講演情報
[14-O-P207-07]技能実習生受入れによる相乗効果介護経験「0」外国との関り「0」からの道のり
*籠尾 雄基1、松本 勇希1、伊吹 麻理子1、秋山 賢典1、林 幸江1 (1. 高知県 介護老人保健施設ピアハウス高知)
令和6年1月、当法人初の技能実習生の受入れを開始。先ずは自分の健康を守り、安全に介護の仕事ができるように、身体の使い方から指導を開始した。語学は交流しながら「楽しく学ぶ」、介護の知識は「分かりやすい言葉に置き換える」、実践では良い例、悪い例を体験し「相手の立場で考える」事を伝え、約4ヶ月で相手のペースに合わせるケアが出来るようになった。指導者側も「伝え方」のスキルアップに繋がる機会となった。
【目的】
技能実習制度は、人材育成を通じて我が国で開発され培われた技能、技術又は知識の開発途上国や地域等への移転を図り、その開発途上国等の経済発展を担う「人づくり」に協力する事を目的としており、令和6年1月、当法人初の技能実習生の受入れを行い、ネパール人技能実習生3名の指導を開始する。3名共ニーズは夜勤業務を希望。介護を学ぶ事と同時に、金銭的な事情もある事が分かる。開始約1週間は実習指導員とオリエンテーションを行う。日本や高知県の文化や特徴について、各事業所の説明等を行い交流を深める中で、各々の性格や日本語能力を分析。能力に合った事業所へ受入れ依頼を行う。受入れ直後は外国人との交流が不慣れなスタッフが多く、コミュニケーションも上手く取れない事もあったが、やりとりを重ねる毎に同じ場所で働く「仲間」である、との意識が高くなっていった。今回、技能実習生受入れ以降、スタッフの心境の変化や、伝え方に関しての学びがあり、良い傾向が見られたため、技能実習生と担当者の実習開始から現在までの活動の取り組みを報告する。
【方法】
介護や医療の専門用語を用いると説明が難しくなる場合がある。そのため実践前に、自分の健康を守るため、そして安全に介護の仕事ができるように、身体の使い方から体験型の指導を開始した。介護業界で最も多い怪我が腰痛である事を説明し、現状の生活動作を確認。中腰姿勢で作業する等、腰痛リスクのある動作が多く、今まで腰痛を意識した事が無い。また文化の違いがあり、例えばコミュニケーションを取る際、日本では相手と目線を合わす、相手が座っている時は高さを合わす等当たり前に行っている動作も、ネパールでは意識した事が無い上、言われた事も無いとのこと。腰痛を予防する動きも含め介護技術の一つとして繰り返し指導し、自然に良姿勢で動けるよう計画、指導した。
3名共に勤勉で業務も次々と覚えるが、ある程度慣れてきた頃から、自立支援を意識したケアの難しさが見えてきた。優しさから「お世話」の動きが見え始め、利用者が出来る動作も、つい手を出してしまう傾向にある。出来ている事を介護職が奪ってしまう事で、今まで出来ていたことが出来なくなる、という説明を繰り返し行い、その人にとってどのようなケアが望ましいか質疑応答を繰り返し行い理解度をチェックするようにした。
その他、月に一度実習先事業所の管理者や実習担当者を集め、実習中の様子を共有する会を開催。またOJTだけでなく、毎週月曜日に技能実習生3名と座学の勉強会を開催。毎週金曜日は一週間の振り返りを行う時間を設け、業務上だけでなく私生活での困り事や悩みを聴くようにし信頼関係を築いた。日本語と介護の同時インプットの毎日で、心身の疲労も考えられる為、半年に1回程度、気晴らしをする機会を設けるよう計画。高知市内の名所をツアー形式で回ったり、買い物や本人たちが希望する場所へ外出も行った。
同年7月、半年間の技能実習生対応を経て、実習に関わる指導者等8名に対しアンケ―トを実施。受入れ前と現在の心境の変化を把握した。
【結果】
