講演情報
[14-O-P202-01]育成の力で介護職の早期離職に挑む
*渡辺 雅彦1、金親 孝好1、大崎 俊哉1 (1. 千葉県 介護老人保健施設シルバーケアセンター)
介護職の早期離職を防ぐ目的で、新人育成体制を見直し、強化したところ、早期離職率に大きな変化がみられたので報告する。新規採用者へのアンケート調査と取り組み前後の早期離職率を比較した。取り組みを長期間続けた結果、早期離職率が大幅に低下し、定着率が2倍以上に改善した。育成体制の見直し、強化は早期離職防止に効果があるだけではなく、定着率の向上にも効果があり、今後の人材不足にも有効だと考えられる。
【はじめに】
介護職の離職率が国の平均値と変わらず、離職率の高かった職業というのは過去の話しということを耳にする。だが、早期離職率はどうだろうか。
国の調査では、介護職3年未満の離職率は61.2%であり、この内1年未満の離職率は36.2%となっている。新規学卒者における3年以内の離職率は概ね36%であり、比較すると介護職の早期離職率は、かなり高い水準だといえる。このことから、介護職の全体的な離職率は以前より低下したものの、早期離職率は高いといえる。
この研究では、新規採用者の育成体制を見直し、強化することで『早期離職率を下げることは可能か、特に1年未満の離職率は育成体制との関係が深いのではないか』と仮説を立て取り組み、早期離職率に大きな変化がみられたので、その結果を報告する。
【方法】
実施期間:2010年~2024年
対象者:新規採用入所介護職員12名(非正規職員含む)
評価方法:取り組み前後の早期離職率データの比較、新規採用者へのアンケート調査
【取り組み前の早期離職状況】
2003年~2010年までの7年間における早期離職率は3年未満で54.8%、内1年未満は38.7%であった。新規採用者の半分以上が3年以内に退職しており、1年未満の離職率は介護職の平均値を上回る現状であった。※2003年~2010年の採用者31名(非正規職員含む)
【取り組み内容】
まず、はじめに習得業務の分析を実施した。これにより習得シフトは13パターンあり、指導項目は200項目以上あることがわかった。この分析をもとに、ばらついていた指導日数を改善し、未経験者は55日、経験者は45日とキャリアに応じた設定とした。シフト習得方法も、夜勤以外のシフトを全て指導してから独立する方法だったが、指導したシフトは順次独立を図り、独立シフトをこなしながら新たなシフトを習得する方法を導入した。これにより、習得期間が長くなり、短期間で多くのシフトを習得する負担が軽減され、時間的余裕が生まれた。また、独立シフトに慣れながらステップアップしていく方式となり、業務習得しやすい環境に繋がった。さらに、この習得方法をよりサポートするため、独立後も指導者を近くに配置した。これらの改善から、事前にOJT計画を立て、習得スケジュールを見える化することにより、今までできていなかったシフト作成者との連携が可能となった。また、指導者、育成担当者、新規採用者との共通ツールとして機能させることに成功した。この他にも、指導者OJT研修、指導育成マニュアルやOff-JTの整備、育成ノート、指導業務管理表などの育成ツールを開発しながら、多くの取り組みを実施して14年間挑み続けた。
【結果】
取り組み実施前と実施後の早期離職率データを比較すると、3年未満の離職率54.8%に対し、実施後は24.9%と半分以下に減少した。内訳から、1年未満の離職率が大きく影響しており、38.7%から8.3%に減少し、4分の1以下であった。定着率については、32.3%から、実施後75%と2倍以上の改善がみられた。
新規採用者に実施したアンケート調査では、全ての質問項目において、高い評価を得ており、育成体制の強化が有効であったことがうかがえた。
新規採用者アンケート調査
(対象者8名 回答率100%※項目5は調査期間の途中で新設したため6名に実施)
1,育成体制があることで安心感はあったか
そう思う 100%
