講演情報
[14-O-M001-08]老健施設におけるポリファーマシー対策の有用性
*山口 千賀子1、居村 晴美1、橋阪 清貴1、松浦 和孝1、北浦 祐一2、小山田 裕一1 (1. 大阪府 パナソニック健康保険組合 松下介護老人保健施設はーとぴあ、2. パナソニック健康保険組合 松下記念病院)
ポリファーマシー対策の有用性を評価する目的で利用者の減薬状況を調査した結果、減薬による医薬品の適正使用が認知症予防にも貢献できる可能性が示唆されたので報告する。チーム回診にて処方の確認・見直しを行い、多職種が入所者の状態を把握し、薬剤師が薬剤の効果や副作用モニタリングを行う。不要な薬剤の減薬以外にも、認知機能に影響する薬剤を安全に減薬できたことは、老健施設の環境が活かされていると考える。
【背景】
厚生労働省によると、国内の認知症の人は年々増加し、2025年にはおよそ700万人、高齢者のおよそ5人に1人が認知症になると予測されている。さらに高齢者の増加とともに、必要以上の薬や不要な薬を服用することで副作用が出現し、きちんと薬が服用できなくなるポリファーマシーの対策が推奨されている。
高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015(日本老年医学会)「特に慎重な投与を要する薬物のリスト」(以下ガイドライン)には認知機能に影響を及ぼすとされる薬剤が明記されている。中でもベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬や抗精神病薬は急に中断した場合、離脱症状が起きる危険性があるため、在宅や病院では減薬が難しいのが現状である。
老健施設は入所期間が病院より長期間であること、多職種が関わり心身の機能全体の維持・改善を行うことがベースにあること、なおかつ24時間体制で利用者を経過観察・評価できる環境であることから、多職種協働で積極的にポリファーマシー対策に取り組んだので報告する。
【目的】
当施設利用者の減薬状況とポリファーマシー対策の有用性を評価する。
【対象】
2022年4月~2024年5月に退所したのべ324名
【方法】
入所時または回診時にポリファーマシー症例をピックアップし、多職種で減薬の可能性を検討し、減薬後の経過を追跡した。
ベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬や抗精神病薬の減薬においては、薬剤の種類と数・作用時間・服用する時間帯・効果を考慮し、1つの薬剤を1週間から2週間かけて少量ずつ減薬して状態を確認し評価を行った。
【調査項目】
1.入所中に減薬された薬剤の数とその減薬理由
2.症状改善にて減薬された薬剤の数とその内訳
3.ガイドラインを参考に減薬された薬剤の数とその内訳
4.減薬されたベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬、抗精神病薬の処方された経緯、減薬後の利用者の状態
【結果】
1.入所中に減薬された薬剤の数261剤(症状改善213剤、ガイドライン参考30剤、代替薬なし8剤、副作用3剤、嚥下困難2剤、その他5剤)
2.症状改善にて減薬された薬剤の数213剤(消化性潰瘍治療剤43剤、下剤30剤、整腸薬22剤、ビタミン製剤21剤、鎮痛薬20剤、睡眠薬18剤、漢方薬15剤、降圧薬12剤、脂質異常症薬7剤、糖尿病薬5剤、去痰薬5剤、鉄剤5剤、抗うつ薬3剤、利尿薬2剤、電解質製剤2剤、抗めまい薬2剤、高尿酸血症治療薬1剤)
3.ガイドラインを参考に減薬された薬剤の数30剤(ベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬10剤、抗精神病薬7剤、H2受容体拮抗薬7剤、スルピリド4剤、第1世代H1受容体拮抗薬1剤、過活動膀胱治療薬1剤)
4.ベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬、抗精神病薬投与症例について
処方された経緯:入院中に追加された5例、前かかりつけ医で処方された薬の処方理由が不明のまま、現かかりつけ医が処方していた1例
減薬後の利用者の状態(転倒リスクの少ない睡眠薬へ変更した5例を含む。):不眠・精神状態の悪化0例、著変なし6例、日中傾眠が改善した3例、片頭痛が消失しADLが改善した1例
【考察】
ポリファーマシーという言葉や意味は周知されてきているが、その対策は進んでいない現状がある。今回の調査においても、多くの利用者が不要な薬剤を漫然と投与されていたことがわかった。
ガイドラインを参考に減薬された薬剤30剤のうち25剤は認知機能に影響を及ぼす薬剤であった。減薬により薬剤で誘発される認知機能の低下防止に貢献できたと考える。
ベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬、抗精神病薬について、老健施設では医師・看護師・薬剤師が常駐しており、薬剤の減量・減薬後、多職種で利用者の状態を確認し、カンファレンスを重ねることで、離脱症状は1件もなく安全に減薬できた。この点からも老健施設での減薬は有用であると考えられた。
多くの薬剤を服用する要因の一つに、薬剤によって出現した副作用を新たな症状の出現と誤り、その症状に対する薬剤が増える場合が少なくない。この悪循環を回避することが、ポリファーマシーの防止につながると考えられる。
利用者の症状について薬剤師は、まず薬の影響ではないかと第一に考え、原因薬剤の減量や減薬を医師に提案できる体制が必要である。当施設はチーム回診を毎週行い、処方の確認・見直しの体制が確保されている。看護師、介護士、リハビリ職がそれぞれの専門的役割のもと入所者の状態を把握し、それらの情報をもとに薬剤師が薬剤の治療効果や副作用のモニタリングを行い医薬品の適正使用につなげている。
薬剤師が不在の施設においても、隣接する病院・診療所、あるいは調剤薬局が積極的に関与することで、薬剤の適正化を達成できると考える。
利用者本人や家族が薬にこだわりを持ち、減薬が進まないことがある。薬剤の減量や減薬により病状が改善する場合があることを利用者や家族に理解していただく必要があり、薬剤の適正な使用法の知識を広く普及させることも今後の課題と考える。
