講演情報

[14-O-P207-01]介護の担い手は海外から~1人夜勤への道~

*松嵜 拓実1 (1. 神奈川県 老健リハビリセンタークローバーヴィラ)
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介護業界の慢性的な人員不足への解決策として外国人雇用を行う事業所が増えており国もそれを推し進める政策をとっている。当施設も令和4年の秋に2名の特定技能外国人を採用した。情報共有や準備を入念に行い採用後も日本語の教育・毎日面談を行っての評価・OJTの徹底によるトレーニングを繰り返しその結果両名とも高いレベルでのいわゆる「一人立ち」が出来た。今回行った教育方法が結果に繋がると確認することが出来た。
1.背景 介護業界は慢性的な人員不足を長年抱えてきたが、昨今の社会問題として更に労働者不足に拍車がかかってきている。超強化型の老健リハビリセンタークローバーヴィラの入所介護部においてもそれは例外では無く人員不足は長年に渡って大きな問題として俎上に上がっていた。今まで対策として入職者の中から退職者が出ないよう、または入職者が原因で既存の職員から退職者が出ないよう面接での適正判断や入職後の手厚い教育体制に力を注いできた。それは一定の成果を出してきたが、人員の充足とまでは至らなかった為、法人全体で外国人雇用の是非を検討し採用を行う事となった。人員不足で悩んでいる事業所はかなり多いと思われるが、中には日本人への教育方法との違いから外国人雇用を躊躇している施設もあると思われる。様々な事業所から教育方法が報告されてきている昨今、当施設でも幸いにそのノウハウを積み上げる事に成功した。これを報告し教育方法の介護業界内での共有に一役を得られればと考えた。2.目的 介護業界全体で抱える人員不足の一つの解決策として考えられている「外国人雇用」を行い、適切な教育を施し1人前の介護職員として働き活躍してもらう事。ひいては「人員の充足」「従業員の負担軽減」「従業員の休日の取得」等の様々な問題に対する方策にもなり得る。3.方法 ベトナム人介護士2名の採用を決定、入職前に外国人雇用を行った施設からの情報やノウハウをまとめた資料を使っての勉強会を施設全体で実施。同時に介護部内で1年かけて夜勤を含めた全ポジション(日勤リーダー除く)が可能な段階まで育成する詳細な計画を作成。採用後1ヶ月は一般棟2フロア(2階・3階)・認知棟(4階)を順番に体験しその後面談を行い本人達の希望も聞きながら配属先を決定した。一般棟(3階)に1人、認知棟(4階)に1人配属となる。必ず教育が可能な域に達しているスタッフとOJTを実施、毎日退勤一時間半前には振り返りシートに日本語で記入をしてもらい面談を行う。良いこと・改善点を忌憚なく話すと共に振り返りシート記載の日本語の誤りと正解、新たに覚えてもらうべき日本語をその場で教えた。一般棟(3階)の夜勤は1フロア介護士1名のみの配置である為起こりえる全ての事に対して対応出来る必要性があり、事前にそれらを想定した多岐にわたる教育を行った。具体的には「看護師との連携」「アクシデント対応」「電話対応」「記録業務」「申し送り」「緊急時(搬送含む)の対応」の6項目である。それぞれ30分程のレクチャーを2~4回(把握度で回数は事異なる)、1ヵ月程の期間をかけて行った。認知棟(4階)の夜勤は1フロア2名の配置で日本人と組んでのフォローはあるが同様の教育を行った。夜勤業務は日本人職員が2~3回のところを両者ともに8回のOJTによるトレーニングを予定し実施。1回目は様々な説明を要したが2回目からは本人の努力もあり教育担当が指摘・アドバイスをする場面は一部を除き少なくなっていた。本人が納得できるまで延長も検討したが、最終的には予定通り8回で合格し終了する事となる。本人達の意欲が高く、看護師と必要な連携が取れている事から両者ともに夜勤は「可能」と判断する。4.結果 日勤リーダー(流暢な日本語を扱えないと難しく時期尚早と判断、今後の日本語能力の向上を待っての検討となる)を除く全てのポジションを出来るようになり、今では部署のエース格とも言える活躍を見せるに至っている。5.考察 今回の外国人教育は成功と言えるが、成功にいたらしめた要因は「1.教育担当と本人とのコミュニケーションを密にした」「2.周囲の職員に日本人教育とは全然違うという事を伝え続けた」「3.教育を行う職員を限定した」「4.本人が納得するまでトレーニングを続けた」「5.絶対に放置しない」に尽きるように思われる。具体的に言うと「1」は教育する上で1番欠かせない要素であり教育担当はそのまま日本語の先生や日本での生活のアドバイザーにもなり得た。その為教育担当は通常日本人だと1名のところを2名選出し担当の勤務日を調整し殆どの日でフォロー可能となる体制をしいた。シフト作成の上では厳しい縛りであったが、結果的にはきめ細かいフォローアップが可能となり、特に採用初期の段階で部署に馴染むまでの大きな助けとなった。それでもスタッフの中からは「特別扱いをしている」といった主張は無くならず、「2」のように言葉も文化も考え方も違う国の人が来ているのだから、教育において他の日本人と同じ扱いをするつもりは全く無いとの主張を譲らず周囲に理解を求め続けた。本人の成長と貢献度が上がっていくとそれらの声は聞かれなくなっていった。実際に教育を行うにあたっては教育のスキルが一定に達しており本人との相性が良さそうなスタッフを選び、常に同じ人達(4~5人程度、担当2名とフォロー職員)が教える事で教育担当同士のコミュニケーション不足や教育内容のバラつきの解消を図った。この点「3」はそれでもシフト勤務なので担当同士が直接会えず情報共有がし辛い期間があるという一定の課題もあったが教育内容のバラつきの問題が表面化する事はほぼ無く成功であると言える。「4」「5」は日本人介護者の教育でも同じ問題が現場では起こり得るが、本人が納得し自分1人で動けるようになるまでは業務の効率が落ちようとも必ず誰かと行動を共にした。この点において妥協はしなかったが教育を受けている本人からは好感を得られた(後日談)。6.結語 当施設での外国人教育は一定の成果を上げ「成功」と言えるまでに育成する事ができた。2名は現在でも主力の介護スタッフとして活躍を続けている。詳細な計画と「本人が納得するまでは教育をやめない」という方針で教育を行うのが正しいと今回の当施設での外国人教育で改めて確認出来た。