講演情報

[14-O-P202-05]当施設における新人教育に関する新たな取り組み

*加藤 大樹1 (1. 愛知県 老人保健施設やすらぎ)
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当施設における新人教育について、近年の情勢を踏まえた取り組みを行ったので報告する。従来の新人教育における課題を分析し、チェックリストやOff-JTの導入をはじめとする、いくつかの改善策を講じた新人教育マニュアルを作成し運用を開始した。結果、苦手分野の明確化や、到達度の可視化、教育担当者の負担軽減に繋がった。一方で新たな課題も見つかり、引き続き新人教育体制を洗練させていく必要があると考えられた。
【はじめに】
 当施設は、急性期病院を筆頭に回復期、生活期、予防の分野まで幅広く医療・介護事業を展開する社会医療法人に属する老人保健施設であり、地域における医療と介護の橋渡し役を担っている。
 当施設では例年数名の新人療法士が入職し、数年ごとの法人内異動により様々な領域を経験することとなる。これまで当施設における新人教育は教育担当者の裁量に委ねられており、一貫性・継続性に欠けるものであることが積年の課題であった。
 一方、リハビリ職の新人教育については、医療技術の高度化や卒前教育の変化、活動する領域の多様化などを背景に、2020年に日本理学療法士協会より「新人理学療法士職員研修ガイドライン(初版)」が発行されるなど、大きな転換期を迎えている。これらの状況を鑑み、当施設でも2022年度より新たに新人教育マニュアルを作成し、新人教育の抜本的な見直しに着手した。
 本稿では、新人教育マニュアルの中で柱となる「新人教育チェックリスト」および「Off The Job Training(Off-JT)」の概要と実際の運用状況、今後の課題について報告する。

【対象】
2022年度~2023年度に入職した理学療法士2名、作業療法士2名

【方法】
1)課題の把握
 従来の新人教育における課題を分析した結果、教育担当者による教育内容や進行度の差が大きい、時期ごとの達成度や到達目標がわからない、教育担当者に負担が偏りやすい、老健に特化した領域は学ぶ機会が多いが医療分野の知識・技術に不安が残る、などの課題が挙げられた。
2)改善策
 上記の課題について、「新人理学療法士職員研修ガイドライン」を参考に改善策を検討した。
新人教育チェックリストの作成
 教育内容の標準化を図るため、一年間で習得すべき内容を、基本業務、礼節、書類業務、臨床技能、その他周辺業務の5大項目と、具体的な指導内容を記した67小項目に細分化し、一枚のシートで一年を通して進捗度を確認できるチェックリストを作成した。
到達目標の可視化
 新人教育チェックリストの小項目を新人療法士が到達すべき時期で色分けし、視覚的に、どの項目を、いつまでに、どの程度指導すべきかを認識しやすくした。
新人教育業務の分散
 新人教育担当者の指導領域を、臨床技能を除く基本業務全般とし、臨床技能については新人療法士が担当する利用者ごとに臨床指導担当者を別に設けることとした。また、新人教育担当者は、臨床指導担当者の指導状況を管理し、新人療法士の臨床技能の到達度についても十分に把握できるよう努めることとした。
Off-JTの導入
 日常業務では得られにくい知識や技術、また入職後早期に一定の知識を得るべき領域等については、Off-JTを導入し、効率的かつ体系的な教育を行うこととした。
3)実際の運用
新人教育チェックリスト
 リハビリ職員全体と新人療法士に対し、チェックリストの概要と、チェックリストを見ることで誰でも容易に新人教育の進捗状況を把握することができる旨を説明した。
 運用方法は、時期に応じて面談を設定し、チェックリストを用いて進捗状況を確認しながら振り返りを行った。各項目の達成度については、0-見学、1-模倣、2-助言・見守り、3,4,5-自立(可・良・優)の6段階評価で採点し、1年を終えるまでにすべての項目が3-自立(可)以上の採点となることを目標とした。
Off-JT
 老健に特化した領域については独自に講義を行い、その他領域については法人内のe-ラーニングを活用することとした。さらに症例報告会を月に一回開催し、臨床推論能力や言語化能力、ディスカッション能力の向上を図った。
4)効果判定
 年度末に、教育担当者と新人療法士に、アンケートを実施した。質問項目は、(1)新人教育の進行度合いは適切でしたか、(2)臨床を含む業務全般を滞りなく遂行できる水準に達することができましたか、(3)教育担当者(新人療法士)とのコミュニケーションは良好に行うことができましたか(以上、すべて選択式と自由記載)、(4)全体を通じて感じたことや今後の課題と感じることがあれば記載してください(自由記載)の4項目とした。

【結果】
 アンケート結果(1)はい75%、どちらでもない25%、いいえ0%、(2)はい38%、どちらでもない50%、いいえ12%、(3)はい63%、どちらでもない25%、いいえ12%、(4)多くの先輩療法士の意見を聞くことができた、チェックリストを使うことで不足している知識や苦手分野を明確にできた、e-ラーニングを活用する機会が少なかった(以上、新人療法士)、教えるべき事柄を時期ごとに把握できて良い目安になった、当事者以外の職員がチェックリストを活用する場面が少なかった、臨床指導担当者を設けたことで負担感が減った(以上、教育担当者)という回答が得られた。

【考察】
 今回、当施設における新人教育に関する新たな取り組みについて報告した。成果として、チェックリストを作成したことで指導すべき内容や時期が整理されスムーズに新人教育を行うことができたこと、苦手分野や習得が求められる領域を可視化できたこと、教育担当者への負担を軽減できたこと、などが挙げられる。一方で、施設ぐるみの教育体制が十分に根付いていないことや、Off-JTを活用しきれていないことなどの新たな課題も見つかった。
 総じて、教育担当者、新人療法士からはポジティブな反応を多く得ることができたが、実際に運用を開始してから2年と期間が短く、一貫性・継続性の観点ではさらなる検証が必要である。引き続き、新たな課題への対策を講じるとともに、卒前・卒後教育の情勢にもアンテナを張り、止まることなく新人教育体制を洗練させていく必要があると考える。