。また天気や温度の変化に気づきにくいことや、外出する手段が少なく趣味活動が制限される可能性が考えられる。そうすることで気分の落ち込みや活動性の低下を招き、身体機能や認知機能の低下に繋がる。身体機能や認知機能に対するリハビリテーションとして、牧迫は筋力強化や有酸素運動のほか二重課題や多重課題下での運動を行うことで、全体的な認知機能、身体機能や身体活動量について効果が認められたと述べている。当施設では令和6年度の介護保険制度改正以前から認短リハ算定入所者に対して入所前後訪問を行っている。訪問時に自宅での生活の様子や趣味活動などを調査することで、より本人に合った認短リハを実施することができると考えられる。例として、園庭での有酸素運動や畑仕事などを行っており馴染みのある取り組みを実施することにより意欲的で継続した活動に繋がっている。認短リハ以外の施設内生活では看護師や介護士など多職種共働により医療面でのリスクが少ない入所者はできる限りホールで過ごし他者との交流、テレビや景色を見る機会を設けている。これらより元々自宅や入院中に居室で過ごす時間が長かった入所者の活動機会、他者との関わりが増え、移動に介助が必要な入所者の方が優位にHDS-Rの得点が改善したと考えられる。
次に今回は対象者全員がアルツハイマー型認知症であった。アルツハイマー型認知症の場合は社会性が保たれている場合が多く集団アプローチが行いやすい。Woodsらは施設入居高齢者に対し、個人回想法は認知機能や気分への効果が、グループ回想法ではコミュニケーション能力の改善が認められたと述べている。そのため認短リハの関わりとしての個別アプローチに加えて、集団アプローチとして愛媛県喜多郡内子町の伝統行事である笹祭りへの参加を行った。笹祭りは昭和32年から開催されており町内の商店街に笹飾りを装飾する近隣市町村の方にも馴染みの深い行事である。折り紙や画用紙で輪を作製することや、花紙で花を作製する活動を入所者の身体機能、認知機能に合わせて実施した。若い頃に笹飾りを作製していた利用者も多く、普段リハビリやレクリエーション活動に意欲的ではない入所者も制作活動に参加されていた。活動を実施する中で懐かしさや楽しさから職員、他の入所者との会話が増えることに加え、他者の作業を手伝うなど能動的に取り組む様子がみられた。介入終了後も周囲の入所者間でコミュニケーションが生まれ、今後も制作活動を継続したいとの声が多くあがった。
最後に、今回の調査期間内で当施設退所後3ヵ月の在宅生活が経過し、再入所された7名の入所者に対して認短リハ加算を算定した。再入所者にHDS-Rを実施すると7名全員が前回退所時のHDS-Rの得点より低下していた。再入所までに新たな疾患に罹った者はおらず、このことから生活環境の変化を考慮しても施設や在宅における関わりの重要性を裏付ける結果であると考えられる。再入所者7名は前回と同様に3ヵ月間認短リハを行い、入院退所となった1名を除く6名全員が前回退所時と同等にHDS-Rの得点が改善した。今後の認短リハ、介護老人保健施設などの在り方を考える中で、地域の伝統行事など入所者に馴染みのある内容はリハビリや制作活動を継続する上で有効であることが考えられる。また、馴染みのある内容は入所者同士、職員との関わりが生まれやすく入所者の認知機能、身体機能の維持・改善につながることが考えられる。今回の調査では入所者のHDS-Rの得点に改善を認めたが、入所中に表情が良くなったことや能動的な行動が増えたことなど数値化できない変化も多く認めた。そのため、感情のフェイススケールを用いて感情変化などを簡便な形で評価し、今後も調査を続けていきたい。
厚生労働省で人生100年時代と言われる中、2025年には65歳以上の5.4人に1人が認知症になると予測されている。その後も認知症の有病率は右肩上がりになっていくことが予想される。
介護老人保健施設では2006年から認知症短期集中リハビリテーション(以下認短リハ)が開始された。以降、認短リハの介入効果については多くの研究が行われている。今回、当施設においての改訂長谷川式簡易知能評価スケール(以下HDS-R)と移動能力の関係性を調べ、認短リハの関わり方について検討した。
【方法】
期間は令和4年9月1日から令和5年9月30日とした。対象は当施設に入所し3ヵ月間認短リハを実施した30名(男性5名、女性25名)。年齢88.1±8.5歳。対象者全員がアルツハイマー型認知症である。対象者30名のうち歩行動作自立または車椅子自操自立者は17名、介助が必要な者は13名であった。入所後と退所前にHDS-Rを用いて認短リハの効果判定を行った。また在宅復帰後に再入所した7名は同様に入所後と退所前にHDS-Rを実施した。統計解析は対応のあるt検定を用い、有意水準は5%とした。認短リハは週に3回、1回の介入時間は20分以上として実施した。内容は学習療法や回想法、運動療法を中心に入所者の身体機能や認知機能の状態に応じて実施した。特に回想法では愛媛県喜多郡内子町の伝統行事である笹祭りに参加し、笹飾りの作製や会話を行うことを実施した。
