講演情報

[14-O-P203-04]ワークライフバランスの取り組み効果職場環境改善による職員定着

*直井 好子1、見留 とも子1、小林 陽介1、進藤 真由子1、田辺 勝巳1、三村 祥太1 (1. 栃木県 医療法人徳真会 介護老人保健施設 わたのみ荘)
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ワークライフバランス推進事業を7年間展開するなか、職員への意識調査とSOWT分析で現状分析し、3つの課題を抽出し取り組むことで、職場環境が改善し離職率の低下につながる結果となった。職場環境の改善は、勤続意欲や介護の質を向上させるとともに、安定した雇用継続に繋がり、職員定着には欠かせない取り組みであると実感したため報告する。
1.はじめに
国は2007年12月に誰もが仕事と生活の調和(ワークライフバランス)のとれた働き方ができる社会実現のため、官民一体となった「仕事と生活の調和憲章」を策定した。それを受け日本看護協会は2010年に看護職のワークライフバランス(以下WLBという)推進が始まり、当法人は2013年に取り組み始め、2017年から当施設もWLBに参加した。施設WLB委員は看護職2名、介護職2名、事務1名、理学療法士1名の計6名で構成され、併設病院と月1回の合同委員会を実施し活動している。
当法人においてWLB推進事業を展開した背景として、当時開設35年を迎え、マンネリ化した組織文化と強い閉塞感のなかで、課題の発見と改善を目指したいという思いからであった。その取り組みから7年が経過した今、WLB活動が職場環境を改善し離職率の低下につながる結果となり、職員定着には欠かせない取り組みであると実感したので報告する。
2.方法
職員への意識調査とSOWT分析で現状分析し、3つの課題を抽出し取り組んだ。
3.内容
課題1:法人全体で就業規則の認知度が低く、福利厚生等の活用が不十分である。
アンケートの結果、未婚の職員の約半数(45%)が長く勤めたいと思っておらず、託児所を完備しているにも関わらず有効活用されていなかったことが分かった。このことから職員の定着を図るため結婚出産、子育てしながら働ける職場環境であることを周知し改善する必要があった。そこで労務士による就業規則の説明会を実施し、制度の周知と制度を利用しやすい風土つくりを行った。このことが契機となり看護休暇取得者が増え、リフレッシュ休暇制度が定着し取得しやすい環境となった。また、看護職優先とした託児所の利用条件が緩和されたとともに、月1回の休日の利用日が設けられたことで、休日出勤が可能となった。
課題2:現在の仕事が将来像に繋がる仕事と思っていない職員が約半数を占めている。
本課題は介護職からの回答で明らかになり、現状では離職者が出てしまうことが危惧され、介護職の専門性やモチベーションを高める必要があった。そこで「介護の日」やホームページのリニューアルを機会に介護の仕事、介護職としてのやりがいや魅力を発信し、職員・施設の広報活動を推進した。また、「おむつマイスター」の取得を進めキャリアアップの機会を設けることでモチベーション向上を図った。一方、専門性を持たせるため介護補助者の雇用を開始し、現在介護補助者4名の雇用ができ介護業務をタスクシフトすることができた。その他に私物洗濯、入所セットの導入や生活用品の一部をディスポ化し業務の削減を行った。
課題3:健康に不安を抱えている職員が15%、さらに何らかの痛みを抱えている職員が25%いる。
職業病でもある腰痛に関したアンケート調査を行い、8割の看・介護職員が腰痛を患い、そのうち約3割の職員に下肢のしびれや痛みの随伴症状を呈していた。特に看護職の平均年齢は59.1歳と高く60歳以上の看護職が半数を占め、介護職の平均年齢も40.2歳と上昇傾向にあった。そのため、職員の高齢化による身体的不調の出現や悪化に備え、介護負担軽減を図っていく必要があった。そこで、理学療法士による腰痛体操を定期的に実施、午後の就業前にラジオ体操を取り入れた。感想として「自己の身体機能の衰えを実感し、改めて運動の大切さを感じた」との意見も多く、健康管理に関心を持つことで、業務外での腰痛対策や運動の継続がされるようになった。また理学療法士によるスライディングボードを用いた移乗介助法の個別指導を受けたことで、積極的に福祉用具を使用し抱きかかえでの移乗介助を減らすことができた。結果、腰痛者数は不変であったが、腰痛に伴う随伴症状の出現を2割に減少することができた。
4.考察
2019年当施設の看護職の平均勤続年数21.4年、介護職の平均勤続年数は8.6年であったが、WLB開始し7年が経過した現在、看護職の平均勤続年数24.2年、介護職の平均勤続年数10.3年と勤続年数は延びている。また、離職率も13.3%から7.8%と下がり、全国の離職率14.3%から比較すると明らかに低値である。更に介護福祉士資格所者が100%となりキャリアアップ支援も推進することができている。これらのことから働きやすい職場環境の熟成へと向かっていると考えられる。更に、多職種で取り組むことで介護職の視野が広がりスライディングシートやスライディングボード、多機能車椅子の購入の機会となり、福祉用具を積極的に使用し一人での介助が減少したことで、不適切な移乗介助による事故を低減することができた。職員と入所者の安全を担保するとともに介護の質の向上になったと考えられる。よって、これら職場環境の改善は勤続意欲や介護の質を向上させるとともに、安定した雇用継続に繋がると考える。
5.まとめ
今回、診療報酬改定において看護補助に対する評価が新設され、更に介護職のニーズが高まり、介護職の人材確保は困難となるのではないかと考えられる。また、介護報酬においては生産性向上推進体制加算が新設され介護の価値向上につながる職場作りが求められるようになった。施設存続にも安定した雇用継続を図るうえでの対策は必須である。令和4年度(公財)介護労働安定センターによる介護労働調査結果からも仕事の内容・やりがい、職場環境が満足度を上げる要因として上位を占めている。今年は3S活動推進による業務の効率化と介護補助の雇用や業務内容を見直し介護負担軽減を目的に取り組んでいる。今後もWLBを継続しさらなる職場環境の改善や質の向上、職員の健康管理推進を図っていきたい。