講演情報
[14-O-C002-05]その人らしい生活をいつまでも老健におけるターミナルケア
*各務 由香里1、辻 健一郎1 (1. 岐阜県 介護老人保健施設アルマ・マータ)
老健の役割の一つであるターミナルケアは「生きる為のケア」ではなく「どのような最期を迎えるか」という考え方が根本にある。今回、生命の限界が近づいてきたT様とご家族の想いに寄り添いながら援助を行った。身体的、精神的な苦痛を感じることなく穏やかに、またご家族の気持ちを受け止めながら最期を迎えて頂く為にどのようなケアやサポートを行っていけば良いのか、今回の経験から学んだ事を報告する。
【はじめに】
老健の役割の一つであるターミナルケアは「生きる為のケア」ではなく「どのような最期を迎えるか」という考え方が根本にあります。今回、生命の限界が近づいてきたT様とご家族の想いに寄り添いながら援助を行いました。T様が身体的、精神的な苦痛を感じることなく穏やかに、またご家族の気持ちを受け止めながら最期を迎えて頂く為にどのようなケアやサポートを行っていけば良いのか、今回の経験から学んだ事を報告させて頂きます。
【事例紹介】
T様 108歳 女性 要介護度1 HDS-R19点
既往歴:高血圧症、認知症、抹消循環障害 ADL:一部介助 車椅子自操可能
ターミナル期間:R5 3/24~10/8
T様の意向は昔から延命治療はしたくない。ご家族として、最期は自宅で看取りたいと希望があった。しかしT様の年齢によるADL低下と末梢循環障害による両足趾の壊死の処置は困難であり、少しでも痛みや苦痛が軽減できるのであればお願いしたいと施設でのターミナルケアが開始となった。
【経過】
足の壊死が進み、感染症をおこし高熱を繰り返した。徐々に食欲が低下し活気もなくなった為、ターミナル開始となった。抗生剤と下肢の処置を繰り返し行う事で、少しずつ感染症状が軽快していった。食事の摂取量は少なく全粥を数口程度食べられるのみであった。その為、量を調節し無理なく食事を食べて頂いた。ターミナル中盤頃より、足の状態が悪く医師の指示のもと、看護師をはじめ痛みの伴わない様慎重に処置を行った。大好きだった入浴では気分転換も込めて可能な範囲で湯船にも浸かって頂いた。
T様は動物が好きだったという事もあり、精神面に働きかけるようにアニマルセラピーとしてセラピー犬が来た際は居室まで出向いてもらい、直接触りお話しをして頂いた。昔お世話をしていた犬の話もして頂けてコミュニケーションのきっかけにもなった。
またT様の「家に帰りたい」という希望もあった為、体調をみて自宅に戻る機会を作りご家族との時間を楽しんで頂いた。
ターミナル終盤では、入床時間が多く褥瘡が出来ないよう臀部にワセリンを塗布した。また、清潔を維持できる様定期的にオムツ内チェックを心掛けた。しかし末梢循環障害ということもあり、体位交換時は痛みが生じてしまった為、体交がほとんど出来ずT様の安楽な姿勢を維持することを優先した結果、褥瘡を作ってしまった。
ご家族が来設された際は、T様の好きな食べ物を持参して頂き提供した。コロナ禍という事もあり面会の制限があったが、少しでもご家族と会える時間を増やしたいと思い、ターミナル時の面会について再検討し対策を万全に行うことで機会を増やすことが出来た。T様、ご家族と職員で密にコミュニケーションをとり、ご家族が帰宅された後も不安にならない様に定期的に訪室し声掛けを行った。また、在宅にて看取りたいというご家族の希望と家族と一緒に居たいというT様の希望に出来るだけ添えるよう居室にご家族の写真や家庭で育てた花を飾ったことでいつでも近くにいるような安心感を得て頂ける様にした。
【課題・考察】
ターミナル期間中、体調等、特に大きな変化はみられなかったものの、徐々にADL低下を認め、最期約1カ月前は全介助になった。また足趾の状態が悪化した為、医師の判断により切除した。足趾切除後は時折、熱発される事もあったが、以前のように解熱せず、抗生剤を内服するようなことは無くなった。足趾切除の際はT様にも相当な苦痛をさせてしまったが、結果的には苦痛の緩和に繋がったと感じた。また、生活面としては最期までT様の生活リズムに合わせて介助などをする事ができた。
ターミナル期を視野に入れ、早期からご家族とコンタクトを密にとり、情報共有を行い、こまめな面会ができた事はT様とご家族の繋がりの継続性と職員との信頼関係を築くために有効であったと考えられる。T様の「家に帰りたい」という願いを叶えた事は、ご家族にとっても、有意義なイベントとなり、思い出作りになったと考える。
課題として今回はT様の意思表示がしっかりされていた為、意思をできる限り尊重できたが、T様の状態によって意思を確認できない場合もある。その為、日頃からご家族と密に関わり信頼関係を築くことが大切である。また今後は「エンディングノート」なども活用し、万が一の時でもその方の意思を尊重出来るようにしておくことも重要だと感じた。
【まとめ】
今回のターミナルケアではT様やご家族の気持ちを汲み取った良いケアを行う事ができた。また、ご家族の面会の回数も制限を緩和し、いつでも対面面会できるようにしたことで、出来る限りT様と過ごせる時間を作ることが出来た。
