講演情報
[14-O-P205-03]私たちが変わる!!!~多様性を受け入れ働きやすい職場を目指して~
*高野 ひとみ1 (1. 新潟県 介護老人保健施設グリーンヒル与板)
人材育成において、長年コミュニケーションが円滑に進まず指導をする側もされる側も苦慮してきたことに対して、発達障がいという新たな知見を得ることができた。大切な人財をつぶさないために、その職員を変えようとするのではなく、指導する私たちが変わらなければならないことが理解できた。特性についての理解を深めた上で関わりを変えていくことに着手し、多様性を受け入れ働きやすい職場を目指した取り組みについて報告する。
1、はじめに
2022年度より法人内の4施設10人が協働し、月1回3.5時間の頻度で外部研修機関による主任・副任研修の機会を与えてもらった。
ここ数年来、コミュニケーションが円滑に進まない職員が増えていることと、その指導に苦慮しているという4施設の課題が共有できた。ある一定の特性や傾向がある職員に対しては、物事の受けとめ方や感じ方がかなり異なるため、その職員に合わせた対応が求められる。そこで、講師より発達障がいについて学ぶことの提案を受け、指導をする側もされる側も苦慮してきたことに対して新たな知見を得ることができた。
職員一人ひとりが大切な人財であり、人財こそが法人の財産であるという認識のもとで働きやすい職場をつくるための取り組みを行った。その職員を変えようとするのではなく、指導する側の主任・副任の私たちが変わらなければならないことを念頭に、事例の集積を行い、特性の理解と関わりを深め実践してきたことをここに報告する。
2、実施内容及び結果
2022年度は特性や傾向がある職員の考え方や捉え方を学んだ。2023年度は指導する側のスキルアップのため、事例の集積を行い、共通書籍を通し根拠に基づいた理解と関わり方を学び、指導や関わりを変えていくことを繰り返し行った。
事例:介護福祉士、経験10年以上。体操やレクリエーションが得意、介護全般のスキルがない、優先順位や状況に合わせた対応ができずミスが多い。体調不良の欠勤やうつ病での休職を繰り返し、2023年8月に復帰のタイミングで部署異動。休職中にリワークに通い、休職に至った経緯や要因の分析、職場に依頼したい配慮と現時点で自分が担えると考えている業務などが記載された自己分析シートを参考に面談。リワークと併用し段階的に業務時間と内容を調整。介護業務の希望はあるが、今までの経緯と自分が担えると考えている業務をすり合わせ介護補助業務を行う。部署の一員として無理せず休まずに働くことを目標とした。
⇒特性の理解:後先のイメージができず物事を連続して捉えられない。注意が行き届かずミスを繰り返す。時間管理が苦手で優先順位がつけられない。自分のペースを変えることができない。他人の気持ちを読み取ることが苦手。あいまいな表現が理解できず臨機応変な対応がとれない。聴覚情報が苦手で視覚情報が優位。失敗やつまずきから心身の不調や意欲低下になりやすい。
⇒関わり:はっきり分かり易く具体的に伝える。メモをとってもらう。業務を一緒に行うことで得意・不得意を確認し、できる業務内容とそこに要する時間をもとにスケジュール調整を行う。定期的に本人、事務長、部署長とで面談を行う。随時、体調確認や心配事や困りごとなどの面談を行う。
⇒結果:週2日8時間の勤務からスタートし、約半年後に週5日40時間の勤務ができるようになった。優先順位がつけられないことやペースを変えることができないことを、部署の職員が理解し声掛けやフォローがあることで、ようやく混乱なく業務ができるようになった。そんな中、本人から介護業務がやりたいので退職をしたいと話があった。
3、考察