2,業務遂行能力、技術、知識、その他職務遂行に必要な能力を無理なく段階的に習得できたか
そう思う 100%
3,指導者が『新人を育てよう』という意識は感じられたか
そう思う 88% どちらともいえない 12%
4,悩んだ時に、指導者は親身になって相談に乗り、解決のアドバイスをしたか
そう思う 100%
5,育成期間は適切だったか
そう思う 100%
6,育成を図るためには、新人育成チームは必要か
そう思う 100%
【考察】
新規採用者の育成体制を見直し、強化したことで、1年未満の離職率が大幅に減少した。アンケート調査結果からは、新規採用者の育成環境などに良い影響があったと考えられる。某企業の調査では早期離職者の69%が職場内の人間関係、業務に対する不安を要因としており、リアリティショック、新人指導の有無なども要因として挙げられている。育成体制の強化は、指導者とのコミュニケーションを通し、良好な人間関係の構築、業務に対しての不安軽減にも繋がったと考えられる。また、先行研究では、採用時の研修の一部が早期離職抑制に影響を与え、採用後の継続的な教育、研修による人材育成が介護職の定着に影響を及ぼすことがわかっている。OJTを適切に行わず、そのまま時間が経過すると夢、希望、意欲などを失い、転職や会社を辞めたいということに繋がりかねないと指摘している。
このことから、新規採用者の育成体制を強化することは、早期離職を防ぐことに効果があり、特に1年未満の離職防止には高い効果があると結論付けた。また、早期離職防止だけではなく、定着率の向上にも高い効果があると考えられる。
【終わりに】
介護職の早期離職を防ぐことは、健全な事業運営だけではなく、今後進むと予測されている介護職の人材不足に対し、有効な解決手段のひとつだといえるのではないだろうか。早期離職防止を意識できる新人育成チームを作り、運用するかは私たち次第である。この行動が私たちの未来を大きく変えるのかもしれない。
【引用・参考文献】
介護労働安定センター(2021)『介護労働の現状について』
厚生労働省(2019)『新規学卒就職者の離職状況』
厚生労働省(2014)『新人看護職員ガイドライン改訂版』
大和三重(2014)『介護職の定着促進に向けて』
花岡智恵(2010)『介護労働者の早期離職要因に関する実証分析』
PRTIMES記事(2019) 株式会社エス・エム・エス 『介護職早期離職要因調査』
介護職の離職率が国の平均値と変わらず、離職率の高かった職業というのは過去の話しということを耳にする。だが、早期離職率はどうだろうか。
国の調査では、介護職3年未満の離職率は61.2%であり、この内1年未満の離職率は36.2%となっている。新規学卒者における3年以内の離職率は概ね36%であり、比較すると介護職の早期離職率は、かなり高い水準だといえる。このことから、介護職の全体的な離職率は以前より低下したものの、早期離職率は高いといえる。
この研究では、新規採用者の育成体制を見直し、強化することで『早期離職率を下げることは可能か、特に1年未満の離職率は育成体制との関係が深いのではないか』と仮説を立て取り組み、早期離職率に大きな変化がみられたので、その結果を報告する。
【方法】
実施期間:2010年~2024年
対象者:新規採用入所介護職員12名(非正規職員含む)
評価方法:取り組み前後の早期離職率データの比較、新規採用者へのアンケート調査
【取り組み前の早期離職状況】
2003年~2010年までの7年間における早期離職率は3年未満で54.8%、内1年未満は38.7%であった。新規採用者の半分以上が3年以内に退職しており、1年未満の離職率は介護職の平均値を上回る現状であった。※2003年~2010年の採用者31名(非正規職員含む)
【取り組み内容】
