講演情報

[14-O-L009-08]栄養管理と運動療法の結果階段昇降が可能となった一例

*入船 裕基1、泉 清徳2、樗木 浩朗1 (1. 福岡県 介護老人保健施設 聖母の家、2. 社会医療法人 雪の聖母会 聖マリア病院)
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栄養管理と運動療法の両面からアプローチすることにより、身体機能が向上し階段昇降が可能となった事例を報告する。血管性パーキンソンニズムを有し、サルコペニアの疑いがある本事例に対し、栄養管理と運動療法を行い体重増加、筋力向上、バランスの向上を得られた。最終的に階段昇降能力が向上し4階の自宅に復帰することができた。栄養管理と運動療法の相乗効果が身体機能の改善に寄与したと考察される。
はじめに
近年運動療法だけでなく栄養管理と組み合わせることで筋力・持久力やADLの維持・向上に効果的であると言われている。今回、自宅復帰のためには階段昇降が必要であった事例に対し運動療法・栄養管理の両面からアプローチすることで身体機能の向上に繋がり在宅復帰できた事例を報告する。
患者情報
事例は陳旧性ラクナ梗塞に伴う血管性パーキンソンニズムを有する80歳代の男性。xを入所日としx-4カ月頃より食思不振と歩行障害、精査加療目的でx-2カ月より前医に入院。病棟ADL自立も移動は介助。自宅が4階であり在宅復帰が困難、リハビリ継続目的で入所となる。当施設入所時は身長180cm体重59.3kgBMI18.3、握力右17kg左15kg、SARC-F日本語版9点、家族より半年で体重が80kgから60kgまで低下との情報もあり原疾患に加えサルコペニアが疑われる状況であった。その他評価はSPPB3点(歩行3点、5回立ち上がり0点(以下5st))と身体機能低下あり。基本動作は修正自立レベルであったが長時間の座位困難。歩行はTUG20秒、BBS18点と転倒リスクは高く、歩行耐久性も60m程度。階段昇降は両手すり使用し20cm3段を監視レベル。ADL面はFIM合計101(運動:67点)、認知機能面はHDS-R23点。口腔面は問題なし、嚥下機能は低下あり、食事形態はソフト食、水分は1度のとろみをつけての提供。慢性腎機能障害もあり腎臓病食(1400kcal)での提供。
経過
今回、体重の増減を前期(x+3カ月の体重増加期)、中期(x+4~5カ月の体重減少期)、後期(x+6~7カ月の体重維持期)の3期に分け記載。前期では経口補助食品を追加し合計1800kcal。BEEは1200kcal、TEEは1560kcalと算出され、エネルギー蓄積量は1ヵ月あたり7200kcal、体重は1ヵ月で1kg増加を目標とした。3カ月後には体重が64kgへと増加、握力も右20kgと改善。FIMは合計110(運動:76点)階段昇降の項目では11段が監視にて可能となり5点、身体機能面ではSPPB5点と改善。また、TUG12.3秒、BBS39点とバランス面でも改善、日中の移動は両手t-cane使用し監視レベル。耐久性も6分間歩行で150mと改善みられた。
中期には嚥下状態の改善に伴いソフト食から一口大へと食上げした。補助食品は余りリハビリ回数減少による活動量低下もあり、補助食品中止し摂取カロリーは1400kcalとした。その後、体重が62.5kgと低下、SPPB6点だが5stが1から0点へと低下、TUGも14秒へ低下。BBSは41点へと改善し6分間歩行・FIMは変わらず。階段昇降は1階から2階までの25段が軽介助で可能も疲労感は強くあった。
後期には補助食品を再開、本人からの希望も聴取し15時頃に飲むように調節、1日の摂取カロリーが1600kcalとなった。1か月後体重は62.5kgと維持傾向となり、SPPB合計7点(5st1点)、TUG12秒と改善。6分間歩行190mと向上、階段昇降45段が軽介助にて可能となった。また、「登るのが楽になってきた」との発言もあり。さらに、退所前訪問時には自宅階段も可能であった。X+7カ月には日中の活動量増加に伴い、主食の量を増やし1700kcalと摂取量を上げた。
運動療法は、抵抗運動に加えバランス練習や歩行練習、自転車エルゴメーター、階段昇降など膝の痛みに合わせて訓練内容を変更しつつ3METs程度の負荷がかかるよう実施。中期は体重減少のため抵抗運動の負荷量を減らしバランス練習を中心に実施。階段昇降は、片手手すりでの動作が可能となった時点で施設内階段を用い在宅と同様の手すりの方向での練習を行った。また、歩行速度の改善や昇降できた段差の向上など改善した所を前向きに評価しその都度伝えた。訓練時間は前期には週5回20分、中期・後期には週3回20分実施。後期には自主トレーニングとして歩行を導入した。
考察
本事例は地域活動に積極的で外交的な性格であった。しかし、外出時の転倒をきっかけに自信を喪失し、人に迷惑がかかると思い他者交流が減少、社会的フレイルに陥った。さらに、うつ傾向となり食欲不振から慢性的な飢餓状態へと陥り、半年で急激な体重減少、階段昇降が一人では難しくなりひきこもりとなった。そのため、身体・精神・社会的な各要因がマイナス方向へと働き在宅生活が困難となった。本事例が在宅復帰後もひきこもりとならないよう、栄養状態の改善と外出機会を持ち、活動量を維持することが重要だと考え、少ない介助での階段昇降能力の獲得を目標とした。
目標達成のため、栄養管理と運動療法の両面からのアプローチを行った。本事例では、栄養状態のアウトカムとして体重の増減をおった。前期には体重増加や身体機能の各種評価項目の改善がみられ、階段昇降も11段が監視で可能となった。しかし、中期ではカロリー摂取の低下に伴い体重減少、身体能力の低下あり。階段昇降は24段まで可能となったが疲労感も強く、それ以上の階段昇降のためには下肢筋力や耐久性の向上が必要であった。後期には経口補助食品を再開し飲むタイミングを調節することで習慣化でき、体重も維持傾向となった。栄養状態の改善と共に5stや歩行耐久性の向上あり。1階から4階までの階段昇降が可能となり、疲労感も軽減した。階段昇降に関しての先行研究では、下肢筋力よりバランス能力の向上と相関があるとの報告あり、本事例においても5stやBBS上のバランス能力の向上と階段昇降の向上がみられた。しかし、1階から4階までの階段昇降能力の獲得は、下肢筋力や耐久性が関連しておりそのためには栄養管理が重要であった。また、全期を通してポジティブフィードバックに努めることで、自宅復帰に対する前向きな発言も増え、自主トレーニングなどに繋げることができた。
本事例を振り返ると運動療法と合わせて栄養管理をおこなうことで、バランス面やFIM上での影響は少なかったが、5stや歩行耐久性の向上1階から4階までの階段昇降動作については、両面から行う重要性が確認できた。