4ヶ月目で安全な動作でケアができるようになった。例えば、高さの低いシンクでの洗い物や低いテーブルで書き物をする時は足の支持基底面を広げる、物を拾う時や座っている人と話す時は膝を曲げる等、自然と腰痛予防の動きが出来るようになった。介助時は相手の持っている力を利用する、相手の動きを見ながらペースを合わせ、出来る動作は見守り、出来ない動作は手伝うといった自立支援を意識した介助が行えるようになった。現在は、入浴介助や排泄介助は遠目での見守りで行え、生活リハビリ等もタイムスケジュールを考慮し自ら利用者へ声掛し開始する等も可能となっている。
日本語に関して技能実習生は標準語の敬語で学習する為、癖の強い土佐弁での会話に対し始めは苦慮していた。しかし利用者とのコミュニケーションが日本語能力を飛躍的に向上させる機会となり、4ヶ月目で通常会話ができるレベルまで成長。現在は専門用語や漢字の読み書きは難しいものの、言葉や単語の意味、土佐弁の意味を理解出来るようになり、良好なコミュニケーションが図れている。
技能実習担当者へのアンケート結果から、実習開始時は全員が『コミュニケーション面で不安』と回答。文化の違いや言語の違いに不安を感じる事もあったが、現在の心境としては『変化した』と9割のスタッフが回答。文化や言語が違っても、笑ってコミュニケーションを取ると不安や怖さなどが払拭され壁を感じなくなった等の回答があった。
指導面においては、専門用語を簡単に分かりやすく表現したり、「なぜこうするのか?」の根拠を理解する為の説明が難しかった、経験年数が長いと自己流な部分もあり、動作の基本を改めて正しく説明できるか不安、等の回答があったが、翻訳アプリやジェスチャーを使用したり、理解した内容を本人に説明してもらう事で理解力の確認を行う等の工夫も見られた。また指導者側が初心に戻り、ケアの統一化を再度考える機会にもなった。
【考察】
日本人で介護経験無しの方を指導する際に、これ程「伝え方」について悩む事はない。技能実習生の指導を通し、スタッフ側が日本語の正しい理解を深め、専門用語を分かりやすく伝えたり、理解度の確認をするといった行動は、家族や利用者との関わりの際のコミュニケーションスキル向上に繋がる要素となった。また指導者としての責任を常に考える為、提供するケアが統一された正しいケアなのか、日々進化している介護の知識に誤解が無いか等、振り返る機会となった。OJTで見せる、やらせるだけでなく、根拠を持ってケアに従事できる「人づくり」を目的に、国籍関係なく協働できる職場を目指し、指導者側もスキルアップする機会として今後も取り組みを続けていきたい。
技能実習制度は、人材育成を通じて我が国で開発され培われた技能、技術又は知識の開発途上国や地域等への移転を図り、その開発途上国等の経済発展を担う「人づくり」に協力する事を目的としており、令和6年1月、当法人初の技能実習生の受入れを行い、ネパール人技能実習生3名の指導を開始する。3名共ニーズは夜勤業務を希望。介護を学ぶ事と同時に、金銭的な事情もある事が分かる。開始約1週間は実習指導員とオリエンテーションを行う。日本や高知県の文化や特徴について、各事業所の説明等を行い交流を深める中で、各々の性格や日本語能力を分析。能力に合った事業所へ受入れ依頼を行う。受入れ直後は外国人との交流が不慣れなスタッフが多く、コミュニケーションも上手く取れない事もあったが、やりとりを重ねる毎に同じ場所で働く「仲間」である、との意識が高くなっていった。今回、技能実習生受入れ以降、スタッフの心境の変化や、伝え方に関しての学びがあり、良い傾向が見られたため、技能実習生と担当者の実習開始から現在までの活動の取り組みを報告する。
【方法】
介護や医療の専門用語を用いると説明が難しくなる場合がある。そのため実践前に、自分の健康を守るため、そして安全に介護の仕事ができるように、身体の使い方から体験型の指導を開始した。介護業界で最も多い怪我が腰痛である事を説明し、現状の生活動作を確認。中腰姿勢で作業する等、腰痛リスクのある動作が多く、今まで腰痛を意識した事が無い。また文化の違いがあり、例えばコミュニケーションを取る際、日本では相手と目線を合わす、相手が座っている時は高さを合わす等当たり前に行っている動作も、ネパールでは意識した事が無い上、言われた事も無いとのこと。腰痛を予防する動きも含め介護技術の一つとして繰り返し指導し、自然に良姿勢で動けるよう計画、指導した。
