講演情報
[14-O-C002-07]家族の思いに寄り添う看取りケアの向上を目指して
*酢谷 佳光1、酒井 美穂1、林 聡子1、外嵜 えり奈1 (1. 北海道 独立行政法人地域医療機能推進機構北海道病院附属介護老人保健施設)
夫婦一緒に入所し、その夫が施設で看取りとなったケースである。本人が望む「苦痛なく最期を迎えたい」、家族が望む「最期は夫婦2人で過ごしたい」という気持ちを重視したケアを行った。看取り後に、家族へ支援内容のアンケート調査や聞き取り調査の実施、フロア職員へ看取り後のデスカンファレンスを実施した。本人と家族の思いを尊重した対応を行い、良好な関係性を構築し思いに寄り添ったケアを行った事例を報告する。
【はじめに】
当施設は平成28年度より、看取り委員会を設置し、マニュアルの整備や職員教育のため研修会を行い、統一した対応ができるよう組織で取り組んできた。また、デスカンファレンスを導入し、看取りケアの充実を図りながら実践を行ってきた。今回、夫婦一緒に入所し、その夫が施設で看取りとなったケースがあった。コロナ禍で面会制限があり、本人と家族が一緒に過ごす時間は限られていたが、本人の望む「苦痛なく最期を迎えたい」、家族が望む「最期は夫婦2人で過ごしたい」という気持ちを重視したケアを行った。家族の思いに寄り添う看取りケアを今後も継続していくため、今回の事例を通じ明らかになった事を報告する。
【研究方法】
調査期間:202×年10月~202×年6月の8ヶ月間
対象者:A氏、90才代、男性
調査方法:経過記録から情報収集、看取り後、A氏の長女へ支援内容の振り返りアンケート調査、聞き取り調査をした。フロア職員へ看取り後のデスカンファンレスを実施した。
倫理的配慮:当院の倫理委員会の承認を得て、研究以外の目的には使用せず、アンケート用紙は終了後に破棄する事を紙面と口頭で説明し、同意を得た。
【結果】
A氏は、看取りケアに移行後、下肢の浮腫の出現があり利尿剤の内服を開始したため、トイレの回数が多くなり、息切れや疲労感が見られるようになった。歩行が不安定だったが、歩いてトイレに行きたいという本人の思いを尊重し、歩行器を使用し運動の機会を確保した。夜間帯もトイレでの排泄を望んでいたが、転倒リスクも考慮しポータブルトイレを使用する事で、一度も転倒なく過ごす事ができた。
食事摂取量の減少もあり、本人へ嗜好品の確認を行ったが、難聴で答えられないため、広告チラシや筆談を用いて確認し、長女に差し入れの提供を依頼した。食事量が少ない際は、差し入れを提供する事を職員間で共有し、食事量アップに繋げた。
衰弱の進行により苦痛表情が出現し、痛みや苦痛を和らげるために座薬の使用やタッチングケアを実践し、痛みの緩和を行った。「夫婦2人で過ごしてほしい」という長女の希望で居室変更はせずに対応を行い、看取り期の段階ごとに本人や長女へACPの確認を行いスタッフ間で共有するようにした。
臨終を迎えた時には、妻が夫の手を握り、妻に看取られながら逝去した。その際、妻から「お爺ちゃん頑張ったね。職員の皆さん、お世話になりました」と、混乱する様子なく気丈に振る舞っていた。
後日、長女へ家族の気持ちに寄り添えたケアを行えていたかを明確にするために、アンケートを実施した。
1. 看取りケアについて職員の対応は?の問いに「面会時や電話で本人の状況を説明し、寄り添った対応をしてくれた」
2. 居室環境や施設の設備はどうかの?問いに「職員が製作した写真パネルで思い出話が弾み、笑顔の時間がもてた」
3. 最期の迎え方について、事前に本人と話された事はあるか?の問いに「延命治療はせず、自然に最期を迎えたい。検査せずに苦痛を和らげ夫婦2人で過ごしたい」
4. 亡くなる前に、実現出来ず心残りはあるか?の問いに「施設や職員に不満は一切ない」
5. エンゼルケアを実践し、何か感じた事はあるか?の問いに「大事な腕時計を着用し見つけた時は涙が止まらなかった」との回答だった。
フロア職員間でのデスカンファレンスでは、良かった点として「妻と一緒の空間で最期を迎える事ができた」、改善点として「面会制限についての見直しが必要」という意見があった。
【考察】