今後老健という立場上、ご利用者が同時にターミナル対象となる事も考えられる。そうなった場合でも今回の振り返りを活かし、その方一人一人に合った「あなたらしい当たり前の生活」を過ごし、苦痛の伴わない穏やかな最期を迎えられるよう多職種と連携しより良いケアを行っていきたい。
老健の役割の一つであるターミナルケアは「生きる為のケア」ではなく「どのような最期を迎えるか」という考え方が根本にあります。今回、生命の限界が近づいてきたT様とご家族の想いに寄り添いながら援助を行いました。T様が身体的、精神的な苦痛を感じることなく穏やかに、またご家族の気持ちを受け止めながら最期を迎えて頂く為にどのようなケアやサポートを行っていけば良いのか、今回の経験から学んだ事を報告させて頂きます。
【事例紹介】
T様 108歳 女性 要介護度1 HDS-R19点
既往歴:高血圧症、認知症、抹消循環障害 ADL:一部介助 車椅子自操可能
ターミナル期間:R5 3/24~10/8
T様の意向は昔から延命治療はしたくない。ご家族として、最期は自宅で看取りたいと希望があった。しかしT様の年齢によるADL低下と末梢循環障害による両足趾の壊死の処置は困難であり、少しでも痛みや苦痛が軽減できるのであればお願いしたいと施設でのターミナルケアが開始となった。
【経過】
足の壊死が進み、感染症をおこし高熱を繰り返した。徐々に食欲が低下し活気もなくなった為、ターミナル開始となった。抗生剤と下肢の処置を繰り返し行う事で、少しずつ感染症状が軽快していった。食事の摂取量は少なく全粥を数口程度食べられるのみであった。その為、量を調節し無理なく食事を食べて頂いた。ターミナル中盤頃より、足の状態が悪く医師の指示のもと、看護師をはじめ痛みの伴わない様慎重に処置を行った。大好きだった入浴では気分転換も込めて可能な範囲で湯船にも浸かって頂いた。
T様は動物が好きだったという事もあり、精神面に働きかけるようにアニマルセラピーとしてセラピー犬が来た際は居室まで出向いてもらい、直接触りお話しをして頂いた。昔お世話をしていた犬の話もして頂けてコミュニケーションのきっかけにもなった。
またT様の「家に帰りたい」という希望もあった為、体調をみて自宅に戻る機会を作りご家族との時間を楽しんで頂いた。
ターミナル終盤では、入床時間が多く褥瘡が出来ないよう臀部にワセリンを塗布した。また、清潔を維持できる様定期的にオムツ内チェックを心掛けた。しかし末梢循環障害ということもあり、体位交換時は痛みが生じてしまった為、体交がほとんど出来ずT様の安楽な姿勢を維持することを優先した結果、褥瘡を作ってしまった。
ご家族が来設された際は、T様の好きな食べ物を持参して頂き提供した。コロナ禍という事もあり面会の制限があったが、少しでもご家族と会える時間を増やしたいと思い、ターミナル時の面会について再検討し対策を万全に行うことで機会を増やすことが出来た。T様、ご家族と職員で密にコミュニケーションをとり、ご家族が帰宅された後も不安にならない様に定期的に訪室し声掛けを行った。また、在宅にて看取りたいというご家族の希望と家族と一緒に居たいというT様の希望に出来るだけ添えるよう居室にご家族の写真や家庭で育てた花を飾ったことでいつでも近くにいるような安心感を得て頂ける様にした。
【課題・考察】
ターミナル期間中、体調等、特に大きな変化はみられなかったものの、徐々にADL低下を認め、最期約1カ月前は全介助になった。また足趾の状態が悪化した為、医師の判断により切除した。足趾切除後は時折、熱発される事もあったが、以前のように解熱せず、抗生剤を内服するようなことは無くなった。足趾切除の際はT様にも相当な苦痛をさせてしまったが、結果的には苦痛の緩和に繋がったと感じた。また、生活面としては最期までT様の生活リズムに合わせて介助などをする事ができた。
ターミナル期を視野に入れ、早期からご家族とコンタクトを密にとり、情報共有を行い、こまめな面会ができた事はT様とご家族の繋がりの継続性と職員との信頼関係を築くために有効であったと考えられる。T様の「家に帰りたい」という願いを叶えた事は、ご家族にとっても、有意義なイベントとなり、思い出作りになったと考える。
課題として今回はT様の意思表示がしっかりされていた為、意思をできる限り尊重できたが、T様の状態によって意思を確認できない場合もある。その為、日頃からご家族と密に関わり信頼関係を築くことが大切である。また今後は「エンディングノート」なども活用し、万が一の時でもその方の意思を尊重出来るようにしておくことも重要だと感じた。
【まとめ】
今回のターミナルケアではT様やご家族の気持ちを汲み取った良いケアを行う事ができた。また、ご家族の面会の回数も制限を緩和し、いつでも対面面会できるようにしたことで、出来る限りT様と過ごせる時間を作ることが出来た。
今後老健という立場上、ご利用者が同時にターミナル対象となる事も考えられる。そうなった場合でも今回の振り返りを活かし、その方一人一人に合った「あなたらしい当たり前の生活」を過ごし、苦痛の伴わない穏やかな最期を迎えられるよう多職種と連携しより良いケアを行っていきたい。