講演情報
[14-O-C001-06]0から始める老健での看取り
*稲津 佳世子1 (1. 福岡県 医療法人泯江堂からざステーション)
当施設は単科精神科病院併設の加算型老健であり、これまで施設内で看取りを行う事はなかった。近年老健の役割として看取りを行うことが厚労省から勧められるようになり、医療行為を必要としない介護施設ならではの看取りもあることから、当施設でも看取りを行うこととした。介護の看取りについて職員や家族にも説明し、老衰による看取りを行う事が出来るようになった。0から始めた施設内での看取りについて、経過を報告する。
当施設は介護保険制度の発足する前に設立された単科精神科病院併設の老健である。併設病院に内科療養病棟があり、経口摂取困難など身体状況が悪化した場合は療養病棟に転院し、身体抑制下で経管栄養や補液を行う看取りが恒例であった。施設内で看取りを行うことはなく、バイタルサインの急変時は急性期医療機関に救急搬送するか、死亡事例も警察を呼ぶことになっていた。近年老健の役割として看取りを行うことが厚労省から勧められるようになり、施設長交代を機会に、介護施設ならではの医療行為を必要としない穏やかな看取りもあることを職員や家族に知っていいただき、老衰による看取りを行う事が出来るようになってきた。0から始めた施設内での看取りケアについて、経過を報告する。施設長は心療内科兼精神科医であるが緩和ケア病棟や在宅医療の経験もあり、ACPや事前指定書などについても長年研鑽を重ねていた。老健は介護保険制度の中で唯一の中間施設であり、本来在宅復帰のための施設である。当施設は精神科併設と言う事もあり、重度の周辺症状のある認知症の方や精神疾患を持つ利用者が多く、在宅復帰を望まない家族が多かった。そのため、特養待機の方が多く、退所先は骨折や肺炎による他の医療機関への入院か特養であった。介護報酬改訂の影響もあり、在宅復帰や看取りについて当施設でも取り組む必要があった。これまでとは違う方向転換に戸惑う職員も多く、在宅復帰や看取りの実施について、粘り強く説明を行い、基本型から加算型への転換を目指す事とした。第1期 意識調査施設内で看取りを行う事について職員の意識調査を行った。介護職は、特養などで臨死時の介護経験のある者と、臨死を経験したことがない者、あるいは、経験があってもそれが嫌で看取りのない老健に転職してきた者などがいることが分かった。看護職も同様であったが、急変時の対応に不安がある者が多かった。また、利用者の家族が施設での看取りを希望するとは限らず、それについても丁寧な説明が必要であることが分かった。第2期 意識改革まずは、入所時に入所者の家族や入所者に対して今後の人生について、ACPを尋ねる事から開始することにした。また、ACPや施設内で看取りを行うための職員向け学習会や看取りケアに必要な委員会や書類の作成を行った。介護施設でモニターなしの看取りを数多く行っているケアマネジャー兼訪問看護師を講師に施設内学習会を行い、老衰死についての学びを深めた。また、対象となる利用者像についても90歳以上、施設入所3か月以上で職員と馴染みになっている状況や継続的酸素や重度の医療行為が必要でない方など具体的な基準を設けた。警察介入の必要性について、警察に問い合わせ異常死でない場合は必ずしも介入の必要はない事を確認し、施設長は医師会が行う検死についての研修を受け、異常死の鑑別を行う準備をした。第3期 看取りの実施看取りケア加算の獲得も視野に、看取りケアのための書類を作成し、運用を開始した。途中、看取りケアの対象ではないが施設内で突然死された事例があり、死別ケアについて職員にアンケートを実施した。在宅復帰についてもこれまでほとんど事例が無かったが、100歳の誕生日を前に経口摂取が出来なくなった利用者をご家族の希望で在宅医療に繋ぎ、自宅で最期を迎えられた事例も経験した。その後も92歳の方で経口摂取困難となったが家族の希望で最低限の補液のみで経過観察し、施設内での看取りを行うことが出来た。本人の希望でタバコのにおいを嗅がせたり、本人の好きな飲み物などで穏やかに最期を迎えた。死後の処置も職員が行い、アルバムを作ったり、花を飾るなど部屋の装飾も職員が皆で工夫をし、家族の満足度も高かった。数例の事例を経験できたが、いずれも日勤帯の比較的人員が豊富な時間帯であったのが幸いであり、夜間は心停止の時間が分からないと不安なため病院より心電図モニターを借りての対応であった。第4期 死後の職員、家族へのアンケートの実施施設内での看取りを行うたびに、職員へのアンケートや後日家族へのアンケートを行い、満足度や問題点のあぶり出しを行った。家族の満足度は概ね高かったが、職員は看取りケアを宣言してから時間が短かった事例や、最後に点滴やセデーションを必要とした事例、他の利用者がいるホールでの見守り、酸素やモニターの使用などについての問題が指摘された。また、コロナ禍でもあり家族の面会が制限される中、面会や家族と過ごす時間をいかに確保するかが課題であった。第5期 現在概ね90歳以上で、これまで当施設に長期滞在されている方を対象とし、本人やご家族の意向を書面で確認し、看取りケア加算の要件に合わせ多職種カンファレンスを行っている。看取りのための個室改造について、補助金申請を行ったが昨年度は獲得できなかった。重度の心不全がある方は管理が難しく、家族の希望もあり医療機関に搬送する事例が続いている。短期の看取りのためだけの入所は行っていない。内科療養病棟との住み分けや精神疾患のある他の利用者の対応をしながら多忙で騒がしい状況での看取りケアについて疑問を抱く職員もあり、課題は山積しているが、今後も加算型から強化型を目指し、在宅復帰を含め症例を重ねていく方針である。