講演情報
[14-O-M001-07]介護老人保健施設における服薬簡素化の試み
*高山 恵子1、佐々木 謙伍1、家永 絵美1、目黒 篤1、根橋 一夫2 (1. 埼玉県 介護老人保健施設かがやき、2. 至聖病院)
日本老年薬学会より『高齢者施設の服薬簡素化提言 第1版』が公表されたのを機に、服薬回数の簡素化に向けた取り組みを始めたので報告する。当施設では医療・看護依存度の高い入所利用者が増加し、服薬ケアの負担増が看護・介護現場に少なからぬ影響を及ぼしている。服薬回数は、服薬ケアの負担度に直接影響を及ぼす因子であり、服薬回数の減少と服薬時間の見直しを含む服薬簡素化は現場の負担軽減に直結すると思われる。
【背景・目的】
近年、介護老人保健施設かがやき(以下、当施設)では、医療・看護依存度の高い入所利用者が増加傾向にあり、これに伴う持参薬の種類や剤数の増加と用法の細分化による服薬回数(以下、回数)の増加がみられるようになった。回数は、看護職・介護職の服薬ケアの負担度に影響し、負担の増大はケア全体のリスク増につながりサービスの質の低下を招く要因となりかねない。また、利用者のみならず退所後の本人・家族の負担を考慮する必要もある。
当施設では、ポリファーマシー対策に併せて回数の減少や服薬時間(以下、時間)の見直しに努めてきたが、2024年5月に日本老年薬学会より『高齢者施設の服薬簡素化提言第1版』が公表されたのを機に取り組みを強化することとした。今回、入所利用者の定時処方の回数減と勤務者が比較的多い時間帯への時間変更による服薬簡素化に向けた施設の取り組みを紹介する。
【方法】
施設長了解の下薬剤師が看護・介護職とリハビリ課に対し取組みの趣旨を説明し協力を依頼した。3階フロアの入所利用者43人の定期処方を次の手順にもとづいて変更案を作成し、看護師と言語聴覚士を交えて検討したのち最終案として施設長に提出し承認を得た。
薬剤1日量(以下、1日量)の減量の有無と服薬回数の変動および服薬時間の変更の3項から処方変更に至った人数を集計した。処方変更による心身の影響は、変更前後の血圧変動、排便回数の変動、便形状の変化、不穏・不眠の出現、変更に伴う利用者からの症状の訴えの有無を観察項目とし2週間にわたって観察を行った。負担軽減の検証は、服薬ケアを担う5人の看護師に対し取り組み開始2週間後にアンケート調査を実施した。
なお、取り組み開始にあたって利用者本人には服薬開始前に薬剤師と看護師が説明し、家族にはケアカンファレンスの際に説明することとした。
1.当施設の処方見直し手順に従って、既処方に対し再度ポリファーマシー対策を実施
2.ポリファーマシー対策実施済処方から、添付文書・インタビューフォームをもとに回数を減らせる可能性のある薬剤を選択
ア)「起床時」等、時間が明示されている薬剤の除外
イ)剤型変更(持効性製剤への変更、内服→外用貼付剤)の可能性を検討
3.看護記録、介護記録より服薬に関する課題を確認
4.処方ごとに1日1回(朝食後、昼食後、夕食後、就寝前)に集約可能かの検討
ア)1回量として過量(過度な効果発現)ではない
イ)薬物相互作用の影響(効果の低下)はないか
ウ)用量依存性の副作用の発現はないか
エ)1回の服薬が可能な錠数か
【結果】
3階フロアの入所利用者43人中、26人が見直しの対象となった。1日量を減量できた人数は9人で、不変は17人であった。回数を減らすことができた人数は17人で、内訳は1日4回から1日2回が1人、1日3回から1日2回が10人、1日2回から1日1回が6人であった。回数不変で時間変更できた人数は7人で、朝食後から昼食後が5人、朝夕食後から朝昼食後、朝夕食後から昼夕食後が各1人であった。2人は変更がなかった。
