講演情報
[14-O-C001-05]看取りケアの取り組み利用者、本人と共に考える最期
*松岡 篤史1、木本 光則1、岩崎 哲也1、西谷 明代1、眞鍋 亜由美1、近藤 克也1 (1. 香川県 介護老人保健施設ハートフルあいあい荘)
65歳以上の高齢者の割合が人口の21%を超えた状態を、「超高齢化社会と」言う。団塊の世代が後期高齢者を迎える2025年ごろから高齢化後の死亡数が増加、人口減少が加速する状況を、「多死社会」と呼ぶ。
高齢者施設における、「看取りケア」のニーズは非常に高まってきている。質の高い看取りケアを提供するには、より多職種共同による研鑽を重ねる必要性がある。
高齢者施設における、「看取りケア」のニーズは非常に高まってきている。質の高い看取りケアを提供するには、より多職種共同による研鑽を重ねる必要性がある。
はじめに
当施設でも2009年から看取りケアを開始し、年間5件前後看取らせていただいている。本人、家族の思いを最大限尊重し、悔いのない最期を迎えられるようご助力していきたい。
看取りケア開始後は定期的に多職種共同によるカンファレンスなどを行い、その人らしい最期を迎えられるよう援助している。
家族から感謝の意を頂いたケースが何度かあり、それについて報告する。
事例紹介
T様:86歳 男性
基礎疾患:脳梗塞後遺症、右不全麻痺、糖尿病
令和5年11月入所。入所時から嚥下状態は良くなく、誤嚥することが度々みられ、毎食後の吸引を要する状態であった。管理栄養士、言語聴覚士で相談し、ペースト食を提供していた。
12月頃から発熱、嚥下機能の低下、食事時の傾眠傾向が強くなり、医師の指示のもと絶食や抗生剤の点滴治療を行うことがあった。本人の意向を尊重し、状態をみながら経口摂取の継続をした。
12月14日、嚥下が全くできない状態になり、本人、家族を交えてカンファレンスを行った。本人が、「食べられなくなった時が自分の最期の時」とはっきり言われ、胃管カテーテル挿入などを含めた一切の延命を希望しないという意思を示された。家族は胃管カテーテルの挿入を希望していたが、長い話し合いの末、本人の強い意志を尊重する形となった。同日より看取りケア開始となる。
介護スタッフ、家族でのカンファレンスの中で、なるべく家とそう変わらない生活を続けさせたいという希望があり、入れ替わりのような形で日に5回以上面会に来られることもあった。家族が小型の電子ピアノを持ち込まれ演奏をしたり、本の読み聞かせをされたり、本人ととても楽しそうにしいることもあった。寒い日が続くが、体調の良いときを見計らい、施設周辺を車椅子で散歩されたりすることもあった。
その反面、面会の後涙を流されたり、不安や恐怖の気持ちを吐露されることもあった。「あんなに強かったお父さんが死ぬことはない」と、死を否認されたり、抑うつ的な感情をみせたりすることもあった。必要に応じ看護スタッフ、介護スタッフで家族とカンファレンスを行い、気持ちに寄り添うように努めた。
令和6年1月10日から傾眠状態や、意識のない時間が増えたが、家族は落ち着き、少しずつ近い将来死を回避できない状態であることを受け入れようとしているように見えた。本人も家族が落ち着いている様子をみて、安心したようで、「良かった」と、単語でこぼされたりする様子もあった。
1月19日、家族様に看取られる中永眠された。エンゼルケアは、家族とスタッフで行った。「最後の親孝行ができた」「もう悔いはない、したいことは全部してあげられた」との言葉があった。
考察
本人と家族の間で最初は気持ちに相違があったが、本人の強い意志を尊重する家族のより強い思いもあり、お互い納得できる形での、看取りケアを提供できたのではないのだろうか。状態に応じ揺れる家族の気持ちをサポートし、気持ちのケアを続けることにより、死を受容できる過程の一端を担ったのではないかと思っている。
ケースによってはどのタイミングで看取り期に入るのか、ご家族の悲嘆な心情を理解しながら死について考えていくことが、今後の課題である。
急激な状態の悪化、症状の寛解と増悪を繰り返したりするケースなどでは特に予測や判断が難しい。ターミナルケア加算の算定ができず看取りケアを行ったケースも少なからずある。経過の中での状態変化を刻々と読み取り、多職種での情報の共有やカンファレンスなどをより行っていくことで、気づきの機会が増えたりするのではないかと考えた。最期の瞬間や、突然の喪失感に対する不安の軽減にもつながるであろう。
