講演情報
[14-O-M001-04]老健オープンから10周年~利用者の臨床像の変容~
*酒井 敬1、森岡 かおり1、松井 美知子1、並河 俊弘1 (1. 大阪府 吹田徳洲苑)
開設後10年間の利用者の変容について、臨床的な要因を解析することから今後の老健の運営方向について考察した。重症例の入所や再入院例の増加、苑内死亡例の増加がみられた。処置の頻度もPEG造設例や口腔内吸引例や尿道バルン使用例が経年的に増加し、医療依存度の高い例が経年的に増加している。今後、医療依存度は更にアップすると思われ、引き続き医療機関との密接な連携と職員のスキルアップが必要であると思われた。
【はじめに】当老健は設立10周年が経過した。10年間の経過の中で利用者の疾患の特徴、必要な処置の種類、医療依存度などの臨床像については経年的に変容が見られている。一般病院の入院に伴う安静臥床を原因とする筋力低下による運動機能障害例が30-40%に発症しているとの報告がある一方、医療依存度の高い入院患者では移動先の選択が困難な例も経験されている。入所利用者の状況については施設の特色・運営方針により大きな影響を受ける。当苑は病院の中に位置する合築型の老健で、病院との協力・迅速な連携が取れることが特徴であり、医療依存度の高い利用者であっても断ることなく、利用につなげている。開設後10年間の利用者の変容について臨床的な要因を解析することから今後の老健の運営方向について考察した。
【研究対象】当苑の特徴は病院内の9、10階に位置する合築型の老健であり、159床を有する。病棟は在宅復帰を目指す病棟、医療処置を必要とする病棟、BPSDを有する認知症利用者病棟の3フロアからなっている。2015年から2023年の10年間の入所利用者の臨床像の変動について分析を行った。なお在宅療養支援機能加算は2020.1 から強化型に2022.7より超強化型に移行している。最近7年間の平均在院日数は230日である。
【結果】1)稼働率について: 2015年に管理病院と共にオープンし、稼働率は経年的に増加の傾向がみられてきたが、長年にわたり80%台に留まっていたが、9年目には93%を示した。2)新入所者数の変動と入所前居所:新入所者数はオープン1年後から年間200名を維持しており、最近では240名程度に増加している。開設3年間の管理病院からの入所は50%以下であったが、その後は60%に増加した。在宅からの入所は開設後20%弱であり、一時減少したが、最近は定期利用の影響もあり、15%程度に回復している。3)退所先居所:在宅復帰率は2021年まで40%以下であったが、超強化型の取得に伴い40%以上となっている。病院へ再入院を余儀なくされる例が多く、経年的に20%~30%を占めているのが特徴となっている。病床回転率はオープン以来、常に12%以上をキープしており、出入りの多い施設となっている。施設からの死亡退所例は開設当時15%にとどまっていたが、最近は25%を占めるようになり、入所例の重症化の傾向がみられている。4)医療依存度の分析:処置の種類を1日に実施した件数で見ると酸素吸入は開設当初4例/日で推移したが、最近の2年間では5~6例に増加しており、誤嚥性肺炎の治療は老健で積極的に実施している為と思われる。口腔内吸引の頻度も同様に増加がみられ、開設後6年間は6例程度であったが、最近は10例を超えている。PEGや人工肛門造設増設者の件数は開設後から変動は軽微で、PEGは10例前後、人工肛門造設例は常に3例程度の管理を行っている。尿道カテーテルの留置症例については開設当初4~5例であったが、最近の5年間は抜去の方針を取っているが、治療に難渋する尿路感染者の増加、仙骨部付近の褥瘡患者の存在に伴い常に10例以上を示しており、増加を余儀なくされている。点滴治療を必要とする症例は開設当初3~4例に過ぎなかったが、最近は5~7例に増加している。経口摂取困難例の病院への移動は困難であり、点滴療法を継続せざるを得ない影響が出ているものと思われる。要介護度4,5の割合については最近の4年間は55%を超えており、介護度の高い利用者が増加している。5)入所後病院への再入院例の分析:年間の再入院例は当初35名から50例程度であったが、最近の5年間は60例近くまで増加している。2021年はコロナの影響もあり、67例に及んだ。疾患別に検討すると当初は誤嚥性肺炎の割合が多かったが、最近は苑内での処置が積極的に行われており、5~6例に減少している。転倒に伴う骨折例は年間7例に増加、脳血管疾患も骨折症例と同様に増加している。 最近は担癌症例の入所が増えており、癌の進行や緩和ケア実施のため病院へ移動する症例を認めている。2020年、2021年はコロナ感染症により管理病院や他病院への入院が10~20例に登った。
【考察】稼働率の上昇は病床構成の改革(個室を減らし多床室を増やす病床編成を行った)、管理病院とのカンファレンス内容の充実、苑内の看護師、介護支援専門員、支援相談員による合同カンファによる入退所管理の開催によるものと考えている。今回の報酬改訂は追い風となり、病院との連携が更に強固になることが予想される。病院からの紹介例の経年的変化をみるとBSCを見据えた担癌症例や摂食不良患者など方向性の決定困難な症例が増加しており、苑内での死亡例や入所後点滴継続例が増加している一因となっていると思われる。お看取り加算は最近の6年間では平均18名に及んでいる。処置の頻度から見てもPEG造設例や口腔内吸引例や尿道バルン使用例が経年的に増加していることからも医療依存度の高い入所者が経年的に増加していることがうかがわれる。したがって当苑では在宅復帰・在宅支援に加えて、行き場所が制限される医療依存度の高い例や看取り対応となる奨励の増加が認められており、管理病院に取っては連携価値の高い介護施設となりつつあると思われる。今後、施設においても、処置関連の器具の充実や介護職員のスキルアップが必要と感じている。
