講演情報

[14-O-M001-09]ポリファーマシー対策へ向けた意識付けの取り組み

*作道 花音1、野口 泉1、北野 幸司1、瀬川 麻由美1、多賀 誠一1、亀井 哲也1 (1. 富山県 介護老人保健施設 みどり苑)
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入所者のポリファーマシーの改善を目的とした、スタッフへの意識付けの取り組みについて報告する。勉強会を行いポリファーマシー対策を実施し、スタッフの意識・理解度をアンケートで比較した。その結果、ポリファーマシー及び薬剤管理に対する意識が向上した。また利用者の薬剤数・薬剤費が減少した。今回の取り組み後、より明確な観察視点を持ってケアすることで、利用者の薬物療法及び生活の適正化へつながると考えられる。
I.はじめに
ポリファーマシー(Polypharmacy)とは多剤併用を意味する。しかし数の定義だけではなく、薬物有害事象リスクなど薬剤のあらゆる不適切な問題についても捉えるべきとされており、厚生労働省はその対処について啓発を進めている。
当苑の認知症専門棟は、定員45名の利用者が生活している。ポリファーマシーを改善するためには、看護師以外に介護スタッフが利用者へ薬を配ることが多く、多職種連携が重要となる。また、当苑には今まで薬剤を見直す取り組みや体制は特に無かった。そこで今回ポリファーマシーの問題解決に向けて、認知症専門棟スタッフ全体への意識付けを行った。
II.方法
1.5月中旬、認知症専門棟の看護・介護スタッフ18名へ意識調査アンケートを行い、現時点でのポリファーマシーの理解度を把握する。
2.5月下旬、看護師によるポリファーマシーについての勉強会を行う。6月上旬、薬剤師による勉強会を行う。その後、以下のような流れで定期的な薬の見直しを形態化し、実施していく。
1)スタッフが担当利用者の状態・生活・内服薬をアセスメントし、多職種カンファレンスで情報共有する。
2)医師と看護師で相談し、内服薬を変更する。
3)変更内容と考え得るリスク、観察ポイントについて、スタッフで情報共有する。その後症状変化や有害事象の有無に注意し、多職種で状態・生活をアセスメントしていく。
3.6月下旬、再度意識調査アンケート施行。スタッフの理解度・意識変化を確認する。
III.結果
1.意識調査アンケート結果:
「ポリファーマシーという言葉を知っているか」、「ポリファーマシー対策を重要だと思うか」に対し「はい」回答者数…いずれも5月8人/18人→6月18人/18人
「利用者が内服している薬内容を把握しているか」に対し「はい」回答者数…5月8人/18人→6月9人/18人
2. 6月末の認知症専門棟入所者(38名)の内服薬:
入所時は平均5.5剤、18名が6剤以上内服している→6月末は平均4.9剤(-0.6)、11名が6剤以上内服している(-7)
3.令和5年12月1日から継続入所している入所者(16名)の薬剤費:12月57,726.44円→6月46,063.59円(-11,662.85)
IV.考察
アンケート結果より、取り組み前は薬に対する意識が薄かったことが分かる。今回2度の勉強会を行うことで、スタッフの薬剤及びポリファーマシーに対する理解度向上、薬剤管理への意識向上につながったと言える。その後、ポリファーマシー対策の実施により利用者の薬剤数・薬剤費減少にもつなげられたと言える。
ただ利用者の内服薬の内容を把握していないスタッフが半数いる結果から、薬の把握状況に個人差が生じていることがわかる。今後もスタッフ一人一人が服薬内容を意識できるよう取り組んでいく必要があると考える。
また多職種で利用者の内服薬や変更点・観察点を情報共有することで、スタッフ一人一人がより良いケアの提供を考えるきっかけとなったと思われる。例えば軟便・泥状便継続にて緩下剤減量となった利用者に対し、介護スタッフがその後の排便状況を記録表にて観察するようになった。認知症専門棟は利用者本人が症状や希望を訴えることが困難な場合が多いため、日ごろ施設生活を介助しているスタッフの観察が特に大切である。今回の取り組み後、より明確な観察視点を持って普段のケアや生活リハビリの実施、眠りスキャンによる睡眠データの分析をすることで、利用者の薬物療法及び生活の適正化へつながると考えられる。またポリファーマシー対策において薬剤師ともより協働していく必要がある。
V.おわりに
今回ポリファーマシーへの取り組みの第一歩として、認知症専門棟スタッフの意識改革につなげることができた。今後は、当苑全体の意識づくり、及び利用者中心のポリファーマシー対策体制構築を目指していきたい。ただ過去の研究では、ポリファーマシー対策施行により薬剤数・医療費を減少されることが期待できるが、入院回数・転倒回数・QOLなど予後改善については十分証明されていない。薬の適正化により、潜在的な有害事象や今後起こりうるリスクの改善・予防にもつながるため、明確なデータは出しにくいと思われる。今後も各職種が協力し合い、利用者情報を共有し薬剤の適正化につなげる体制を整えていきたい。また、今後は退所後の服薬アドヒアランス向上も目指していきたいと考える。服用管理能力や本人・家族の思いを多職種で共有し、薬物有害事象と疑われる症状について指導するなど、在宅生活へ向けた内服・生活指導を行っていきたい。