講演情報

[14-O-J001-07]重度嚥下障害の利用者への完全側臥位法の導入職種連携により活動・参加を保てた事例

*千葉 賢太郎1、及川 瞳1、尾形 仁美1、倉島 菜月1、須藤 照子1 (1. 宮城県 介護老人保健施設なかだ)
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重度摂食嚥下障害を有する利用者へ、誤嚥予防を目的に完全側臥位法を導入した。結果、誤嚥所見の減少・食事摂取量の安定が見られた。その後、老衰による永眠の経過をたどりつつも、離床の機会を保ち、会話の機会を持ちながら過ごす事が可能となった。誤嚥予防のポジショニングに加え、多職種による働きかけで活動と参加の機会を持ち、QOLを保ちながら経過された事例と思われ報告を行う。
1.はじめに
重度摂食嚥下障害を有する利用者へ、完全側臥位法を導入後に誤嚥所見が顕著に減少した事例を経験した。食事摂取量の安定後は、集団レクリエーション(以下集レク)への参加を継続され、ご家族との面会時には応答が発話や表情の変化が見られるようになった。その後、嚥下機能の低下により食事量が低下し、老衰による永眠の経過をたどりつつも、多職種が連携して支援を行い活動・参加の機会を保ち過ごされた。以下へ詳細を記す。
2.事例紹介
(1)一般情報氏名:S様 性別:男性 年齢:81才 介護度:要介護5 原疾患:誤嚥性肺炎既往歴:硬膜下血種、胸椎頸椎黄色靭帯骨化症、頸椎手術
(2)入所時状況
○本人・家族の希望
本人:意向の確認出来ず。 
家族:体調良く過ごしてほしい。
○ADL 
・起居動作:全介助
・食事:全介助(協力動作無し) 主食:ムース粥 副食:ソフト食 水分:トロミ中間
・コミュニケーション:応答の緩慢さ、声量の低下あり。
○身体機能:体力低下・四肢体幹に軽度の可動制限あり。自立歩行は困難。
○摂食嚥下機能:口腔嚥下機能全般にかけて重度の機能低下が見られる。 
3.総合的な援助の方針・体調の悪化を予防し、体調良く過ごせる。
・身体機能の低下・拘縮を予防・口腔内の衛生状態、また機能低下を予防
・人と関わる機会を持ち、安心して過ごせるよう支援する。
4.経過
入所初日(X日)。食中の咽頭残留所見、ムセ込みが著明。誤嚥物の喀出力が低下し、誤嚥性肺炎再発・窒息リスクが高い状況であった。誤嚥所見により食事摂取が難しい場合もあり、食事摂取量が減少していった。 
X日+90日後。体力の低下に伴いベッド対応へ移行。食事姿勢として嚥下評価後、完全側臥位法を導入した。完全側臥位での食事摂取では誤嚥所見が減少し、欠食回数が減少した。(図1参照)食事摂取量の安定後、声量が上がり、応答がスムーズになった。集レクへの参加や立位座位訓練等を行う事が可能となった。状態安定に伴い面会時にはリクライニング車椅子へ離床が可能となった。短い発語が聞かれるようになり、談話に参加されることもあった。
X日+210日後。熱発や食事中のムセが見られ始めた。誤嚥リスクが増悪していることが推察されターミナルケアが開始された。食事は希望時にゼリー類の提供となり、ポジショニングや口腔ケアを中心とした対応へと移行し、ご家族様や親類との面会の機会を得ながら過ごされた。
X日+217日後。ご家族に見守られるなか呼吸が停止し、老衰による永眠と診断を受けた。
5.考察
(1)完全側臥位導入後の欠食・残食回数の減少について
本事例は入所当初からムセが頻出し、誤嚥窒息のリスクが高く、食事摂取量が安定しなかった。ベッド対応への移行を機に完全側臥位法を導入後、食事摂取量の増加・全身状態の安定が見られた。完全側臥位法とは『重力の作用で中~下咽頭の側面に食物が貯留しやすくなるように体側面を下に横向きに寝る姿勢で経口摂取する方法』である。1)その為、「食物が比較的緩やかに移動するため流入速度が低減される」「リクライニング位や前傾座位よりも貯留能が向上し、咽頭残留物の誤嚥リスクが下がる」等のメリットがあると言われる。1)本事例においても、完全側臥位法の導入により咽頭部の下側に食物を溜めるスペースが出来、ゆっくりと時間をかけて嚥下できるようになったことでムセが著明に減少し、欠食・残食回数の減少へつながり、状態の安定期間が生じたと思われる。完全側臥位法は「重度の嚥下機能障害を有する高齢者の安全な経口摂取を可能とし、病態改善寄与する」と言われ2)、積極的に導入した施設においては老衰による看取り期間の欠食期間が減少したとの報告がある2)、本事例でも同様に導入後、欠食・残食数が減少した。また、食事摂取時のムセや苦痛表情もなく、穏やかな状態で食事を召し上がられていたことが印象的であった。先行研究2)にあるように本事例においても完全側臥位法を用いた食事姿勢は栄養状態改善や食事負担軽減に有用であった。
(2)他職種連携による活動・参加支援について
本事例は嚥下機能低下により徐々に状態低下していくも、状態安定時には離床し周囲と関わり合いながら過ごされた。そして、ご家族との面会時には談話へ参加する事が可能であった。この経過は、負担のない範囲で離床・集レクの実施、関節可動域訓練や立位訓練、専門的口腔ケアを継続していた事が、ご家族を中心とした他者交流の参加機会の維持につながったと考える。
6.今後に向けて
本事例を通じて、各職種の専門性をもって食事環境を整えながら、心身機能・活動・参加をバランス良く支援していくことが、QOLの維持につながると学んだ。今回の知見を今後に活かしたい。
5.参考引用文献
1)横向き寝で食べてみる!! 摂食嚥下障害のための完全側臥位法
川端康一 
Gノート 7(4): 554-561, 2020.
2) 重度嚥下機能障害を有する高齢者診療における完全側臥位の有用性
工藤 浩
日本老年医学会雑誌 56巻1号(2019:1)