講演情報

[14-O-M001-06]薬剤師の新規介入と連携強化による老健の処方最適化

*上村 里菜1、横田 修一1、小山 元気1、折戸 三智代1、河村 早苗1 (1. 岐阜県 老人保健施設山びこの郷)
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常駐薬剤師不在の老健において、薬剤師の新規介入と多職種連携強化とが、処方にどのような変化をもたらしたかを明らかにするため本調査を行った。2023年9月の介入開始から翌年3月までの入所者の処方薬剤数・投薬回数・薬剤費等についてカルテより後ろ向きに得たデータを解析した。結果、いずれも減少しており、処方変更した56例中54例が変更後の処方を継続できた。今回の取り組みが安全安価な処方最適化につながったと考えられる。
≪背景≫
「山びこの郷」(以下、当施設とする)は、岐阜県揖斐郡揖斐川町久瀬にある59床の介護老人保健施設(以下、老健とする)であり、人口約700名・森林面積割合93%の自然豊かな村の中心に位置する。地域唯一の医療機関である久瀬診療所をはじめ、居宅介護支援事業所・訪問介護ステーション・通所リハビリテーションを併設する複合施設内にあり、多職種で住民を支え、地域のよりどころとしてさまざまな利用者を受け入れている。
老健の施設基準では300床を超える場合に常勤薬剤師の勤務が求められている。当施設では調剤に関しては外部の調剤薬局に委託しているが、薬のセットや管理は看護師中心に行っていた。2023年7月、非常勤薬剤師の新規入職があり、管理業務を薬剤師中心にシフトした。また、同年9月より薬剤師が処方最適化に関わるようになった。
身体面・管理面での問題を引き起こす可能性がある多剤併用は、多疾患併存の高齢者に生じやすい。老健での多剤併用解消によって、有害事象の減少、服薬数減少によるコンプライアンス上昇や介護者の負担軽減、入所中の薬剤費削減、退所後の医療費削減にもつながる可能性がある。また、特定の背景を持つ高齢者が服用するべきとされる薬が処方されていないケースに関しては適正な薬剤追加の処方提案が必要である。
今回、薬剤師の新規介入と多職種連携の更なる強化とによって処方最適化を進めた成果を明らかにするため、この調査を行った。
≪方法≫
調査期間は2023年9月から2024年3月の7か月間とした。この期間、多職種連携による定期処方検討の強化を行った。手順は以下のとおりである。
薬剤師は月1回の定期処方日前に、処方が必要な患者のリストアップを行う。医師は処方案を入力する。薬剤師は処方案を確認し、看護師や介護士・セラピスト・相談員・調剤薬局など多職種から、また利用者本人から情報を得て、状態に合わせた減薬提案や追加処方提案、残薬数をまとめる。その後、医師と薬剤師合同で処方検討を行い、処方決定する。薬剤師は指示箋に変更内容を記載して調剤薬局に申し送りを行う。定期処方後、多職種で情報共有し、処方薬の変更があった利用者に体調変化がないかフォローする。
介入結果の収集はカルテより処方を後ろ向きに調査し解析を行った。項目については、1処方の薬剤数・1日の薬の数(定期外用を含み、外用剤は1枚を1、散剤は1包装を1とカウント)・1日の投薬回数・1か月の使用薬剤の種類・1か月1名あたりの薬剤費とした。また、安全性を検討するため処方変更後の関連症状の増悪例を収集するとともに、業務負担感をはかるため当施設職員と調剤薬局職員に聞き取りを行った。
≪結果≫
調査期間中、定期処方の介入は処方総数242件のうち56件行われた。処方追加が1件、処方薬減が55件であった。56件中32件は薬剤師の関与があった。10月・11月の変更件数はそれぞれ12件と10件であり、合計で全体の40%を占め、その後は減少した。1処方の薬剤数は2023年9月の利用者1名あたり平均が5.44剤であったが、翌年3月には4.76剤に減少した。1日の薬の数は2023年9月の利用者1名あたり平均が8.9であったが、翌年3月には7に減少した。1日の投薬回数は2023年9月に利用者1名あたり平均が2.4回であったが、翌年3月には2回に減少した。1か月の使用薬剤の種類は2023年9月に221種類であったが、翌年3月には173種類に減少した。1か月の薬剤費は2023年9月に利用者1名あたり6,947円であったが、翌年3月には3,668円に減少した。見直しした上位薬剤は薬効別に、PPIが12件、NSAIDSが7件、抗精神病薬が7件、抗凝固薬・抗血小板薬が7件であった。処方変更後、関連の治療が必要になったのは56件中2件であった。1件は抗精神病薬変更により不穏となったケース、もう1件は降圧薬減薬後、血圧上昇が起きたケースであった。また、医師・看護師・介護士・調剤薬局の業務負担に関しての聞き取りでは、疑義照会関連の時間が減少した・与薬時間が減少した・調剤時間が減少したという声が得られた。
≪考察≫
処方薬剤数の減少から多剤併用が改善に向かったこと、処方介入後の関連治療が必要になった例が少ないことから、効果的で安全な介入が行えたと思われる。関連治療が必要になった2例については、定期薬変更の情報を多職種に共有し、利用者の状態をフォローすることで早期に対応ができた。また、薬の数・投薬回数の減少と聞き取り内容より、フロアでの与薬の手間と時間・薬の管理にかける時間を軽減でき、看護師・介護士・調剤薬局の業務負担軽減につながったと考えた。薬剤師の提案による処方変更は処方変更総数の53%を占め、疑義照会関連の時間が減少したという聞き取り結果から、医師のタスクを分散する効果もあると思われる。また、使用薬剤の種類・薬剤費の減少によって、誰にとっても分かりやすく安価な薬物治療の継続につながると考えられ、これは老健退所後の生活にも良い影響を与える可能性がある。最適化した処方を継続できた要因は、利用者の背景や状況理解を行い多職種から専門的意見を収集したこと・処方提案前に患者の意向を確認することで意向に沿わない処方変更を避けられたことと考えた。
また、介入開始当初の件数が多かったことから比較的早期に介入効果が出る可能性が示唆された。非常勤薬剤師の勤務時間は対物業務も含め週12時間程度であり、薬剤師不在の老健でも契約薬局と処方吟味を行うことで短期間で処方最適化ができる可能性がある。減薬・処方変更はPPIの種類変更・NSAIDS減量・抗精神病薬の減量・抗血小板薬と抗凝固薬の見直しが多かったため、介入の時間が限られる中で薬効ごとにアプローチすることも有効と思われる。
今回の取り組みでは、利用者・介護者・医療者にとってよい結果を得ることができた。今後も継続していき、利用者の暮らしと在宅復帰を支援していきたい。