他にも様々な事例を学び実践していく中で、伝えたはずのことが伝わらない、コミュニケーションが円滑に進まない、また、想定外のことが起こってしまうと、原因はその職員にあると決めつけていたことがわかった。それまでの私たちの指導は、できないことをできるようにすること、どうすれば一人前になるかに焦点を当て、それらがうまくいかないことでお互いが辛い状況に陥っていたと考える。一緒に働くその職員に対して、ご利用者ではなくどうしてあなたにこんなに振りまわされなくてはいけないのかと疲弊し、本当に困ったという嫌悪感すら抱くこともあった。しかし、一方で私たちが頑張ることで理解してくれるはずと思い、変化を求め、矯正しようと指導していた。このようなことから、今までの私たちの指導や関わりが間違っていたことに気づき、関わりを変えていくきっかけになったと考える。どの事例にも共通して言えることは、先天的な脳機能の特性であるため、その職員の努力だけでは変わることができないことを受け入れた。そして、根拠に基づいた思考や行動の特性を理解した上で指導や関わりを変えることであった。
紹介の事例は、無理せず休まずに働くという目標が達成できていたが、その職員の「やりたいこと(介護業務)」と「できること」のズレが生じ、更なる課題に突入した。しかし、後先のイメージができず物事を連続して捉えられない特性が由来していることに他ならないと考える。私たちは、その職員が再就職しても介護業務のスキルがないため、特性や凸凹が多いことを理解してくれる職場でなければ、路頭に迷うことが容易に想像できたが、その職員は「やりたいこと」が「できること」と思い、再び心身の不調や休職を余儀なくされるかもしれないイメージができていないことが分かった。たとえ特性や凸凹があっても、その職員が見ている世界を理解した上で、できる能力を認め、活躍の可能性を広げていくことが大切である。その職員と部署と業務とを繋げ、環境を整えるマネジメントが不可欠であり、その役割を担うのは私たちであると考える。
業務改善やICTの導入が必要であると同様に、介護現場は人でなければできないことが多く、職員一人ひとりが財産である。私たちの学びと取り組みを通し、働く仲間が共鳴し、関わりに変化が表れてきていることは大きな一歩である。多様性を受け入れるためには、土壌づくりと組織で変わっていくことが必須であり、これが法人の強みとなり人財育成と離職防止、さらには共生できる社会との架け橋にも成り得ると考える。ロールモデルとなり私たちが変わる!!!を進化させていきたい。
(注)一人ひとりが財産という意味を込めて「人材」をあえて「人財」として表記。
2022年度より法人内の4施設10人が協働し、月1回3.5時間の頻度で外部研修機関による主任・副任研修の機会を与えてもらった。
ここ数年来、コミュニケーションが円滑に進まない職員が増えていることと、その指導に苦慮しているという4施設の課題が共有できた。ある一定の特性や傾向がある職員に対しては、物事の受けとめ方や感じ方がかなり異なるため、その職員に合わせた対応が求められる。そこで、講師より発達障がいについて学ぶことの提案を受け、指導をする側もされる側も苦慮してきたことに対して新たな知見を得ることができた。
職員一人ひとりが大切な人財であり、人財こそが法人の財産であるという認識のもとで働きやすい職場をつくるための取り組みを行った。その職員を変えようとするのではなく、指導する側の主任・副任の私たちが変わらなければならないことを念頭に、事例の集積を行い、特性の理解と関わりを深め実践してきたことをここに報告する。
2、実施内容及び結果
2022年度は特性や傾向がある職員の考え方や捉え方を学んだ。2023年度は指導する側のスキルアップのため、事例の集積を行い、共通書籍を通し根拠に基づいた理解と関わり方を学び、指導や関わりを変えていくことを繰り返し行った。
事例:介護福祉士、経験10年以上。体操やレクリエーションが得意、介護全般のスキルがない、優先順位や状況に合わせた対応ができずミスが多い。体調不良の欠勤やうつ病での休職を繰り返し、2023年8月に復帰のタイミングで部署異動。休職中にリワークに通い、休職に至った経緯や要因の分析、職場に依頼したい配慮と現時点で自分が担えると考えている業務などが記載された自己分析シートを参考に面談。リワークと併用し段階的に業務時間と内容を調整。介護業務の希望はあるが、今までの経緯と自分が担えると考えている業務をすり合わせ介護補助業務を行う。部署の一員として無理せず休まずに働くことを目標とした。
