講演情報

[14-O-J001-05]91歳、ミキサー食から軟菜食に移行し在宅復帰

*篠原 沙季1 (1. 千葉県 フェルマータ船橋)
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在宅復帰を目標とする中で、食事形態が主な課題となった事例に対し、多職種が連携し食事形態の拡大に繋がったため報告する。多職種による食事観察や介入をもとに、歯科による嚥下内視鏡検査を実施し食事形態を調整。その結果、軟菜食の摂取が可能になり在宅復帰となった。食事や栄養面での課題を早期に把握し、口腔衛生管理や摂食嚥下機能検査を実施することは、利用者のQOLの向上及び平均在所日数の短縮に繋がると考えた。
【はじめに】
当施設は、多職種で在宅復帰超強化型老健として、経口維持支援や口腔・栄養に関する支援を行っている。今回、高齢夫婦世帯への在宅復帰にはADLの向上だけでなく食事形態も課題となった。多職種での食事支援や、歯科との連携によりミキサー食から軟菜食へ拡大し、妻と一緒の食事が可能となり、在宅復帰した事例について報告する。
【事例】
91歳男性、要介護4  妻と二人暮らし
既往歴:ネフローゼ症候群、糖尿病
現病歴:外傷性くも膜下出血、脳挫傷、急性硬膜下血腫
3月上旬、散歩中に転倒し救急搬送され、外傷性くも膜下出血、脳挫傷、急性硬膜下血腫の診断を受ける。入院中に誤嚥性肺炎を併発。外科的治療の必要性はなく7月末に退院し、リハビリ目的で当施設入所となる。
A D Lは車椅子自走、移乗は自立。高次機能障害、認知機能の低下あり。体力低下が著明で、臥床時間が長い状態であった。
食事は検査の結果、主食:全粥 副食:ミキサー食 咽頭残留が多いため、10口に1回の頻度で咳払いと空嚥下を促す必要があると記載されていた。口腔内は差し歯で、噛み合わせあり。ケアは不十分で磨き残しや舌苔が目立った。主介護者の妻は在宅復帰を目指すにあたり、食事作りに不安を抱えていた。
【経過】
入所日 主食:全粥 副食:ミキサー(コード2-2) 水分:中間のとろみ
副食のミキサー食は摂取なし。食事のペースはゆっくりでむせなし。食事中や食後の嗄声なし。

2日目 副食:刻みあんかけ(コード4)を評価。言語聴覚士の頸部聴診による評価 嚥下音はやや濁りがあるが、貯留音や呼吸の切迫はなし。副食は刻みあんかけでは8割摂取することができた。口腔運動の低下はなく、食事中、食後のむせや嗄声もないことから、エネルギー及びたんぱく質確保のため、副食を刻みあんかけに変更する。

8月上旬 食事観察で咀嚼や送り込みに低下がなく、咳払いが可能。むせや嗄声も見られないことから、更に食事形態の拡大が可能と考えた。しかし、入院時に誤嚥性肺炎を併発しており、退院時の検査で咽頭残留が多いと記載があったため、当施設と連携先である訪問歯科医へ嚥下内視鏡検査を依頼することとした。

8月中旬 歯科医師による摂食嚥下機能検査1回目の実施。主食:軟飯 副食:きざみ(あんかけ) 水分:薄いとろみを評価。嚥下内視鏡検査にて、軽度の軟口蓋挙上不全と、咽頭収縮力の低下により嚥下後の咽頭残留があり。水分は、嚥下反射惹起遅延を認め嚥下後に喉頭侵入を生じるが喀出が可能であった。検査の結果、軟菜・一口大での摂取が可能であるが、残留物に対し水分との交互嚥下が必要。水分には薄いとろみの付与が必要と評価された。また、口腔ケアの必要性を指摘される。
翌日より食事形態を主食:軟飯 副食:一口大 水分:薄いとろみに変更する。水分との交互嚥下は、意識的に行うことが難しく職員による声掛けと、食事席に「5口に1回、汁物か水を飲みましょう」と張り紙をして定着を図った。
この頃、離床時間が増えたことと、リハビリの継続で体力が向上し歩行器を使用して歩行が可能になった。


9月上旬 歯科医師による摂食嚥下機能検査2回目の実施。主食:軟飯 副食:一口大 水分:とろみなしを評価。嚥下内視鏡検査にて、水分は軽度の嚥下反射惹起遅延を認め、喉頭侵入を生じるが喀出が可能。水分はとろみなしで摂取が可能と評価された。また、口腔ケアについても、幅が広い歯ブラシを使用するよう、アドバイスを受け意識が向くようになる。
担当者会議を実施。退所後の食事形態は、入院前と変わらない柔らかめのご飯とおかず、水分はとろみなしだが、食事の際は水分との交互嚥下が必要なことを妻に伝える。

10月上旬 自宅へ退所。
【結果】
41日間の利用でミキサー食から軟菜食に食事形態を拡大し、水分はとろみなしの状態で在宅復帰となった。退所後訪問では「自宅で困ったことはなかった。妻の美味しい食事が食べられた。」と話されていた。退所から半年以上経過した現在も、誤嚥性肺炎を再発することなく、当施設のショートステイを利用しながら在宅生活を送られている。
【考察・まとめ】
在宅復帰を目指す中で食事や栄養面での課題を早期に把握し、必要に応じて歯科での嚥下内視鏡検査を実施することは利用者のQOLの向上、平均在所日数の短縮に繋がると考える。今回、嚥下内視鏡検査の結果を受け、迅速かつ安全に食事形態を拡大することが可能となった。また、食事観察や口腔ケアの実施、協力医療機関や家族との連携には多職種の協力が必須であると実感した。今後もこの事例を生かし、より良い食事支援ができるよう取り組んでいきたい。