講演情報

[14-O-C001-04]私たちの老健における看取りについて

*大堀 聖子1、長繩 伸幸1 (1. 岐阜県 老人保健施設サンバレーかかみ野)
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少子超高齢多死社会を迎えている昨今、医療と介護を兼ね備えた老人保健施設での看取りは増加しており、今後も更に増加すると考えられる。今回、本人と家族の思いの不一致、医療者との見解の不一致から看取りへの難しさを考える事例を経験した。そこで、今後私どもは各務原市独自の人生アルバム(人生継続計画)を早期から利用しつつ、より良い看取り方を考えていきたい。
【はじめに】
私たちフェニックスグループは、ハートピア・リハトピア・サンバレーかかみ野の3つの老健を有している。
ハートピア・リハトピアはそれぞれ母体の有床診療所と一体化した、超強化型小規模老健である。ハートピアは療養型老健として、医療に強みを持ち、リハトピアはリハビリ強化型で在宅復帰を強力に促進している。サンバレーかかみ野は139床の地域包括ケアシステムの拠点となる、独立型大規模老健である。
近年、本人及び家族のニーズが多様化しており、老健もそのニーズに対応すべききめ細かな機能分化が必要である。老健の役割の1つとして、在宅療養支援があり、近年老健での看取りも増加していることから、今までの老健での看取り事例から、本人・家族そして私どもが納得できる終末期のあり方を考えたい。
【看取りの現状】
令和5年度ではフェニックスグループ全体の看取りは90件で約半数の52件を3老健で、特に私の所属するサンバレーでは42件の看取りを行った。私どもは経時的な病態変化を、ご家族へ報告すると共に、今後の療養方針について遂時確認している。その変化する病態変化と共に経過をご家族と再確認した上で看取りも念頭に本人・家族と面談し、看取りの同意を得ている。
【事例】
K様(87歳)女性
主病名 多発褥瘡による敗血性ショック後 慢性呼吸不全 タコつぼ型心筋症 認知症 低栄養
病態  全介助状態 リクライニング車椅子使用 在宅酸素1.5L使用

長年同居の長女が在宅介護を担っていたが、R6.1月多発褥瘡からの敗血性ショック、尿路感染症にて救急搬送されA病院に入院。リハビリ目的にて、私どものフェニックスグループ有床診療所を経て、4月にサンバレーに入所。その後老衰にて5月19日にご逝去されている。
キーパーソンは非同居の長男。母への思いが強く、「栄養あるものをたくさん食べて早く歩けるようになってほしい、元気になって欲しい」最期の時まで長男が言っていた言葉である。K様は前医にて看取りのICに同意し、その旨書類に記入。サンバレー入所時も施設看取りに同意いただいていた。入所時より、口渇の訴えがあり、随時ST介入し嚥下訓練行ったが、嚥下機能の低下による誤嚥の危険が高いと判断。経口摂取は中止となり、補液で経過観察となった。
その都度病態について説明をしていたが、家族は面会の際には、施設の注意を無視してジュースや刻み林檎を提供していた。看取りの説明は受けたものの早く以前のように歩けるようになってほしい、栄養あるものをたくさん食べて元気になってほしい、という思いが強い方であった。しかし結果として誤嚥性肺炎を繰り返す事となった。
家族へは医師より度重なる面談、ICを行ったが、「心配をしてくれるのは有り難いが、母の気持ちを優先したいので、飲ませてあげたい」との気持ちが強く、現状を受け止めることが出来ない様子であった。
最期にSPO2の低下がみられ、家族に連絡をした際、やはり治療をして欲しいと強い希望があり、医師より家族の希望に沿うよう病院に搬送する事となった。しかし老衰に近い状態である為、治療できる事はないと2つの病院から受け入れの拒否。サンバレーへ戻ることとなり、その後ご逝去されている。
【考察】
老健での看取りでは
(1)苦痛の緩和
(2)看取り状態か否か(治療で回復)の判断
(3)本人・家族の意思決定(ACP) が必要である。
K様に限らず、SPO2低下が見られた原因の究明と必要時看護師の判断で酸素投与開始。風邪症状や発熱などの症状出現時はバイタル、SPO2、末血、時には検尿後医師に報告・指示を受けている。予想されない急変以外、基本的に施設内対応が多いが、医師は家族の意向も考慮して、地域内の二次病院に入院を依頼することも少なくない。看取り状態であれば家族の了解を得て施設内加療を行っている。
しかし、本事例では
(1)認知機能低下により状況を理解できず飲水を求める本人
(2)思いが強く看取りを受け入れたくない家族
(3)姉弟間の関係性
(4)医療者と本人家族の見解の相違があったのだと考える。
家族として、その時々で気持ちの変化が起きるのは当然の事である。その気持ちの変化を受け止め、共に納得出来る生活療養が出来る方向へ導いて行くことが私たち医療者の責務ではないかと考えます。法人の入り口である、地域包括支援センター・地域連携室・在宅相談センターなど、早い段階で人生継続計画を用いて、本人の療養支援者と連携を図り、少しずつ中身を書き加えて行く事で、本人・家族の思いに沿った最期を迎えることに繋がるのではないかと考えます。
【まとめ】フェニックスグループは岐阜県各務原市に位置しているが、その各務原市では人生継続計画の利用を推奨している。本人の生い立ち、今まで暮らしてきた形、望む生き方や今後について記載できる冊子になっている。
関わる支援者が、あらゆる機会でこれに加筆続け、本人の想いをご家族と共にかなえてあげたい。