講演情報
[14-O-P203-03]職種の垣根を越えたノーリフティングケア推進へ
*石神 優太1、光武 耕治1、山下 のぞみ1、塘 大輔1、石井 大輔1 (1. 佐賀県 介護老人保健施設ケアコートゆうあい)
腰痛アンケートにて腰に痛みを抱えるスタッフが約6割という結果であった。そこで職員の労働安全衛生と要介護者の安全性の向上を目的とし、ノーリフティングケアに取り組んでいる。その中でも床走行式リフト・移乗サポートロボットHugの活用推進に取り組んだ結果、取り扱いができるスタッフの増加、介助方法に対する意識の変化がみられた。一方、腰痛を抱えるスタッフの割合に大きな変化はなく、現状維持に留まった。
【はじめに】
当法人は、介護老人保健施設を中心に認知症対応型共同生活介護、特定施設入居者生活介護、小規模多機能型居宅介護、通所リハビリ、認知症対応型通所介護、訪問介護、訪問看護、定期巡回・随時対応型訪問介護看護、居宅支援事業所で事業所数は17あり、地域で暮らす高齢者の方を大規模多機能で支えている。職員数は介護部門で250名が在籍している。
平成25年に国の「職場における腰痛予防対策指針」が改訂され、『人力での抱え上げは、原則行わせない。リフトなど福祉機器の活用を促す』ことが明示された。しかし、介護の現場では実際としてまだまだ人力による抱え上げが様々な場面で行われている。腰痛予防は個人の努力やケアに頼るだけでは限界があり、福祉機器の導入やノーリフティングケアの推進は急務である。今回、スタッフの腰痛や身体的負担軽減及び要介護者の尊厳の確保と自立支援を図るための床走行式リフト(以下リフト)、移乗サポートロボットHug(以下Hug)等、福祉機器の導入及びノーリフティングケアの考え方を推進するべく取り組みを行ったので報告する。
【目的】
ノーリフティングケアの推進によってスタッフの労働安全衛生(腰痛予防・軽減)と要介護者の安全性の向上を図る。
【方法】
1)委員会の設立
ノーリフティングケアを推進していく為に、令和3年7月より委員会を発足。
リハビリ職だけでなく事務や栄養科も含めた全部署より推進スタッフを選出し、毎月委員会を開催している。
施設内独自の判断基準を設け、リフト使用可能ライセンス制度の制定。
2)講習会の実施。
推進スタッフに向け、ノーリフティングケアの考え方、「身体の使い方」リフト、Hug等福祉用具の使用方法について講習会の開催。
3)対象者アセスメント
各部署より移乗方法に悩んでいる事例の相談を受け、対象者の身体状況確認及び福祉用具等の移乗方法の選定を行い、推進スタッフ及び所属スタッフへ周知。
4)腰痛アンケート調査
令和3年11月・令和6年6月に実施・評価
5)ノーリフティングケアの推進及び福祉機器導入したことによる変化をアンケート形式にして腰痛調査とともに実施。
【結果】
1)講習会実施結果
リフト及びHugの導入は令和4年9月より開始し、リフト・Hugはそれぞれ各5台ずつ導入し、必要部署に設置。
外部研修を受講したスタッフ(リハビリ2名、介護職3名)が、各部署の推進委員に対しライセンス取得の判断を行い、その後は各部署の推進委員が、各部署スタッフへのライセンス取得の判断を行っている。
現在のリフト使用可能ライセンス取得者は30名(入所系スタッフ91名中)となっている。
2)対象者アセスメントの結果
力任せの移乗介助の減少。介助量減少に伴い、在宅でのHug導入へも繋がった。移乗介助のみならず、様々な介助場面での相談数の増加。
3)腰痛アンケート調査結果
「痛みがある」「時々痛い」と回答したスタッフの割合は取り組み前後で大きな変化はなかった。(R3.11:56.3%→R6:53.8%)
4)意識調査結果
「介助が楽になった」「2人介助していた方を1人介助で移乗できるようになった」等のポジティブな意見と「時間がかかり、人力の方が早い」「操作が難しく、使うのが不安」などのネガティブな意見が得られた。
【考察】
