講演情報

[14-O-J001-04]「とりあえず補食!」はやめました。嗜好にアプローチする食事自立支援

*飯村 宣子1 (1. 神奈川県 介護老人保健施設かまくらしるばーほーむ)
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漫然と増える補食使用量。なぜ補食は増えるのか?その原因を探ると認知症ならではの偏食、自力摂取困難者が多くいた。高齢になると味覚の感度が落ち、味の濃いものを好むようになる。特に甘さの際立った補食やデザートは人気だ。食事を食べず補食しか飲まない利用者。「甘いものしか食べません」を何とかしたい。「とりあえず補食」から抜け出す甘いパン粥活用術と自力摂取につながった事例を報告する。
■はじめに
増え続ける栄養補助食品の使用量。なぜ補食は増えるのか?その対象を探ると認知症による偏食や自力摂取困難な利用者に多く使われていた。高齢になると味覚の感度が落ち、味の濃いものを好むようになる。特に甘さの際立ったデザートや栄養補助食品は介助が必要な利用者でも口の開きが良く摂取良好、甘いものだけは自力摂取できる利用者もいた。「とりあえず補食」から抜け出すために甘いパン粥で必要栄養量の充足を目指した。
■対象者
栄養補助食品を提供し主食が全粥かつ甘いものを好んで喫食する利用者。今回は継続して6ヵ月モニタリング可能であった2名について報告する。
■方法
2023年9月から2024年2月の6カ月間、全粥をパン粥に置き換え、摂取栄養量と体重のモニタリングを行った。
■全粥とパン粥の100gにおける比較
全粥(嚥下調整食コード2-2):エネルギー量65kcal、たんぱく質量0.9g
パン粥(嚥下調整食コード2-2):エネルギー量117kcal、たんぱく質4.6g
全粥を同量のパン粥に置き換え、喫食量が同量だった場合、最大でエネルギー約1.8倍、たんぱく質約5.1倍の摂取量が期待できる。
さらにパン粥には1食あたりジャム15g(38kcal)を添加する。
■事例1
女性92歳、身長149cm、体重41.8kg、BMI18.8kg/m2、嚥下障害、誤嚥性肺炎の既往あり。
食事形態(主/副):全粥/ミキサー食(嚥下調整食コード2-1)、喫食率(主/副):96/26(%)
提供栄養量:エネルギー1102kcal、たんぱく質46.5g
摂取栄養量:エネルギー599kcal、たんぱく質13.9g
必要栄養量:エネルギー1011kcal、たんぱく質42g
補食付加栄養量:エネルギー600kcal、たんぱく質22.5g
合計摂取栄養量:エネルギー1199kcal、たんぱく質36.4g
全粥と甘いものは好んで食べるが、副食の摂取不良が見られた。摂取栄養量の不足から補食のムース(200kcal/たんぱく質7.5g)を1日3個提供し、補食は全量摂取できていた。
副食に「もう少し形があってもいい」と要望があり副食形態をきざみあん食(嚥下調整食コード3)に変更したが、副食喫食率は26%→24.5%と変更前と比べ改善なし。再評価を行いきざみ食(嚥下調整食コード4)に変更するも副食喫食率に変化は見らえなかった。刺身や赤飯が食べたいとの要望があったが、継続しての提供は困難と判断しご本人了承のもと主食をパン粥に変更、補食を中止しモニタリングを実施した。
変更後の平均喫食率は主食100%、副食27%と喫食率に大きな変化は見られなかったが、パン粥に変更したことで主食の摂取エネルギー量が399kcal→852kcalと約2.1倍増加した。合計摂取エネルギー量は1199kcal→1065kcalと約0.9倍に減少したが、食事のみの摂取エネルギーが599kcal→1065kcalと約1.8倍増加した。摂取たんぱく質は補食込みの摂取量と比較して36.4g→40.1gと1.1倍増加した。必要たんぱく質量の充足率は95%に留まったが、必要エネルギー量については105%と補食なしで充足できた。
体重は変更前41.8kg→変更6か月後45.8kgと約9.6%の体重増加がみられた。体重増加に伴い、計算上の必要栄養量の充足率が100%を下回ることがあったが、浮腫なく体重増加を確認し適正な栄養補給できたと判断した。
■事例2
女性81歳、身長153cm、体重52.6kg、BMI22.4kg/m2、介護度3、アルツハイマー型認知症、右肩鍵盤損傷の既往あり。
食事形態(主/副):全粥/きざみ食(嚥下調整食コード4)、喫食率(主/副):77/72(%)
提供栄養量:エネルギー800kcal、たんぱく質30g
摂取栄養量:エネルギー590kcal、たんぱく質21.9g
必要栄養量:エネルギー1165kcal、たんぱく質53g
補食付加栄養量:エネルギー600kcal、たんぱく質22.5g
合計摂取栄養量:エネルギー1190kcal、たんぱく質44.4g
食事を促しても食事動作が持続せずほぼ全介助、たまに食具の認識ができていない様子があった。補食ドリンク(200kcal/たんぱく質7.5g)は自力で全量摂取。傾眠や介助拒否が頻繁にありハーフ食に補食を3本付加していた。リハビリでは右上肢の制限はあるが機能上食事動作に影響なしとの評価であった。
意思疎通困難で摂取困難の原因が認知症か嗜好か判断できず、朝夕の主食をパン粥変更、昼は全粥継続、補食を中止しモニタリングを実施した。変更後パン粥は拒否なく摂取でき、スプーン操作をアシストすると5~10割自力摂取できるようになった。全粥の摂取は進まず介助拒否もあった為、毎食パン粥に変更し、パン粥は好んで摂取する事から1回の提供量を増量した。副食は介助を要したが主食の自力摂取量増加に伴い、介助時間にゆとりが生まれ副食の増量も可能となった。
提供量を増量し平均喫食率は主食77%→87%、副食72%→69%となった。主食エネルギー量は238kcal→642kcalと約2.7倍増加、副食エネルギー量は352kcal→589kcalと約1.7倍増加した。食事のみの摂取エネルギーは591kcal→1329kcalと約2.2倍に増加した。摂取たんぱく質量は補食込みの摂取量と比較して44.4g→56.3gと約1.3倍増加した。エネルギー、たんぱく質ともに必要栄養量を補食なしで充足できた。
体重は変更前53.5kg→変更6か月後55.8kgと約4.1%体重増加がみられた。
喫食率の推移として変更後の4か月目までは主食喫食率が90%を超えていたが、5か月目以降から喫食率の低下が見られた。パン粥に飽きたのか認知症等の体調変化によるものかわからず課題を残した。
■考察
パン粥は栄養補助食品に相当する栄養量の確保が可能で、嗜好へのアプローチは自力摂取を誘発し自立支援につながる可能性がある。今後、パン粥の活用は栄養量アップだけでなく、栄養量を落とさずに易疲労性や嚥下障害のある利用者への少量提供が期待できる。ただしパン粥の毎食提供や長期提供は飽きてしまう懸念があり、喫食状況に注意し変化に応じた見直しが必要だ。今回はパン粥での栄養量確保を目指したが、補食を選択する前に食べてもらえる食事提供を意識していきたい。