講演情報

[14-O-M001-05]多職種連携で生まれるポリファーマシー解消老健薬剤師への転身で見えたこと

*大場 ひろみ1、福田 六花1、はまなす 全職員1 (1. 山梨県 介護老人保健施設 はまなす)
PDFダウンロードPDFダウンロード
老健入所の際、多剤服用している高齢者は多い。当施設では、多職種で回診をし、体調・生活等の情報共有と処方内容の見直しを毎週行っている。服用薬剤の減少は、ADLおよび生活意欲の向上、精神面の賦活化に繋がることが多い。老健での介護職・医療職による見守りと、薬剤・体調の一括管理を出来る環境が、調剤薬局では出来なかった綿密な薬剤管理を可能にしていると実感したのでここに報告する。
【はじめに】
老健へ入所すると、複数だったかかりつけ医がひとりになる。
多職種協働で薬剤調整を行い、ポリファーマシーを解消し、多くの入所者が心身ともに良好な状態になっているので報告する。

【方法】
医師、看護師、ケアマネ、薬剤師で、全入所者を毎週回診し、1名ずつ体調・生活等の情報共有と処方内容の検討を行う。薬剤師単独でも回診を行い、状況の把握をする。

【事例】
80歳代男性。病歴は脳梗塞、慢性心不全、慢性腎不全、2型糖尿病。
入所時の服用薬剤数は18剤。

【経過】
入所1週間 血圧測定や性格の観察により、降圧剤1種類と漢方薬を中止
入所1カ月 臥床することが多いため、鎮静系の薬剤1種を中止
入所2~3カ月 レクリエーションへの参加、離床時間などの活動状況、血圧・血糖値を観察しながら徐々に減薬し9剤となる。
入所6ヶ月 活気が落ちてきたため精神系の薬剤を減らし、最終的に8剤となる。
(糖尿病薬3種類→1種類、循環器系7種類→4種類、精神系6種類→1種類)
高齢ではあるが、入所時に比べて心身ともに良好に生活されている。

【考察】
ポリファーマシーとは、多くの薬剤を併用する事で様々な有害事象が引き起こされる状態のことを言う。一般的に5種類以上を目安に「薬剤数が多い」とされているが、実際には薬剤の数ではなく不適切な薬剤の処方を指していることが多い。
 私は長い間、調剤薬局の薬剤師であったため、検査や数値でよくない結果があったり気になる症状が増えたりすると、徐々に薬が増えていく状況を目の当たりにしてきた。『薬を飲めば大丈夫』という薬への依存が強い患者でこの傾向は強く、服用している薬による副作用を新たな病状と誤認されて薬が増えても『気になる症状には薬を飲めばいい』と言って、副作用であることを説明して拒まれることも経験した。
 老健へ来て1年半。薬の情報提供先である医師(かかりつけ医)が一人となったことで、意思の疎通が容易になった。ここでは入所者の様子を観察しながら、こまめに処方内容の見直しや提案を行える環境が整っている。
 数値の改善がみられ、脂質異常症や貧血の薬が不要になることは、服薬がしっかり管理され、飲み忘れ・飲み残しが無くなる事に加え、栄養管理された食事、積極的なリハビリ介入など、細やかな体調管理によるものである。病院嫌いで受診をしていなかった方の場合は、入所後に初めて処方されることもある。
 生活全般のお世話をする老健では、介護職はもちろんコメディカルスタッフによる見守りや観察が日常的であり、これが処方変更時に起こりうる体調や行動の変化にいち早く気付くことを可能にしている。これは、今回の介護報酬改定で「かかりつけ医連携薬剤調整加算」の項目に新たに書き加えられた文言であるが、当施設では以前から日常的に行われていた事である。
 老健での薬剤費は医療保険のような出来高制ではなく、薬剤購入費として施設療養費より捻出している。そのため、処方薬剤数が減ることは経費的にも良い結果を出している。専門職が入所者の生活を通して観察し、処方内容の見直しを定期的に行うことが、結果的にポリファーマシーの解消へと繋がっていくと考えられる。

【まとめ】多職種での回診は、ポリファーマシーの解消によって入所者の状態を良好にしている。当老健は入所者90名であり、薬剤師の人員基準は0.3名であるが、常勤薬剤師がいることで、入所者との関わりや観察、他職種からの情報収集といった薬剤師単独の回診を可能にし、薬剤調整をするうえでも非常に有益だと考える。

【課題】
薬を減らしても、在宅復帰後に元のかかりつけ医に受診すると、元の処方に戻されることがある。処方変更・中止した経緯や理由などの情報共有に薬剤師が関わる事も検討が必要である。