講演情報

[14-O-P201-02]プリセプターとプリセプティ2人の奮闘記

*森永 祥貴1、伊藤 智也1 (1. 京都府 介護老人保健施設宇治徳洲苑)
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日本では近年、介護業界の人材不足は深刻化おり、人材育成は急務である。当施設も例外ではなく、新入職員の定着に向け、プリセプター制度を採用し、人材育成に取り組んでいる。開設から8年間、入職者は全員既卒者であったが、昨年、初の高校新卒者が入職した。プリセプターとプリセプティが、共に悩み苦しんだこの1年、何が見えたかここに振り返る。
プリセプターとプリセプティ2人の奮闘記

はじめに
 日本では近年、介護業界の人材不足は深刻化しており、人材育成は急務である。
 当施設も例外ではなく、新入職員の定着に向け、プリセプター制度を採用し、人材育成に取り組んでいる。昨年、初の高校新卒者が入職することになった。この1年、プリセプターとプリセプティが、何に悩み苦しんだかここに振り返る。

プリセプターの背景
 28歳、男性、身長180センチメートル、当施設入職5年目。コミュニケーション力があり、誰とでも仲良くできる性格。中堅職員であるが、何となく業務に取り組む日々の中、「このままで良いのか?」と自問自答していたタイミングで、上司から新卒職員のプリセプターになってみないかと勧められる。不安はあったが、自身の成長に繋がるのではと、応じることにした。

プリセプティの背景
 18歳、女性、身長140センチメートル、コミュニケーションは苦手、内向的な性格。介護課程の高等学校を経て、新卒職員として当施設へ入職。在学中は、コロナ禍であったため、利用者の直接生活介助は未経験。最終目標は『夜勤業務ができるようになる』である。

期間
 令和5年4月~令和6年7月

経過
 入職後、最初は、先輩職員やプリセプターと行動を共にし、利用者の顔と名前を覚えることからスタート。2週目から、名前と介助方法が理解できた軽介助を必要とする利用者の直接生活介助と、入浴準備や備品補充などの間接生活介助に取り組んだ。
 プリセプティは、在学中の授業では『優』と評価を受けた実技を、介護現場では未熟と評価され、落ち込んでいた。同時期に入職した職員が先に新しい業務に取り組む姿を見て、焦りを感じているようでもあった。
 そんな矢先、移乗介助時に、利用者と共に転倒する事故が発生した。できることが増えてきた時期の事故であった為、直接生活介助に自信を失い、精神的にも落ち込んだ。
 これについて、プリセプター、プリセプティ、上司で検討を行った。先輩職員やプリセプターが、移乗を克服するために、直接繰り返し指導を行った。また、セラピストには、体格の小さいプリセプティに合う移乗方法の指導を受けた。時間経過と共に、直接生活介助に自信を取り戻す様子が見られた。プリセプティには、職場に同じ年頃の職員はおらず、他職員との年齢差があり、孤立していると感じていた。プリセプターは、プリセプティの性格や思いを理解した上で、先輩職員から好かれるようになってほしいと思い、折に触れ先輩職員には長い目で見てくれるよう依頼していた。しかし、先の事故で落ち込んだプリセプティは、すぐには気持ちを修正できずにいた。その姿勢を見て先輩職員は、覇気がないと映り、業務に対して当たりの強い指導・指摘がなされるようになった。この頃から、「他職員に陰口を言われている」とプリセプティは感じる様になった。以降、課題とする未熟な業務に加え、職員間のコミュニケーションについても気にするようになった。現在では、以前に比べると聞き流す方法を身につけたようで、悩むことは少なくなった。
 プリセプターの指導内容に関しては教育委員会(管理職を含めた多職種で構成)で進捗状況を共有し、指導内容の評価を行っている。プリセプターとプリセプティ、上司との三者面談は行ってきたが、プリセプター自身への面談は行えていなかった。プリセプター自身が過度な負担を感じるようなり、負担が軽減するよう、プリセプターと上司間での二者面談を最低3ヶ月に1回行うことにした。

結果
 1年が経ち、プリセプティは現在も休むことなく勤務しており、早出・日勤・遅出の勤務に従事できている。最終目標の『夜勤ができる』に関しては、7月に夜勤業務を担う予定である。

考察
 社会人1年目のプリセプティは、社会人として、組織人・専門職としても未熟である。加えて、価値観や育ってきた時代背景も異なる。業務を共にすることで、直面するさまざまな出来事の全ての責任が、プリセプティにではなくプリセプターにあるように感じ、精神的に追い詰められ、負担は大きかった。それについて毎月教育委員会で検討し、途中から二者面談を設けたことで、プリセプターのサポートができ、精神的負担のある程度の軽減は図れた。しかし、精神的負担の大半を占める職員間でのプリセプター制度に関する認識の誤差については、結局最後まで解決することはできなかった。指導に入る前に、近年の新入職員の特徴や、プリセプター制度について先輩職員に説明し、共通の認識のもと、教育に協力を依頼する必要があると考える。
 1年が経ち、直接・間接生活介助をプリセプティに教えることで、技術の再確認ができた。そして、知らなかったことや、間違っていたことも多く、改めて学び直すことができ、成長したと実感できる。プリセプティに感想を聞くと、気持ちの浮き沈みはあったが、常に寄り添い、悩みを共有できたことで、今では、「お兄ちゃんのような存在。一緒に親身に悩んでくれ、気づきやヒントをくれる。プリセプターにしか話せないこともある」と話してくれた。2人は信頼関係を築くことが出来たといえる。

まとめ
 プリセプター制度によって、プリセプターはプリセプティと一緒に成長することができたといえる。今回、プリセプターの視点から振り返ることで、この制度を有効に活用するためには、プリセプターの精神的負担を軽減することが重要になることが分かった。組織として教育環境を整え、プリセプターの負担を減らす取り組みが今後の課題である。