1)講習会ではノーリフティングケアの考え方、「身体の使い方」、リフト、Hug、その他福祉機器の使用方法を指導し、手技の獲得を目指している。中でも介護老人保健施設、グループホーム、特定施設入所者生活介護等入所系の部署に対してはリフト、Hugを中心とした講習会も実施した。推進スタッフを中心に各部署のスタッフへ指導行っており、ライセンスを取得したスタッフ数は増加している。
2)対象者アセスメントにより、移乗方法に悩んでいる事例に対して適切な移乗方法の選定や力任せの移乗介助の減少がみられた。介護者及び要介護者双方にとって負担を軽減する方法を提示することで、本人、家族や施設スタッフへの理解も得られ在宅への福祉機器の導入にも繋げる事ができたと考える。
3)腰痛アンケートの結果、今回の取り組みにおいて腰痛を訴えるスタッフの割合は僅かに減少しているもののほぼ現状維持に留まる結果となった。現状としてリフトとHugの対象者数は、利用者全体数に対して少数であり、それ以外の介助方法、つまりはリフトやHug、福祉機器を使用しない利用者に対する介助場面での「スタッフの正しい身体の使い方」への周知・習得が不足している点が影響していると考える。
4)意識調査では上記の結果にあるようなポジティブな意見が聞かれた。リフトやHugの使用によりこれまで力任せに抱え上げていた介助場面の減少及び介助量の減少へ繋げることが出来た。2人介助で行っていた移乗が1人でできるようになった為、その分の時間を他の利用者への関わりや介助へあてる事もでき、時間に余裕も生まれる。それにより質の高い介護へ繋げることが出来ると考える。
一方でネガティブな意見も聞かれており、ノーリフティングケアの考え方への理解やリフト操作、Hugの使用方法についての習得が不十分、メリットとして実感できていないスタッフもまだまだ多くいることが影響していると考える。
【まとめ】
今回ノーリフティングケア推進の一環としてリフト・Hugを中心として推進活動を行ってきた。結果としてライセンスを取得したスタッフの増加や介助量の減少、移乗等介助場面での相談件数が増えたなど意識の変化に繋げる事ができた。しかし腰痛調査の結果、腰痛を訴えるスタッフの割合は僅かに減少しているもののほぼ現状維持に留まる結果となった。
今後はリフト・Hugの推進の継続に加え、それ以外の介助場面での「正しい身体の使い方」への指導へも力を入れることで目的の腰痛予防・軽減へ繋げていきたい。
当法人は、介護老人保健施設を中心に認知症対応型共同生活介護、特定施設入居者生活介護、小規模多機能型居宅介護、通所リハビリ、認知症対応型通所介護、訪問介護、訪問看護、定期巡回・随時対応型訪問介護看護、居宅支援事業所で事業所数は17あり、地域で暮らす高齢者の方を大規模多機能で支えている。職員数は介護部門で250名が在籍している。
平成25年に国の「職場における腰痛予防対策指針」が改訂され、『人力での抱え上げは、原則行わせない。リフトなど福祉機器の活用を促す』ことが明示された。しかし、介護の現場では実際としてまだまだ人力による抱え上げが様々な場面で行われている。腰痛予防は個人の努力やケアに頼るだけでは限界があり、福祉機器の導入やノーリフティングケアの推進は急務である。今回、スタッフの腰痛や身体的負担軽減及び要介護者の尊厳の確保と自立支援を図るための床走行式リフト(以下リフト)、移乗サポートロボットHug(以下Hug)等、福祉機器の導入及びノーリフティングケアの考え方を推進するべく取り組みを行ったので報告する。
【目的】
ノーリフティングケアの推進によってスタッフの労働安全衛生(腰痛予防・軽減)と要介護者の安全性の向上を図る。
【方法】
1)委員会の設立
ノーリフティングケアを推進していく為に、令和3年7月より委員会を発足。
リハビリ職だけでなく事務や栄養科も含めた全部署より推進スタッフを選出し、毎月委員会を開催している。
施設内独自の判断基準を設け、リフト使用可能ライセンス制度の制定。
2)講習会の実施。
推進スタッフに向け、ノーリフティングケアの考え方、「身体の使い方」リフト、Hug等福祉用具の使用方法について講習会の開催。