1日量を減量できた薬剤の薬効分類は消化器官用薬(5剤)、循環器官用薬(2剤)、中枢神経系用薬(2剤)呼吸器官用薬(1剤)、末梢神経系用薬(1剤)であった。1日量、回数共に不変で時間が変更になった薬剤の薬効分類は循環器官用薬(26剤)、消化器官用薬(16剤)、中枢神経用薬(8剤)他の血液・体液用薬(7剤)、ビタミン薬(4剤)、ホルモン剤(2剤)、無機質製剤(2剤)、他の代謝性医薬品(2剤)、アレルギー用薬(1剤)であった。朝から昼への変更の対象となった薬剤の薬効分類は循環器官用薬26剤、消化器官用薬10剤、他の血液・体液用薬7剤、ビタミン剤4剤、他の中枢神経用薬3剤、他の代謝性医薬品2剤、ホルモン剤1剤、無機質製剤1剤であった。見直し対象の薬剤の剤型変更は行わずに済んだ。
経過観察期間中、観察項目のすべてで異常は見られず利用者からの症状の変化の訴えはなかった。服薬ケアの負担度軽減に関するアンケートは配薬、服薬共に「大いになった」各2人、「ある程度なった」各2人、「増えた」各1人であった。職員が対象者から取組みに関する意見や質問を聴取した件数は2件で、「朝の薬がない」等の時間や回数に関するものであった。
【考察】
1日量を減量できた9人の処方は、従来のポリファーマシー対策では通過する処方であったが、用法集約の視点が加わったことにより再見直しに至ったと思われる。時間変更の対象となった68剤のうち64剤が1日1回製剤であったことから、服薬簡素化を試みる場合、昼間の時間帯への用法変更を考慮した処方提案が有用と思われた。
アンケートで配薬・服薬共に高評価が得られたのは、朝から昼への時間変更により朝のバイタル測定などの毎朝の看護ケアに要する時間に余裕が生じたことと、服薬介助の負担感は、本人確認から飲み込み確認までの所要時間と回数の積で示せることから回数の減少が負担軽減感につながったと推察される。負担増と回答した1人は、理由として昼への集中による時間当たりの仕事量増加を挙げており、看護師間の効率的な手順の共有が必要になると思われた。
「朝の薬がない」等の変更に関する意見や質問が寄せられた件数が少なかったのは、服薬自己管理困難者が多いことを考慮しても職員による服薬の都度の働きかけが効果を上げているのではないかと考えられた。意見・質問のあった2件は、配薬や服薬時の根気強い説明が課題解決につながると思われる。変更後の心身への影響について、観察項目に異状が認められず症状の変化の訴えがなかったのは、今回の取組みにあたって時間の変更による影響が少ない薬剤を選択したことと職員による服薬の都度の説明が効果を上げているのではないかと推察される。
服薬簡素化の試みは入所利用者と職員双方の負担軽減に寄与できると考えられる。
近年、介護老人保健施設かがやき(以下、当施設)では、医療・看護依存度の高い入所利用者が増加傾向にあり、これに伴う持参薬の種類や剤数の増加と用法の細分化による服薬回数(以下、回数)の増加がみられるようになった。回数は、看護職・介護職の服薬ケアの負担度に影響し、負担の増大はケア全体のリスク増につながりサービスの質の低下を招く要因となりかねない。また、利用者のみならず退所後の本人・家族の負担を考慮する必要もある。
当施設では、ポリファーマシー対策に併せて回数の減少や服薬時間(以下、時間)の見直しに努めてきたが、2024年5月に日本老年薬学会より『高齢者施設の服薬簡素化提言第1版』が公表されたのを機に取り組みを強化することとした。今回、入所利用者の定時処方の回数減と勤務者が比較的多い時間帯への時間変更による服薬簡素化に向けた施設の取り組みを紹介する。
【方法】
施設長了解の下薬剤師が看護・介護職とリハビリ課に対し取組みの趣旨を説明し協力を依頼した。3階フロアの入所利用者43人の定期処方を次の手順にもとづいて変更案を作成し、看護師と言語聴覚士を交えて検討したのち最終案として施設長に提出し承認を得た。
薬剤1日量(以下、1日量)の減量の有無と服薬回数の変動および服薬時間の変更の3項から処方変更に至った人数を集計した。処方変更による心身の影響は、変更前後の血圧変動、排便回数の変動、便形状の変化、不穏・不眠の出現、変更に伴う利用者からの症状の訴えの有無を観察項目とし2週間にわたって観察を行った。負担軽減の検証は、服薬ケアを担う5人の看護師に対し取り組み開始2週間後にアンケート調査を実施した。
