講演情報

[14-O-P208-05]外国人スタッフと考える今後の人材育成の課題と展望

*チンティー リュウリー1、安東 亮1、上田 周平1 (1. 大阪府 みどりヶ丘介護老人保健施設、2. 療養部介護課、3. 療養部介護課)
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当施設では2019年よりベトナム人留学生の受け入れを始め、現在までに17名の留学生の育成を行っている。1~3期生の9名はすでに正職員となり、変則勤務もこなして今や当施設にとって欠かせない存在となっている。今回、3年目となる外国人労働者の来日から正職員になるまでの学びと苦悩を通じて、今後の人材育成の課題と展望について報告する。
【はじめに】
 私は日本の文化や生活に憧れがあり、日本で介護福祉士として働くことを目指し、高校を卒業後、母国にある日本語学校に在籍して6ヶ月間日本語を勉強した。
 2019年4月に来日し、1年間日本語学校で勉強した後、介護福祉士専門学校で2年間勉強し、介護福祉士の資格を取得した。そして現在、介護福祉士として従事している。 
【目的】
 ベトナム人の立場から、来日後慣れない環境で、実際に文化の違いと日本語の微妙なニュアンスの理解に戸惑いながら、日常生活と学業を両立するために自分が努力したことと、施設によるサポートについて説明する。
1)言葉の壁
 日本で生活する上で最初に感じたことは、やはり言葉の壁だと思う。母国での日本語学習だけでは日常会話を聞き取ることすら大変であった。私は大阪の施設で働いているため、特に方言を理解することが難しく、利用者とのコミュニケーションや業務内容を覚えていくことに時間を要した。学校で習う日本語だけでは不十分であったため、施設のスタッフとともに日本語を学ぶ時間を作ってもらい、専門用語を含めた日本語能力を養うことができた。さらに電子カルテ(iPad)の音声入力機能を活用することで、記録作業がスムーズに行えるようになった。
2)文化の違い
 長距離通学は、日本の生活の中でもかなり苦労した点である。ベトナムでは電車が普及しておらず、移動手段には主にバイクやバスが利用されている。しかし、私が住んでいた寮からは、日本語学校も専門学校も電車で1時間ほどかけて通う必要があった。慣れない電車での通学は、人混みや慣れない電車の揺れにより、乗り物酔いがひどく、登下校するだけで心身的に負担だった。はじめのうちは通学時にスタッフに付き添ってもらうことでなんとか慣れていくことができた。
3)日常生活での苦悩
 慣れない異国での生活から、ホームシックになることもあった。特に来日して半年ほどは毎日郷愁の念にかられた。そんな時は、自分が日本に来た理由を思い出し、初心に帰ることで頑張ることができた。また、定期的な面談や夕食会など、スタッフの方々に配慮してもらい、乗り切ることが出来た。また体調を崩した際の受診には、スタッフが付き添ってくださり、心強かった。
4)学業との両立
 就学中は、通学しながらアルバイトとして施設で働いていたため、休む時間も少なく、体力的な負担も大きかった。施設では週28時間のアルバイトについて柔軟に対応してもらった。また、介護福祉士就学資金貸付制度を利用することができたため、生活に余裕を持つことができた。
【外国人の立場から】
 正職員として働きだしてから3年目になった。ベトナムでは介護士という職種がないため、最初は入浴や排泄介助に抵抗を感じることもあったが、仕事にも慣れ、利用者とのコミュニケーションや感謝の言葉をもらえることに楽しみや喜びを感じている。
 今では夜勤にも従事し、今年度からは「看取り委員会」の一員として、施設における看取りのあり方や手順書の作成を行っている。また、ベトナム人の後輩や日本人の新人スタッフへの指導や育成等にも携わっている。
 現在、円安の影響により、自国通貨に換算した収入が減少し、日本で就労する意欲が低下している外国人が増えている。そして、家族の生活を支えるため、母国に送金している私たちにとって、それはとても大きく影響を受けている。
 円安の影響で、日本より待遇や給料が良い他の国にいく外国人労働者も増えてきている。また、途上国での賃金も上昇傾向にあることをふまえて、今後、近い将来、日本との差は埋まっていくことを想定すると、母国で働いて十分生活できると考える外国人が増えていくことも考えられる。
 しかし、私は日本で色々なことを体験し、日本で働き続けたいと考えているし、もし母国に帰ることになっても、日本に携わる仕事につきたいと思っている。
 これから日本にきて働きたいと考えている外国人労働者にも、日本の魅力を伝えていきたい。そのためには、日本の待遇の改善や働きやすい職場づくり等の工夫が求められる。
 私が来日してからの経験をもとに、日本人スタッフと協力し、外国人労働者が日本でモチベーション高く働き続けられるよう、引き続き取り組んでいきたい。
【施設として】
 介護現場での人材難はこれからも継続する課題であり、人材の多様化は進まざるを得ない状況にある。その中で外国人人材が欠かせない人材であることに、間違いはない。
当施設は2019年よりベトナム人留学生の受け入れを始め、幸いにも現在までに利用者側の受け入れに大きな問題は発生していない。ミャンマー人留学生の受け入れも開始し、ベトナムとミャンマーについては、先輩が在籍していることで、当初施設が行っていた日常生活へのサポートも減少している。
 言葉の壁については、日本語を理解しようとする外国人スタッフ側だけでなく、伝える日本人スタッフ側にも細かいニュアンスが伝えられないというストレスが生じており、介護方法を含めたマニュアルの作成等、日本人スタッフ側の伝え方の統一や工夫が必要と考える。
 ケアプランの作成・評価などの現場業務以外の業務に関しても、施設側が改めて教育体制の見直しを行い、外国人労働者とともに取り組んでいきたい。