講演情報
[14-O-M001-03]介護老人保健施設オリブ園 半年間の退所者調査
*崎原 尚子1 (1. 沖縄県 介護老人保健施設オリブ園)
介護老人保健施設オリブ園は病院併設の超強化型施設である。入所中の急病は園内で治療を行うこともあるが病状が悪化し入院となることも少なくない。入所者は大半がMultimorbidityである。今回、半年間の退所者を入院群、非入院群に分類し統計学的に比較したところ、年齢、入所階、在所日数に有意差が見られた。高齢者医療が変化しつつある中で老健管理医師としてどのような医療が望まれるのかを考えている。
【はじめに】介護老人保健施設オリブ園(以下当園)は病院併設型、81床(1階40床、2階41床)の超強化型老人保健施設である。2階は酸素や吸引等の設備が多く医療度の高い入所者が多い。医師は2階の詰所で日常業務を行っている。体調不良者が発生した場合は看護師の報告を受け、診察し適宜検査を指示する。血液検査や培養検査は園内で行い、画像検査や生理検査は併設の病院で行う。園内で治療を開始することもあるが病状が悪化し入院となることも少なくない。入院は空床や在宅復帰率低下、入所前後訪問指導割合低下等につながるためなるべく避けたいが入所者は大半が高齢であり全身状態が不安定な者が多い。今回、半年間の退所者を入院群、非入院群に分類し、年齢、性別、介護度、入居階、BMI、処方薬数、在所日数について後方視的に調査した。
【対象】2024年1月1日から6月30日までに当園を退所した65人を本研究の対象とした。属性は男性26人、女性39人、平均年齢85.2歳、介護度別では要介護1が8人、要介護2が8人、要介護3が22人、要介護4が20人、要介護5が7人だった。入居階は1階35人、2階30人、平均BMIは20.8、平均処方薬数は7.2剤、平均在所日数は203日、退所先は自宅21人、有料老人ホーム18人、特別養護老人ホーム7人、病院17人、死亡(看取り)2人だった。
【方法】退所先が病院の17人を入院群とし、その他48人を非入院群とした。入院群の入院理由は肺炎7人、心不全2人、高K血症、貧血、胆管炎、肋骨骨折、急性下肢閉塞性動脈硬化症、意識障害、胃瘻トラブル各1人だった。搬送手段は救急車9人、車いす(併設病院入院)5人、介護タクシー2人、自家用車1人だった。2回入院、3回入院が各1人ずついた。入院群と非入院群を年齢、性別、介護度、入居階、BMI、処方薬数、在所日数について統計学的に分析した。統計ソフトはEZRを使用し、性別、入居階はカイ2乗検定、その他はMann-Whitney U検定を用いて比較した。
【結果】入院群の性別は男性8人、女性9人、非入院群は男性18人、女性30人だった。介護度別では入院群では要介護1が5人、要介護2が1人、要介護3が3人、要介護4が7人、要介護5が1人で非入院群では要介護1が3人、要介護2が7人、要介護3が19人、要介護4が13人、要介護5が6人だった。平均BMIは入院群19.6、非入院群21.2、平均処方薬数は入院群8.1剤、非入院群6.6剤だった。入院群は非入院群よりもBMIが低く処方薬は多い傾向にあったが、性別、介護度、BMI、処方薬数はいずれも2群間で有意差は認めなかった。年齢は入院群平均89.6歳、非入院群平均83.6歳、在所日数は入院群138日、非入院群226日、入居階は入院群1階5人、2階12人、非入院群1階30人、2階18人と、入院群は有意に年齢が高く(p=0.022)、在所日数は短く(p=0.035)、2階に多かった。(p=0.039)
【考察】当園では退所者の26.1%が入院となっていた。入院は高齢で、在所日数が比較的短く、医療度の高い2階入所者が有意に多かった。また栄養状態が低く、処方薬数が多い傾向にあった。医療度があまり高くない1階でも5人が入院となり、入院群の29.4%、退所者の7.7%を占めた。入院理由は肺炎が最多で心不全と続いた。摂食嚥下・栄養管理、感染症治療、呼吸管理、心不全管理が課題である。厚生労働省老健局 令和元年介護サービス施設・事業所調査結果によると、老人保健施設(以下老健)から医療機関への退所は33.3%と報告されている。老健入所者は要介護者であり、高齢・Multimorbidityで医療を要するものが多い。当園は病院併設型でありレントゲン検査、CT、MRI、超音波検査、脳波など検査体制が比較的整っていること、他医師と相談しやすい環境であること、所定疾患施設療養費の算定が可能であることより、できるだけ園内で治療を行う方針としているが病院と比較すると治療設備は不十分で医療スタッフも少ないため、重症化した場合は対応が困難である。外科的治療を要する場合、ショック症状がある場合、治療にもかかわらず全身状態悪化傾向の場合などは入院の適応と考えるがADL、認知面、年齢、入所期間、入所者・家族の希望や当園スタッフとの関係などにも影響され、入院基準は決定できていない。また、ACP(Advance Care Planning)の普及により、心停止時の心肺蘇生措置や人生の最終段階に至った場合の延命治療を望まないと表明する入所者・家族が多くなり全身状態悪化時に入院は希望せず、園内での治療を望む人もいる。しかし、急病時の状態が不可逆的なのか人生の最終段階なのかの判断は非常に困難で、入院治療により改善する可能性があることを説明すると入所者本人・家族は入院を希望することが多い。認知症ケア、心不全パンデミック、Multimorbidity、多死社会、EOL(End of life care)、意思決定支援、地域包括ケア、地域医療構想、医療の質(有効性、安全性、患者中心性、適時性、効率性、公平性)など様々なキーワードが出現し現在進行形で高齢者医療が変化しつつある。老健管理医師として望ましい医療を日々模索している。