今後も看取りに関する職員研修を定期的に行い、個々の知識や技術の向上につとめていきたい。
終わりに
老健での看取りの件数は年々増加している。安心と信頼される医療、想いと優しさの伝わるケアを提供できるよう、今後も全職員一丸となり、努めていきたい。施設で最期を迎えることを選ばれた方が、終の棲家と思っていただけるよう、気持ちに寄り添った関りをしていきたい。
当施設でも2009年から看取りケアを開始し、年間5件前後看取らせていただいている。本人、家族の思いを最大限尊重し、悔いのない最期を迎えられるようご助力していきたい。
看取りケア開始後は定期的に多職種共同によるカンファレンスなどを行い、その人らしい最期を迎えられるよう援助している。
家族から感謝の意を頂いたケースが何度かあり、それについて報告する。
事例紹介
T様:86歳 男性
基礎疾患:脳梗塞後遺症、右不全麻痺、糖尿病
令和5年11月入所。入所時から嚥下状態は良くなく、誤嚥することが度々みられ、毎食後の吸引を要する状態であった。管理栄養士、言語聴覚士で相談し、ペースト食を提供していた。
12月頃から発熱、嚥下機能の低下、食事時の傾眠傾向が強くなり、医師の指示のもと絶食や抗生剤の点滴治療を行うことがあった。本人の意向を尊重し、状態をみながら経口摂取の継続をした。
12月14日、嚥下が全くできない状態になり、本人、家族を交えてカンファレンスを行った。本人が、「食べられなくなった時が自分の最期の時」とはっきり言われ、胃管カテーテル挿入などを含めた一切の延命を希望しないという意思を示された。家族は胃管カテーテルの挿入を希望していたが、長い話し合いの末、本人の強い意志を尊重する形となった。同日より看取りケア開始となる。
介護スタッフ、家族でのカンファレンスの中で、なるべく家とそう変わらない生活を続けさせたいという希望があり、入れ替わりのような形で日に5回以上面会に来られることもあった。家族が小型の電子ピアノを持ち込まれ演奏をしたり、本の読み聞かせをされたり、本人ととても楽しそうにしいることもあった。寒い日が続くが、体調の良いときを見計らい、施設周辺を車椅子で散歩されたりすることもあった。
その反面、面会の後涙を流されたり、不安や恐怖の気持ちを吐露されることもあった。「あんなに強かったお父さんが死ぬことはない」と、死を否認されたり、抑うつ的な感情をみせたりすることもあった。必要に応じ看護スタッフ、介護スタッフで家族とカンファレンスを行い、気持ちに寄り添うように努めた。
令和6年1月10日から傾眠状態や、意識のない時間が増えたが、家族は落ち着き、少しずつ近い将来死を回避できない状態であることを受け入れようとしているように見えた。本人も家族が落ち着いている様子をみて、安心したようで、「良かった」と、単語でこぼされたりする様子もあった。
1月19日、家族様に看取られる中永眠された。エンゼルケアは、家族とスタッフで行った。「最後の親孝行ができた」「もう悔いはない、したいことは全部してあげられた」との言葉があった。
考察
本人と家族の間で最初は気持ちに相違があったが、本人の強い意志を尊重する家族のより強い思いもあり、お互い納得できる形での、看取りケアを提供できたのではないのだろうか。状態に応じ揺れる家族の気持ちをサポートし、気持ちのケアを続けることにより、死を受容できる過程の一端を担ったのではないかと思っている。
ケースによってはどのタイミングで看取り期に入るのか、ご家族の悲嘆な心情を理解しながら死について考えていくことが、今後の課題である。
急激な状態の悪化、症状の寛解と増悪を繰り返したりするケースなどでは特に予測や判断が難しい。ターミナルケア加算の算定ができず看取りケアを行ったケースも少なからずある。経過の中での状態変化を刻々と読み取り、多職種での情報の共有やカンファレンスなどをより行っていくことで、気づきの機会が増えたりするのではないかと考えた。最期の瞬間や、突然の喪失感に対する不安の軽減にもつながるであろう。
今後も看取りに関する職員研修を定期的に行い、個々の知識や技術の向上につとめていきたい。
終わりに
老健での看取りの件数は年々増加している。安心と信頼される医療、想いと優しさの伝わるケアを提供できるよう、今後も全職員一丸となり、努めていきたい。施設で最期を迎えることを選ばれた方が、終の棲家と思っていただけるよう、気持ちに寄り添った関りをしていきたい。