講演情報

[14-O-P202-06]介護看護の包摂ケア確立を目指した人材育成プログラム第一報

*入学 佐美里1、平田 次郎1、浅倉 友子1、山本 敬三1、佐藤 淳1、今部 葉子1 (1. 神奈川県 医療法人俊榮会介護老人保健施設ナーシングピア横浜)
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介護職と看護職それぞれの専門性を包摂するケアの確立を目的とする第一段階として、介護職対象のキャリアパスとキャリアラダーを連動した人材育成プログラムの開発を試みた。介護職の定着促進と介護実践習得及び獲得への支援としてキャリア形成の明確化とラダー教育による継続的育成が必要と考え、パスとラダーに併せてスキルマスター制度とチーム支援型育成体制を新設した。運用に向けての第一報として報告する。
緒言
 超高齢社会における介護老人保健施設での介護職と看護職の連携協働はますます重要になっている。高齢者個々のニーズに対応するきめ細かいケアを提供するには各々の専門性を包摂したケアが必要となり、相互の関係性がそのケアの質を左右する重要な要素となる。しかし、実際には様々な課題が存在し、それらは両職種の職務満足度や定着率へ影響を及ぼしているとされ、さらに介護職はケアの実施に自信がなく、看護職は役割の違いから自己の役割を見失うという問題を感じているという報告もある。介護福祉士と看護師の業務独占資格の違いによる業務範囲の差異も、専門性の包摂において考慮する点がある。
 また、介護職の離職率は改善を示す一方で、事業所の65.9%は人員不足を感じている。1)R.5年5月に実施したA介護老人保健施設における介護職28名への半構造化面接では全体の82.6%が自身の介護技術に何らかの不安があると答え、介護職の定着促進と介護実践習得及び獲得への支援としてキャリア形成の明確化とラダー教育による継続的育成の必要性が改めて示唆された。
 医療と介護を通じた社会的貢献を目的とする法人にとって、両職種による各々の専門性を包摂したケアの確立は重要課題である。その第一歩として、介護職向けのキャリアパスとキャリアラダーを連動した育成プログラムの開発を試みた。
目的
キャリアパスとキャリアラダーを連動した介護職育成プログラム(以下プログラム)の開発
結果
 キャリアパス(以下パス)とキャリアラダー(以下ラダー)を連動した法人内介護職育成の仕組みをインフィニティケアプログラム(ICP)とし、介護スキルマスター制度(以下マスター制度)を新設した。いずれもドレイファスモデルが基盤のベナー看護論を参考に作成した。
経験年数によりレベルを6段階(0~6)としたパスの特徴は、1)各階層での必須資格と必修研修の明確化、2)主任以上において管理コースと実務コースの2コース設定、3)2コース間でのキャリア変更が可能、4)9年目で部長職到達可能の4点である。
 次にラダーでは個人でのOJT、Off-JTによる知識技術習得に合わせてマスター制度を新設した。マスター制度ではパスレベル0をG0~2(以下G0-2)の3階層に、パスレベル1以上をG3とマスター(以下G3-M)の2階層に分類し、各階層における必須要件を設定した。特徴は1)マスター制度においてG0-2は年5回の試験月から2回、G3-Mは年3回の試験月から1回を各自が自由に選択し受験、2)試験は筆記と実技で構成し、筆記では介護知識他、接遇、組織理念を組込む、3)筆記はe-learningを活用し、実技は動画等視聴後にOJTにおいて手技確認を経て受験、4)G3ではG0-2へのOJT指導を必須として筆記に含む、5)介護知識技術の水準担保のためパスレベル1-5において1年に一度の同階層受験を推奨した更新制を導入、の5点である。さらに自身が所属するラダー階層の知識技術の評価時に次の指標となる上位項目を見える化した階層毎の評価項目一覧を作成した。
 最後に各階層での指導支援としてチーム型を基本とする育成体制を設定した。
考察
 超高齢社会における高齢者ケアでは介護看護それぞれが担う領域の重なりが広がり、より一層の連携協働が求められる。しかし、職種間の理解や尊重の不足が連携協働の阻害要因になっているという報告もある。
 今回、各々の専門性を包摂したケアの確立を目指す第一段階として介護職対象のパスとラダーを連動したプログラム開発に着手した。このプログラムは介護職個人がキャリア形成を意識した知識技術の習得と獲得を自律的に目指すための指針である。
 パスでは介護職個々が早期より自身のキャリア展望を探ることを可能にし、次への基準を明確にした。次に進むために必要な知識技術の理解に役立ち、ライフイベントに対応したコース変更も可能とすることで継続的な就業に繋がると考えた。さらに、9年目での部長職到達では「実践技術が優れているからと言って、エキスパートではない、人格を磨くことや人間関係構築能力もスキルが発達していく総合的な総体」とするベナーが中堅到達は10年を要するとした結果に基づくが、併せて昇格を可能とする管理者育成プログラムの早期確立も課題である。
 パスの明確化はキャリア形成の支援と介護職のスキルセットを拡充する役目があり、中長期的なエンゲージメントに寄与すると考える。
 次にラダーは、介護職が業務を通じてたどる成長の指標であり、様々な業務役割の経験により得られる知識技術の獲得を目指す。業務習得はOJTを基本とし、育成体制において習得を支援する。Off-JTでは知識の定着促進を図り、新設のマスター制度で実践の獲得を推進する体制を併せた。ラダー階層毎の評価項目一覧ではスモールステップの見える化により、「自身の技術力」への不安解消を支援し、指導内容の焦点化とつまずく点の明確化による到達への共通認識がチーム型育成体制を支える。ラダー活用により介護職が自身の専門性を再認識し、社会的貢献への意識向上にもつながると推察する。
結語
 各々の専門性を包摂するケア確立に向けて両職種が自律的に連携協働を図れる介護と看護の共通人材育成プログラムへとつなげたい。
引用参考文献
1)令和5年度介護労働実態調査.公益財団法人介護労働安定センター.https://www.kaigo-center.or.jp/report/jittai/(参照2024-07-01)
2)吉田さとみ.介護保健施設の管理者による看護職と介護職の協働・連携を円滑にするための実践.老年看護学.2021,26(1),p.79~87
3)山田千春.介護老人保健施設で働く看護師の役割の再認識に至る経験-協働する介護士との関係を通して-.日本ヒューマンケア科学会誌.2020,13(1)
4)パトリシアベナー 著,井部俊子訳.ベナ-看護論.初心者から達人へ.医学書院.2005