【対象】2024年1月1日から6月30日までに当園を退所した65人を本研究の対象とした。属性は男性26人、女性39人、平均年齢85.2歳、介護度別では要介護1が8人、要介護2が8人、要介護3が22人、要介護4が20人、要介護5が7人だった。入居階は1階35人、2階30人、平均BMIは20.8、平均処方薬数は7.2剤、平均在所日数は203日、退所先は自宅21人、有料老人ホーム18人、特別養護老人ホーム7人、病院17人、死亡(看取り)2人だった。
【方法】退所先が病院の17人を入院群とし、その他48人を非入院群とした。入院群の入院理由は肺炎7人、心不全2人、高K血症、貧血、胆管炎、肋骨骨折、急性下肢閉塞性動脈硬化症、意識障害、胃瘻トラブル各1人だった。搬送手段は救急車9人、車いす(併設病院入院)5人、介護タクシー2人、自家用車1人だった。2回入院、3回入院が各1人ずついた。入院群と非入院群を年齢、性別、介護度、入居階、BMI、処方薬数、在所日数について統計学的に分析した。統計ソフトはEZRを使用し、性別、入居階はカイ2乗検定、その他はMann-Whitney U検定を用いて比較した。
【結果】入院群の性別は男性8人、女性9人、非入院群は男性18人、女性30人だった。介護度別では入院群では要介護1が5人、要介護2が1人、要介護3が3人、要介護4が7人、要介護5が1人で非入院群では要介護1が3人、要介護2が7人、要介護3が19人、要介護4が13人、要介護5が6人だった。平均BMIは入院群19.6、非入院群21.2、平均処方薬数は入院群8.1剤、非入院群6.6剤だった。入院群は非入院群よりもBMIが低く処方薬は多い傾向にあったが、性別、介護度、BMI、処方薬数はいずれも2群間で有意差は認めなかった。年齢は入院群平均89.6歳、非入院群平均83.6歳、在所日数は入院群138日、非入院群226日、入居階は入院群1階5人、2階12人、非入院群1階30人、2階18人と、入院群は有意に年齢が高く(p=0.022)、在所日数は短く(p=0.035)、2階に多かった。(p=0.039)
【考察】当園では退所者の26.1%が入院となっていた。入院は高齢で、在所日数が比較的短く、医療度の高い2階入所者が有意に多かった。また栄養状態が低く、処方薬数が多い傾向にあった。医療度があまり高くない1階でも5人が入院となり、入院群の29.4%、退所者の7.7%を占めた。入院理由は肺炎が最多で心不全と続いた。摂食嚥下・栄養管理、感染症治療、呼吸管理、心不全管理が課題である。厚生労働省老健局 令和元年介護サービス施設・事業所調査結果によると、老人保健施設(以下老健)から医療機関への退所は33.3%と報告されている。老健入所者は要介護者であり、高齢・Multimorbidityで医療を要するものが多い。当園は病院併設型でありレントゲン検査、CT、MRI、超音波検査、脳波など検査体制が比較的整っていること、他医師と相談しやすい環境であること、所定疾患施設療養費の算定が可能であることより、できるだけ園内で治療を行う方針としているが病院と比較すると治療設備は不十分で医療スタッフも少ないため、重症化した場合は対応が困難である。外科的治療を要する場合、ショック症状がある場合、治療にもかかわらず全身状態悪化傾向の場合などは入院の適応と考えるがADL、認知面、年齢、入所期間、入所者・家族の希望や当園スタッフとの関係などにも影響され、入院基準は決定できていない。また、ACP(Advance Care Planning)の普及により、心停止時の心肺蘇生措置や人生の最終段階に至った場合の延命治療を望まないと表明する入所者・家族が多くなり全身状態悪化時に入院は希望せず、園内での治療を望む人もいる。しかし、急病時の状態が不可逆的なのか人生の最終段階なのかの判断は非常に困難で、入院治療により改善する可能性があることを説明すると入所者本人・家族は入院を希望することが多い。認知症ケア、心不全パンデミック、Multimorbidity、多死社会、EOL(End of life care)、意思決定支援、地域包括ケア、地域医療構想、医療の質(有効性、安全性、患者中心性、適時性、効率性、公平性)など様々なキーワードが出現し現在進行形で高齢者医療が変化しつつある。老健管理医師として望ましい医療を日々模索している。