【結論】10年間の利用者の変容は重症例の入所や再入院例の増加、苑内死亡例の増加がみられており、今後、医療依存度は更に増加することが予想され、引き続き医療機関との密接な連携と職員のスキルアップが必要であると思われた。
【研究対象】当苑の特徴は病院内の9、10階に位置する合築型の老健であり、159床を有する。病棟は在宅復帰を目指す病棟、医療処置を必要とする病棟、BPSDを有する認知症利用者病棟の3フロアからなっている。2015年から2023年の10年間の入所利用者の臨床像の変動について分析を行った。なお在宅療養支援機能加算は2020.1 から強化型に2022.7より超強化型に移行している。最近7年間の平均在院日数は230日である。
【結果】1)稼働率について: 2015年に管理病院と共にオープンし、稼働率は経年的に増加の傾向がみられてきたが、長年にわたり80%台に留まっていたが、9年目には93%を示した。2)新入所者数の変動と入所前居所:新入所者数はオープン1年後から年間200名を維持しており、最近では240名程度に増加している。開設3年間の管理病院からの入所は50%以下であったが、その後は60%に増加した。在宅からの入所は開設後20%弱であり、一時減少したが、最近は定期利用の影響もあり、15%程度に回復している。3)退所先居所:在宅復帰率は2021年まで40%以下であったが、超強化型の取得に伴い40%以上となっている。病院へ再入院を余儀なくされる例が多く、経年的に20%~30%を占めているのが特徴となっている。病床回転率はオープン以来、常に12%以上をキープしており、出入りの多い施設となっている。施設からの死亡退所例は開設当時15%にとどまっていたが、最近は25%を占めるようになり、入所例の重症化の傾向がみられている。4)医療依存度の分析:処置の種類を1日に実施した件数で見ると酸素吸入は開設当初4例/日で推移したが、最近の2年間では5~6例に増加しており、誤嚥性肺炎の治療は老健で積極的に実施している為と思われる。口腔内吸引の頻度も同様に増加がみられ、開設後6年間は6例程度であったが、最近は10例を超えている。PEGや人工肛門造設増設者の件数は開設後から変動は軽微で、PEGは10例前後、人工肛門造設例は常に3例程度の管理を行っている。尿道カテーテルの留置症例については開設当初4~5例であったが、最近の5年間は抜去の方針を取っているが、治療に難渋する尿路感染者の増加、仙骨部付近の褥瘡患者の存在に伴い常に10例以上を示しており、増加を余儀なくされている。点滴治療を必要とする症例は開設当初3~4例に過ぎなかったが、最近は5~7例に増加している。経口摂取困難例の病院への移動は困難であり、点滴療法を継続せざるを得ない影響が出ているものと思われる。要介護度4,5の割合については最近の4年間は55%を超えており、介護度の高い利用者が増加している。5)入所後病院への再入院例の分析:年間の再入院例は当初35名から50例程度であったが、最近の5年間は60例近くまで増加している。2021年はコロナの影響もあり、67例に及んだ。疾患別に検討すると当初は誤嚥性肺炎の割合が多かったが、最近は苑内での処置が積極的に行われており、5~6例に減少している。転倒に伴う骨折例は年間7例に増加、脳血管疾患も骨折症例と同様に増加している。 最近は担癌症例の入所が増えており、癌の進行や緩和ケア実施のため病院へ移動する症例を認めている。2020年、2021年はコロナ感染症により管理病院や他病院への入院が10~20例に登った。
【考察】稼働率の上昇は病床構成の改革(個室を減らし多床室を増やす病床編成を行った)、管理病院とのカンファレンス内容の充実、苑内の看護師、介護支援専門員、支援相談員による合同カンファによる入退所管理の開催によるものと考えている。今回の報酬改訂は追い風となり、病院との連携が更に強固になることが予想される。病院からの紹介例の経年的変化をみるとBSCを見据えた担癌症例や摂食不良患者など方向性の決定困難な症例が増加しており、苑内での死亡例や入所後点滴継続例が増加している一因となっていると思われる。お看取り加算は最近の6年間では平均18名に及んでいる。処置の頻度から見てもPEG造設例や口腔内吸引例や尿道バルン使用例が経年的に増加していることからも医療依存度の高い入所者が経年的に増加していることがうかがわれる。したがって当苑では在宅復帰・在宅支援に加えて、行き場所が制限される医療依存度の高い例や看取り対応となる奨励の増加が認められており、管理病院に取っては連携価値の高い介護施設となりつつあると思われる。今後、施設においても、処置関連の器具の充実や介護職員のスキルアップが必要と感じている。
【結論】10年間の利用者の変容は重症例の入所や再入院例の増加、苑内死亡例の増加がみられており、今後、医療依存度は更に増加することが予想され、引き続き医療機関との密接な連携と職員のスキルアップが必要であると思われた。