なお、取り組み開始にあたって利用者本人には服薬開始前に薬剤師と看護師が説明し、家族にはケアカンファレンスの際に説明することとした。
1.当施設の処方見直し手順に従って、既処方に対し再度ポリファーマシー対策を実施
2.ポリファーマシー対策実施済処方から、添付文書・インタビューフォームをもとに回数を減らせる可能性のある薬剤を選択
ア)「起床時」等、時間が明示されている薬剤の除外
イ)剤型変更(持効性製剤への変更、内服→外用貼付剤)の可能性を検討
3.看護記録、介護記録より服薬に関する課題を確認
4.処方ごとに1日1回(朝食後、昼食後、夕食後、就寝前)に集約可能かの検討
ア)1回量として過量(過度な効果発現)ではない
イ)薬物相互作用の影響(効果の低下)はないか
ウ)用量依存性の副作用の発現はないか
エ)1回の服薬が可能な錠数か
【結果】
3階フロアの入所利用者43人中、26人が見直しの対象となった。1日量を減量できた人数は9人で、不変は17人であった。回数を減らすことができた人数は17人で、内訳は1日4回から1日2回が1人、1日3回から1日2回が10人、1日2回から1日1回が6人であった。回数不変で時間変更できた人数は7人で、朝食後から昼食後が5人、朝夕食後から朝昼食後、朝夕食後から昼夕食後が各1人であった。2人は変更がなかった。
1日量を減量できた薬剤の薬効分類は消化器官用薬(5剤)、循環器官用薬(2剤)、中枢神経系用薬(2剤)呼吸器官用薬(1剤)、末梢神経系用薬(1剤)であった。1日量、回数共に不変で時間が変更になった薬剤の薬効分類は循環器官用薬(26剤)、消化器官用薬(16剤)、中枢神経用薬(8剤)他の血液・体液用薬(7剤)、ビタミン薬(4剤)、ホルモン剤(2剤)、無機質製剤(2剤)、他の代謝性医薬品(2剤)、アレルギー用薬(1剤)であった。朝から昼への変更の対象となった薬剤の薬効分類は循環器官用薬26剤、消化器官用薬10剤、他の血液・体液用薬7剤、ビタミン剤4剤、他の中枢神経用薬3剤、他の代謝性医薬品2剤、ホルモン剤1剤、無機質製剤1剤であった。見直し対象の薬剤の剤型変更は行わずに済んだ。
経過観察期間中、観察項目のすべてで異常は見られず利用者からの症状の変化の訴えはなかった。服薬ケアの負担度軽減に関するアンケートは配薬、服薬共に「大いになった」各2人、「ある程度なった」各2人、「増えた」各1人であった。職員が対象者から取組みに関する意見や質問を聴取した件数は2件で、「朝の薬がない」等の時間や回数に関するものであった。
【考察】
1日量を減量できた9人の処方は、従来のポリファーマシー対策では通過する処方であったが、用法集約の視点が加わったことにより再見直しに至ったと思われる。時間変更の対象となった68剤のうち64剤が1日1回製剤であったことから、服薬簡素化を試みる場合、昼間の時間帯への用法変更を考慮した処方提案が有用と思われた。
アンケートで配薬・服薬共に高評価が得られたのは、朝から昼への時間変更により朝のバイタル測定などの毎朝の看護ケアに要する時間に余裕が生じたことと、服薬介助の負担感は、本人確認から飲み込み確認までの所要時間と回数の積で示せることから回数の減少が負担軽減感につながったと推察される。負担増と回答した1人は、理由として昼への集中による時間当たりの仕事量増加を挙げており、看護師間の効率的な手順の共有が必要になると思われた。
「朝の薬がない」等の変更に関する意見や質問が寄せられた件数が少なかったのは、服薬自己管理困難者が多いことを考慮しても職員による服薬の都度の働きかけが効果を上げているのではないかと考えられた。意見・質問のあった2件は、配薬や服薬時の根気強い説明が課題解決につながると思われる。変更後の心身への影響について、観察項目に異状が認められず症状の変化の訴えがなかったのは、今回の取組みにあたって時間の変更による影響が少ない薬剤を選択したことと職員による服薬の都度の説明が効果を上げているのではないかと推察される。
服薬簡素化の試みは入所利用者と職員双方の負担軽減に寄与できると考えられる。