3名共に勤勉で業務も次々と覚えるが、ある程度慣れてきた頃から、自立支援を意識したケアの難しさが見えてきた。優しさから「お世話」の動きが見え始め、利用者が出来る動作も、つい手を出してしまう傾向にある。出来ている事を介護職が奪ってしまう事で、今まで出来ていたことが出来なくなる、という説明を繰り返し行い、その人にとってどのようなケアが望ましいか質疑応答を繰り返し行い理解度をチェックするようにした。
その他、月に一度実習先事業所の管理者や実習担当者を集め、実習中の様子を共有する会を開催。またOJTだけでなく、毎週月曜日に技能実習生3名と座学の勉強会を開催。毎週金曜日は一週間の振り返りを行う時間を設け、業務上だけでなく私生活での困り事や悩みを聴くようにし信頼関係を築いた。日本語と介護の同時インプットの毎日で、心身の疲労も考えられる為、半年に1回程度、気晴らしをする機会を設けるよう計画。高知市内の名所をツアー形式で回ったり、買い物や本人たちが希望する場所へ外出も行った。
同年7月、半年間の技能実習生対応を経て、実習に関わる指導者等8名に対しアンケ―トを実施。受入れ前と現在の心境の変化を把握した。
【結果】
4ヶ月目で安全な動作でケアができるようになった。例えば、高さの低いシンクでの洗い物や低いテーブルで書き物をする時は足の支持基底面を広げる、物を拾う時や座っている人と話す時は膝を曲げる等、自然と腰痛予防の動きが出来るようになった。介助時は相手の持っている力を利用する、相手の動きを見ながらペースを合わせ、出来る動作は見守り、出来ない動作は手伝うといった自立支援を意識した介助が行えるようになった。現在は、入浴介助や排泄介助は遠目での見守りで行え、生活リハビリ等もタイムスケジュールを考慮し自ら利用者へ声掛し開始する等も可能となっている。
日本語に関して技能実習生は標準語の敬語で学習する為、癖の強い土佐弁での会話に対し始めは苦慮していた。しかし利用者とのコミュニケーションが日本語能力を飛躍的に向上させる機会となり、4ヶ月目で通常会話ができるレベルまで成長。現在は専門用語や漢字の読み書きは難しいものの、言葉や単語の意味、土佐弁の意味を理解出来るようになり、良好なコミュニケーションが図れている。
技能実習担当者へのアンケート結果から、実習開始時は全員が『コミュニケーション面で不安』と回答。文化の違いや言語の違いに不安を感じる事もあったが、現在の心境としては『変化した』と9割のスタッフが回答。文化や言語が違っても、笑ってコミュニケーションを取ると不安や怖さなどが払拭され壁を感じなくなった等の回答があった。
指導面においては、専門用語を簡単に分かりやすく表現したり、「なぜこうするのか?」の根拠を理解する為の説明が難しかった、経験年数が長いと自己流な部分もあり、動作の基本を改めて正しく説明できるか不安、等の回答があったが、翻訳アプリやジェスチャーを使用したり、理解した内容を本人に説明してもらう事で理解力の確認を行う等の工夫も見られた。また指導者側が初心に戻り、ケアの統一化を再度考える機会にもなった。
【考察】
日本人で介護経験無しの方を指導する際に、これ程「伝え方」について悩む事はない。技能実習生の指導を通し、スタッフ側が日本語の正しい理解を深め、専門用語を分かりやすく伝えたり、理解度の確認をするといった行動は、家族や利用者との関わりの際のコミュニケーションスキル向上に繋がる要素となった。また指導者としての責任を常に考える為、提供するケアが統一された正しいケアなのか、日々進化している介護の知識に誤解が無いか等、振り返る機会となった。OJTで見せる、やらせるだけでなく、根拠を持ってケアに従事できる「人づくり」を目的に、国籍関係なく協働できる職場を目指し、指導者側もスキルアップする機会として今後も取り組みを続けていきたい。