【結語】
医師・看護師・薬剤師が常駐する老健施設は、ポリファーマシー対策において、不要な薬剤の減薬だけでなく、認知機能に影響するベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬、抗精神病薬の減薬においても安全に施行できる環境であり、認知症予防にも貢献できる可能性が示唆された。
厚生労働省によると、国内の認知症の人は年々増加し、2025年にはおよそ700万人、高齢者のおよそ5人に1人が認知症になると予測されている。さらに高齢者の増加とともに、必要以上の薬や不要な薬を服用することで副作用が出現し、きちんと薬が服用できなくなるポリファーマシーの対策が推奨されている。
高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015(日本老年医学会)「特に慎重な投与を要する薬物のリスト」(以下ガイドライン)には認知機能に影響を及ぼすとされる薬剤が明記されている。中でもベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬や抗精神病薬は急に中断した場合、離脱症状が起きる危険性があるため、在宅や病院では減薬が難しいのが現状である。
老健施設は入所期間が病院より長期間であること、多職種が関わり心身の機能全体の維持・改善を行うことがベースにあること、なおかつ24時間体制で利用者を経過観察・評価できる環境であることから、多職種協働で積極的にポリファーマシー対策に取り組んだので報告する。
【目的】
当施設利用者の減薬状況とポリファーマシー対策の有用性を評価する。
【対象】
2022年4月~2024年5月に退所したのべ324名
【方法】
入所時または回診時にポリファーマシー症例をピックアップし、多職種で減薬の可能性を検討し、減薬後の経過を追跡した。
ベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬や抗精神病薬の減薬においては、薬剤の種類と数・作用時間・服用する時間帯・効果を考慮し、1つの薬剤を1週間から2週間かけて少量ずつ減薬して状態を確認し評価を行った。
【調査項目】
1.入所中に減薬された薬剤の数とその減薬理由
2.症状改善にて減薬された薬剤の数とその内訳
3.ガイドラインを参考に減薬された薬剤の数とその内訳
4.減薬されたベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬、抗精神病薬の処方された経緯、減薬後の利用者の状態
【結果】
1.入所中に減薬された薬剤の数261剤(症状改善213剤、ガイドライン参考30剤、代替薬なし8剤、副作用3剤、嚥下困難2剤、その他5剤)
2.症状改善にて減薬された薬剤の数213剤(消化性潰瘍治療剤43剤、下剤30剤、整腸薬22剤、ビタミン製剤21剤、鎮痛薬20剤、睡眠薬18剤、漢方薬15剤、降圧薬12剤、脂質異常症薬7剤、糖尿病薬5剤、去痰薬5剤、鉄剤5剤、抗うつ薬3剤、利尿薬2剤、電解質製剤2剤、抗めまい薬2剤、高尿酸血症治療薬1剤)
3.ガイドラインを参考に減薬された薬剤の数30剤(ベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬10剤、抗精神病薬7剤、H2受容体拮抗薬7剤、スルピリド4剤、第1世代H1受容体拮抗薬1剤、過活動膀胱治療薬1剤)
4.ベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬、抗精神病薬投与症例について
処方された経緯:入院中に追加された5例、前かかりつけ医で処方された薬の処方理由が不明のまま、現かかりつけ医が処方していた1例
減薬後の利用者の状態(転倒リスクの少ない睡眠薬へ変更した5例を含む。):不眠・精神状態の悪化0例、著変なし6例、日中傾眠が改善した3例、片頭痛が消失しADLが改善した1例
【考察】
ポリファーマシーという言葉や意味は周知されてきているが、その対策は進んでいない現状がある。今回の調査においても、多くの利用者が不要な薬剤を漫然と投与されていたことがわかった。
ガイドラインを参考に減薬された薬剤30剤のうち25剤は認知機能に影響を及ぼす薬剤であった。減薬により薬剤で誘発される認知機能の低下防止に貢献できたと考える。
ベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬、抗精神病薬について、老健施設では医師・看護師・薬剤師が常駐しており、薬剤の減量・減薬後、多職種で利用者の状態を確認し、カンファレンスを重ねることで、離脱症状は1件もなく安全に減薬できた。この点からも老健施設での減薬は有用であると考えられた。
多くの薬剤を服用する要因の一つに、薬剤によって出現した副作用を新たな症状の出現と誤り、その症状に対する薬剤が増える場合が少なくない。この悪循環を回避することが、ポリファーマシーの防止につながると考えられる。
利用者の症状について薬剤師は、まず薬の影響ではないかと第一に考え、原因薬剤の減量や減薬を医師に提案できる体制が必要である。当施設はチーム回診を毎週行い、処方の確認・見直しの体制が確保されている。看護師、介護士、リハビリ職がそれぞれの専門的役割のもと入所者の状態を把握し、それらの情報をもとに薬剤師が薬剤の治療効果や副作用のモニタリングを行い医薬品の適正使用につなげている。
薬剤師が不在の施設においても、隣接する病院・診療所、あるいは調剤薬局が積極的に関与することで、薬剤の適正化を達成できると考える。
利用者本人や家族が薬にこだわりを持ち、減薬が進まないことがある。薬剤の減量や減薬により病状が改善する場合があることを利用者や家族に理解していただく必要があり、薬剤の適正な使用法の知識を広く普及させることも今後の課題と考える。
【結語】
医師・看護師・薬剤師が常駐する老健施設は、ポリファーマシー対策において、不要な薬剤の減薬だけでなく、認知機能に影響するベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬、抗精神病薬の減薬においても安全に施行できる環境であり、認知症予防にも貢献できる可能性が示唆された。