⇒特性の理解:後先のイメージができず物事を連続して捉えられない。注意が行き届かずミスを繰り返す。時間管理が苦手で優先順位がつけられない。自分のペースを変えることができない。他人の気持ちを読み取ることが苦手。あいまいな表現が理解できず臨機応変な対応がとれない。聴覚情報が苦手で視覚情報が優位。失敗やつまずきから心身の不調や意欲低下になりやすい。
⇒関わり:はっきり分かり易く具体的に伝える。メモをとってもらう。業務を一緒に行うことで得意・不得意を確認し、できる業務内容とそこに要する時間をもとにスケジュール調整を行う。定期的に本人、事務長、部署長とで面談を行う。随時、体調確認や心配事や困りごとなどの面談を行う。
⇒結果:週2日8時間の勤務からスタートし、約半年後に週5日40時間の勤務ができるようになった。優先順位がつけられないことやペースを変えることができないことを、部署の職員が理解し声掛けやフォローがあることで、ようやく混乱なく業務ができるようになった。そんな中、本人から介護業務がやりたいので退職をしたいと話があった。
3、考察
他にも様々な事例を学び実践していく中で、伝えたはずのことが伝わらない、コミュニケーションが円滑に進まない、また、想定外のことが起こってしまうと、原因はその職員にあると決めつけていたことがわかった。それまでの私たちの指導は、できないことをできるようにすること、どうすれば一人前になるかに焦点を当て、それらがうまくいかないことでお互いが辛い状況に陥っていたと考える。一緒に働くその職員に対して、ご利用者ではなくどうしてあなたにこんなに振りまわされなくてはいけないのかと疲弊し、本当に困ったという嫌悪感すら抱くこともあった。しかし、一方で私たちが頑張ることで理解してくれるはずと思い、変化を求め、矯正しようと指導していた。このようなことから、今までの私たちの指導や関わりが間違っていたことに気づき、関わりを変えていくきっかけになったと考える。どの事例にも共通して言えることは、先天的な脳機能の特性であるため、その職員の努力だけでは変わることができないことを受け入れた。そして、根拠に基づいた思考や行動の特性を理解した上で指導や関わりを変えることであった。
紹介の事例は、無理せず休まずに働くという目標が達成できていたが、その職員の「やりたいこと(介護業務)」と「できること」のズレが生じ、更なる課題に突入した。しかし、後先のイメージができず物事を連続して捉えられない特性が由来していることに他ならないと考える。私たちは、その職員が再就職しても介護業務のスキルがないため、特性や凸凹が多いことを理解してくれる職場でなければ、路頭に迷うことが容易に想像できたが、その職員は「やりたいこと」が「できること」と思い、再び心身の不調や休職を余儀なくされるかもしれないイメージができていないことが分かった。たとえ特性や凸凹があっても、その職員が見ている世界を理解した上で、できる能力を認め、活躍の可能性を広げていくことが大切である。その職員と部署と業務とを繋げ、環境を整えるマネジメントが不可欠であり、その役割を担うのは私たちであると考える。
業務改善やICTの導入が必要であると同様に、介護現場は人でなければできないことが多く、職員一人ひとりが財産である。私たちの学びと取り組みを通し、働く仲間が共鳴し、関わりに変化が表れてきていることは大きな一歩である。多様性を受け入れるためには、土壌づくりと組織で変わっていくことが必須であり、これが法人の強みとなり人財育成と離職防止、さらには共生できる社会との架け橋にも成り得ると考える。ロールモデルとなり私たちが変わる!!!を進化させていきたい。
(注)一人ひとりが財産という意味を込めて「人材」をあえて「人財」として表記。