3)対象者アセスメント
各部署より移乗方法に悩んでいる事例の相談を受け、対象者の身体状況確認及び福祉用具等の移乗方法の選定を行い、推進スタッフ及び所属スタッフへ周知。
4)腰痛アンケート調査
令和3年11月・令和6年6月に実施・評価
5)ノーリフティングケアの推進及び福祉機器導入したことによる変化をアンケート形式にして腰痛調査とともに実施。
【結果】
1)講習会実施結果
リフト及びHugの導入は令和4年9月より開始し、リフト・Hugはそれぞれ各5台ずつ導入し、必要部署に設置。
外部研修を受講したスタッフ(リハビリ2名、介護職3名)が、各部署の推進委員に対しライセンス取得の判断を行い、その後は各部署の推進委員が、各部署スタッフへのライセンス取得の判断を行っている。
現在のリフト使用可能ライセンス取得者は30名(入所系スタッフ91名中)となっている。
2)対象者アセスメントの結果
力任せの移乗介助の減少。介助量減少に伴い、在宅でのHug導入へも繋がった。移乗介助のみならず、様々な介助場面での相談数の増加。
3)腰痛アンケート調査結果
「痛みがある」「時々痛い」と回答したスタッフの割合は取り組み前後で大きな変化はなかった。(R3.11:56.3%→R6:53.8%)
4)意識調査結果
「介助が楽になった」「2人介助していた方を1人介助で移乗できるようになった」等のポジティブな意見と「時間がかかり、人力の方が早い」「操作が難しく、使うのが不安」などのネガティブな意見が得られた。
【考察】
1)講習会ではノーリフティングケアの考え方、「身体の使い方」、リフト、Hug、その他福祉機器の使用方法を指導し、手技の獲得を目指している。中でも介護老人保健施設、グループホーム、特定施設入所者生活介護等入所系の部署に対してはリフト、Hugを中心とした講習会も実施した。推進スタッフを中心に各部署のスタッフへ指導行っており、ライセンスを取得したスタッフ数は増加している。
2)対象者アセスメントにより、移乗方法に悩んでいる事例に対して適切な移乗方法の選定や力任せの移乗介助の減少がみられた。介護者及び要介護者双方にとって負担を軽減する方法を提示することで、本人、家族や施設スタッフへの理解も得られ在宅への福祉機器の導入にも繋げる事ができたと考える。
3)腰痛アンケートの結果、今回の取り組みにおいて腰痛を訴えるスタッフの割合は僅かに減少しているもののほぼ現状維持に留まる結果となった。現状としてリフトとHugの対象者数は、利用者全体数に対して少数であり、それ以外の介助方法、つまりはリフトやHug、福祉機器を使用しない利用者に対する介助場面での「スタッフの正しい身体の使い方」への周知・習得が不足している点が影響していると考える。
4)意識調査では上記の結果にあるようなポジティブな意見が聞かれた。リフトやHugの使用によりこれまで力任せに抱え上げていた介助場面の減少及び介助量の減少へ繋げることが出来た。2人介助で行っていた移乗が1人でできるようになった為、その分の時間を他の利用者への関わりや介助へあてる事もでき、時間に余裕も生まれる。それにより質の高い介護へ繋げることが出来ると考える。
一方でネガティブな意見も聞かれており、ノーリフティングケアの考え方への理解やリフト操作、Hugの使用方法についての習得が不十分、メリットとして実感できていないスタッフもまだまだ多くいることが影響していると考える。
【まとめ】
今回ノーリフティングケア推進の一環としてリフト・Hugを中心として推進活動を行ってきた。結果としてライセンスを取得したスタッフの増加や介助量の減少、移乗等介助場面での相談件数が増えたなど意識の変化に繋げる事ができた。しかし腰痛調査の結果、腰痛を訴えるスタッフの割合は僅かに減少しているもののほぼ現状維持に留まる結果となった。
今後はリフト・Hugの推進の継続に加え、それ以外の介助場面での「正しい身体の使い方」への指導へも力を入れることで目的の腰痛予防・軽減へ繋げていきたい。