【結果】
対象者全員のHDS-Rの平均点数は入所時14.9、退所時17.4(P<0.01)であった。施設内移動自立群のHDS-Rの平均点数は入所時16.1、退所時17.9(P<0.05)となり、施設内移動介助群のHDS-Rの平均点数は入所時13.3、退所時16.7(P<0.01)であった。
また再入所者7名のHDS-Rの平均点数は、入院退所者1名を除き入所時13.8、退所時16.3(P<0.05)であった。
【考察】
3ヵ月間の認短リハを行った結果、移動に介助が必要な入所者の方がHDS-Rの得点が優位に改善を認めた。施設や在宅での生活において移動に介助が必要な場合、居室での時間が増えるため他者との関わりが少なくなることが考えられる。また天気や温度の変化に気づきにくいことや、外出する手段が少なく趣味活動が制限される可能性が考えられる。そうすることで気分の落ち込みや活動性の低下を招き、身体機能や認知機能の低下に繋がる。身体機能や認知機能に対するリハビリテーションとして、牧迫は筋力強化や有酸素運動のほか二重課題や多重課題下での運動を行うことで、全体的な認知機能、身体機能や身体活動量について効果が認められたと述べている。当施設では令和6年度の介護保険制度改正以前から認短リハ算定入所者に対して入所前後訪問を行っている。訪問時に自宅での生活の様子や趣味活動などを調査することで、より本人に合った認短リハを実施することができると考えられる。例として、園庭での有酸素運動や畑仕事などを行っており馴染みのある取り組みを実施することにより意欲的で継続した活動に繋がっている。認短リハ以外の施設内生活では看護師や介護士など多職種共働により医療面でのリスクが少ない入所者はできる限りホールで過ごし他者との交流、テレビや景色を見る機会を設けている。これらより元々自宅や入院中に居室で過ごす時間が長かった入所者の活動機会、他者との関わりが増え、移動に介助が必要な入所者の方が優位にHDS-Rの得点が改善したと考えられる。
次に今回は対象者全員がアルツハイマー型認知症であった。アルツハイマー型認知症の場合は社会性が保たれている場合が多く集団アプローチが行いやすい。Woodsらは施設入居高齢者に対し、個人回想法は認知機能や気分への効果が、グループ回想法ではコミュニケーション能力の改善が認められたと述べている。そのため認短リハの関わりとしての個別アプローチに加えて、集団アプローチとして愛媛県喜多郡内子町の伝統行事である笹祭りへの参加を行った。笹祭りは昭和32年から開催されており町内の商店街に笹飾りを装飾する近隣市町村の方にも馴染みの深い行事である。折り紙や画用紙で輪を作製することや、花紙で花を作製する活動を入所者の身体機能、認知機能に合わせて実施した。若い頃に笹飾りを作製していた利用者も多く、普段リハビリやレクリエーション活動に意欲的ではない入所者も制作活動に参加されていた。活動を実施する中で懐かしさや楽しさから職員、他の入所者との会話が増えることに加え、他者の作業を手伝うなど能動的に取り組む様子がみられた。介入終了後も周囲の入所者間でコミュニケーションが生まれ、今後も制作活動を継続したいとの声が多くあがった。
最後に、今回の調査期間内で当施設退所後3ヵ月の在宅生活が経過し、再入所された7名の入所者に対して認短リハ加算を算定した。再入所者にHDS-Rを実施すると7名全員が前回退所時のHDS-Rの得点より低下していた。再入所までに新たな疾患に罹った者はおらず、このことから生活環境の変化を考慮しても施設や在宅における関わりの重要性を裏付ける結果であると考えられる。再入所者7名は前回と同様に3ヵ月間認短リハを行い、入院退所となった1名を除く6名全員が前回退所時と同等にHDS-Rの得点が改善した。今後の認短リハ、介護老人保健施設などの在り方を考える中で、地域の伝統行事など入所者に馴染みのある内容はリハビリや制作活動を継続する上で有効であることが考えられる。また、馴染みのある内容は入所者同士、職員との関わりが生まれやすく入所者の認知機能、身体機能の維持・改善につながることが考えられる。今回の調査では入所者のHDS-Rの得点に改善を認めたが、入所中に表情が良くなったことや能動的な行動が増えたことなど数値化できない変化も多く認めた。そのため、感情のフェイススケールを用いて感情変化などを簡便な形で評価し、今後も調査を続けていきたい。