講演情報

[14-O-P202-03]介護福祉士の自己啓発の実態

*米満 知美1、川尻 祐介1、福徳 一隆1、岩元 春己1、柳田 誠1、福本 伸久1 (1. 鹿児島県 垂水市立介護老人保健施設コスモス苑)
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介護福祉士の自己啓発や生涯学習へ対する意識を明らかにすることを目的に、介護福祉士10名の面接を行った。勤務経験が自施設のみで全部署異動経験がある介護福祉士の自己啓発や生涯学習の意識は低かったが、他施設経験があり自施設での経験と異動が少ない介護福祉士はそれらの意識が高かった。双方の考えを尊重しながら相互啓発を尊重し、生涯にわたり自律的に学習を続けることができるような働きかけが必要であると考えた。
【はじめに】
世界に類をみない速度で人口の高齢化が進む日本。医療の進展とともに介護・福祉分野の充実も進む中、介護福祉士の役割は益々大きくなっている。今後も社会情勢の変化に対応できるように、保健・医療・福祉の分野に携わる専門職には柔軟な姿勢と質の高い技術・能力が求められる。介護福祉士については、介護福祉士法や日本介護福祉士会の倫理基準のなかで、専門職であることの自覚と、専門知識や技術の研鑽に励むことの必要性が示されている。しかし実際はどうであろうか。自施設の介護福祉士の中には根拠に乏しい発言があったり、看護師や療法士に安易に意見を求めたりするケースが幾らかあった。また他職種と比べると施設外研修への参加率も低く、これらの原因追求が不可欠であると感じた。今日までの先行研究では、介護福祉士の自己啓発に関する実態調査は見られたが、自己啓発の意識や傾向等に関する研究は見当たらなかった。そこで今回、自施設に勤務する介護福祉士の自己啓発に関する実態を明らかにし、今後の課題を明確にしたいと考えた。
【目的】
介護福祉士の自己啓発の程度や生涯学習の意識を明らかにし、今後の課題を明確にする。
【研究方法】
1)研究デザイン:質的帰納的研究  
2)対象者:自施設に勤務する介護福祉士10名 
3)研究期間:2023年4月1日~1月31日(データ収集期間:2023年10月11日~12月15日)
4)データ収集方法(半構造化面接・クロス集計)自作のインタビューガイド(設問1.過去・現在の自己啓発活動の有無2.生涯学習の必要性3.将来のビジョン等) をもとに面接を行い、内容を精密に記録した。その後逐語録から共通項を見つけ出し、それらを基にクロス集計を行い、現況に至った原因を検討した。
5)倫理的配慮本研究の目的と方法を口頭で説明したあと、研究への参加は自由であること、質問には無理に答えなくてもよいこと、途中で辞退しても不利益を被ることがないこと等を伝えた。また個人が特定されることはなく、データも研究以外の目的で使用することはないことを口頭で確約した。
【結果】  
面接を行った介護福祉士10名のうち、過去・現在ともに自己啓発活動に取り組み、今後の予定も立てていた介護福祉士は5~7名であった。また専門職としての将来のビジョンを描いていた介護福祉士は3名、生涯学習の必要性を感じていた介護福祉士は5名と少なかった。このように介護福祉士間で自己啓発や生涯学習に対する意識に相違が見られたが、それらは自施設での経験年数や異動、他施設での経験等が関与していた。勤務経験が自施設のみで全部署異動経験がある介護福祉士 5名のうち2~3名は、過去・現在ともに自己啓発活動に取り組んでいなかった。また4~5名が今後の予定や将来のビジョンもなく、生涯学習の必要性も感じていなかった。一方、他施設経験はあるが自施設での経験年数と異動経験が少ない介護福祉士5名のうち3~4名は、過去・現在ともに自己啓発活動に取り組んでいた。5名全員が今後の予定や将来のビジョンも描いており、生涯学習の必要性を強く感じていた。
【考察】
勤務経験が自施設のみの介護福祉士は、日々の介護実践を学習機会とし、スキルアップに繋げていた。自施設での経験も豊富で全部署で経験があるため気持ちに余裕があり、現状でも業務に支障がないため自己啓発に意識が向かず、マンネリズムに陥っていたと考えられる。一方、他施設での勤務経験がある介護福祉士は職場を入退職することで、その時々の介護・福祉事情や介護福祉士の役割等を再認識していた。多様な価値観や年代の人と関わる機会も多く得ていたため専門職としての意識も向上し、今後のビジョンも想像していたと考えられる。更に自施設での経験や異動が少ないため、適度な緊張感を持っている。これらのことが自己啓発や生涯学習を当然のこととして認識するきっかけになったと考えられる。久保則夫は「業務時間だけが仕事ではない。専門職として自らを高めて行く不断の努力を怠ってはならない。それこそがプロである」と述べている。自己啓発が仕事の質や満足度の向上等に繋がることも明らかにされている。介護福祉のプロとして職業活動を継続する生涯にわたり自律的に学習を続けることができるよう働きかけていくことが重要である。
【結論】
勤務経験が自施設のみで全部署異動経験がある介護福祉士より、他施設経験があり自施設での勤務経験や異動が少ない介護福祉士の方が自己啓発の意識が高いことが明らかになった。今後の課題は1.自己啓発・生涯学習の必要性を伝える2.キャリア形成と生涯学習の支援策を検討する3.自施設のみの介護福祉士と他施設経験がある介護福祉士をバランスよく配置する4.施設外研修への参加を促す5.目標管理やラダー制度の活用状況を確認し助言する6.主体性を養う方法を模索する等である。