まず、はじめに習得業務の分析を実施した。これにより習得シフトは13パターンあり、指導項目は200項目以上あることがわかった。この分析をもとに、ばらついていた指導日数を改善し、未経験者は55日、経験者は45日とキャリアに応じた設定とした。シフト習得方法も、夜勤以外のシフトを全て指導してから独立する方法だったが、指導したシフトは順次独立を図り、独立シフトをこなしながら新たなシフトを習得する方法を導入した。これにより、習得期間が長くなり、短期間で多くのシフトを習得する負担が軽減され、時間的余裕が生まれた。また、独立シフトに慣れながらステップアップしていく方式となり、業務習得しやすい環境に繋がった。さらに、この習得方法をよりサポートするため、独立後も指導者を近くに配置した。これらの改善から、事前にOJT計画を立て、習得スケジュールを見える化することにより、今までできていなかったシフト作成者との連携が可能となった。また、指導者、育成担当者、新規採用者との共通ツールとして機能させることに成功した。この他にも、指導者OJT研修、指導育成マニュアルやOff-JTの整備、育成ノート、指導業務管理表などの育成ツールを開発しながら、多くの取り組みを実施して14年間挑み続けた。
【結果】
取り組み実施前と実施後の早期離職率データを比較すると、3年未満の離職率54.8%に対し、実施後は24.9%と半分以下に減少した。内訳から、1年未満の離職率が大きく影響しており、38.7%から8.3%に減少し、4分の1以下であった。定着率については、32.3%から、実施後75%と2倍以上の改善がみられた。
新規採用者に実施したアンケート調査では、全ての質問項目において、高い評価を得ており、育成体制の強化が有効であったことがうかがえた。
新規採用者アンケート調査
(対象者8名 回答率100%※項目5は調査期間の途中で新設したため6名に実施)
1,育成体制があることで安心感はあったか
そう思う 100%
2,業務遂行能力、技術、知識、その他職務遂行に必要な能力を無理なく段階的に習得できたか
そう思う 100%
3,指導者が『新人を育てよう』という意識は感じられたか
そう思う 88% どちらともいえない 12%
4,悩んだ時に、指導者は親身になって相談に乗り、解決のアドバイスをしたか
そう思う 100%
5,育成期間は適切だったか
そう思う 100%
6,育成を図るためには、新人育成チームは必要か
そう思う 100%
【考察】
新規採用者の育成体制を見直し、強化したことで、1年未満の離職率が大幅に減少した。アンケート調査結果からは、新規採用者の育成環境などに良い影響があったと考えられる。某企業の調査では早期離職者の69%が職場内の人間関係、業務に対する不安を要因としており、リアリティショック、新人指導の有無なども要因として挙げられている。育成体制の強化は、指導者とのコミュニケーションを通し、良好な人間関係の構築、業務に対しての不安軽減にも繋がったと考えられる。また、先行研究では、採用時の研修の一部が早期離職抑制に影響を与え、採用後の継続的な教育、研修による人材育成が介護職の定着に影響を及ぼすことがわかっている。OJTを適切に行わず、そのまま時間が経過すると夢、希望、意欲などを失い、転職や会社を辞めたいということに繋がりかねないと指摘している。
このことから、新規採用者の育成体制を強化することは、早期離職を防ぐことに効果があり、特に1年未満の離職防止には高い効果があると結論付けた。また、早期離職防止だけではなく、定着率の向上にも高い効果があると考えられる。
【終わりに】
介護職の早期離職を防ぐことは、健全な事業運営だけではなく、今後進むと予測されている介護職の人材不足に対し、有効な解決手段のひとつだといえるのではないだろうか。早期離職防止を意識できる新人育成チームを作り、運用するかは私たち次第である。この行動が私たちの未来を大きく変えるのかもしれない。
【引用・参考文献】
介護労働安定センター(2021)『介護労働の現状について』
厚生労働省(2019)『新規学卒就職者の離職状況』
厚生労働省(2014)『新人看護職員ガイドライン改訂版』
大和三重(2014)『介護職の定着促進に向けて』
花岡智恵(2010)『介護労働者の早期離職要因に関する実証分析』
PRTIMES記事(2019) 株式会社エス・エム・エス 『介護職早期離職要因調査』