長女より「最後は夫婦2人で過ごしたい」と希望があった。アンケート調査や聞き取り調査から、「本人のライフスタイルを尊重し、寄り添えて家族の時間を最大限作って下さり感謝している」という回答だった。亡くなる時は、妻に看取られ夫婦2人の最期の時間となり家族の意向に沿えた対応ができたと考える。長女と本人の思いを尊重した対応を行い、寄り添ったケアを行ったとしても、「本当の最期を看取れなかった事は心残りである」と後悔の言葉が聞かれた。水野1)は「QODの向上を目指し、本人や家族とコミュニケーションを深め、悔いのない最期を支援する事が重要。入所から最期を迎えるまで段階を経過されている。ステージが移行するたびに家族の意向を確認する事が重要である。家族の元々の意向を振り返りながら、利用者本人の希望を再確認するなどして、慎重に一歩一歩進めていく事が大切」と述べている。LIFULL介護パーソン・センタード・ケア2)では、「介護される本人の生い立ちや価値観、ライフスタイルなどを考慮しそれに見合ったケアを行う事で本来の姿を取り戻せるのでないか」と述べており、臨終の際の対応方法について詳しく説明を行い、長女の意向を確認する必要があったと考える。
今回、長女は臨終の際に立ち会う事ができなかった。危篤となった際、家族の希望を事前に確認する事や、看取りについての説明を丁寧に行い、最期が近づいた時は、家族へ連絡する基準など体制を見直していく事が必要と考える。また施設全体でACP推進のための人材育成を行っていく事が今後の課題である。
【終わりに】
施設で看取りケアを行う上で、最期を迎える際には利用者や家族が安心、安全、安楽で迎えられるよう、個々の思いに寄り沿う事が大切である。また、今後本人や家族が悔いのない最期を迎えられるように支援していきたい。
【引用文献】
1)介護と医療研究会著、「介護現場で使える看取りケア便利帖」、水野敬生監修、株式会社翔泳社、2017、P.19 P.36~37
2)LIFULL介護、パーソン・センタード・ケアとは、橋本将吉監修、2024年6月24日閲覧
http://kaigo.home.co.jp/manual/dementia/care/pcc/
当施設は平成28年度より、看取り委員会を設置し、マニュアルの整備や職員教育のため研修会を行い、統一した対応ができるよう組織で取り組んできた。また、デスカンファレンスを導入し、看取りケアの充実を図りながら実践を行ってきた。今回、夫婦一緒に入所し、その夫が施設で看取りとなったケースがあった。コロナ禍で面会制限があり、本人と家族が一緒に過ごす時間は限られていたが、本人の望む「苦痛なく最期を迎えたい」、家族が望む「最期は夫婦2人で過ごしたい」という気持ちを重視したケアを行った。家族の思いに寄り添う看取りケアを今後も継続していくため、今回の事例を通じ明らかになった事を報告する。
【研究方法】
調査期間:202×年10月~202×年6月の8ヶ月間
対象者:A氏、90才代、男性
調査方法:経過記録から情報収集、看取り後、A氏の長女へ支援内容の振り返りアンケート調査、聞き取り調査をした。フロア職員へ看取り後のデスカンファンレスを実施した。
倫理的配慮:当院の倫理委員会の承認を得て、研究以外の目的には使用せず、アンケート用紙は終了後に破棄する事を紙面と口頭で説明し、同意を得た。
【結果】
A氏は、看取りケアに移行後、下肢の浮腫の出現があり利尿剤の内服を開始したため、トイレの回数が多くなり、息切れや疲労感が見られるようになった。歩行が不安定だったが、歩いてトイレに行きたいという本人の思いを尊重し、歩行器を使用し運動の機会を確保した。夜間帯もトイレでの排泄を望んでいたが、転倒リスクも考慮しポータブルトイレを使用する事で、一度も転倒なく過ごす事ができた。
食事摂取量の減少もあり、本人へ嗜好品の確認を行ったが、難聴で答えられないため、広告チラシや筆談を用いて確認し、長女に差し入れの提供を依頼した。食事量が少ない際は、差し入れを提供する事を職員間で共有し、食事量アップに繋げた。
衰弱の進行により苦痛表情が出現し、痛みや苦痛を和らげるために座薬の使用やタッチングケアを実践し、痛みの緩和を行った。「夫婦2人で過ごしてほしい」という長女の希望で居室変更はせずに対応を行い、看取り期の段階ごとに本人や長女へACPの確認を行いスタッフ間で共有するようにした。
臨終を迎えた時には、妻が夫の手を握り、妻に看取られながら逝去した。その際、妻から「お爺ちゃん頑張ったね。職員の皆さん、お世話になりました」と、混乱する様子なく気丈に振る舞っていた。
後日、長女へ家族の気持ちに寄り添えたケアを行えていたかを明確にするために、アンケートを実施した。
1. 看取りケアについて職員の対応は?の問いに「面会時や電話で本人の状況を説明し、寄り添った対応をしてくれた」
2. 居室環境や施設の設備はどうかの?問いに「職員が製作した写真パネルで思い出話が弾み、笑顔の時間がもてた」
3. 最期の迎え方について、事前に本人と話された事はあるか?の問いに「延命治療はせず、自然に最期を迎えたい。検査せずに苦痛を和らげ夫婦2人で過ごしたい」
4. 亡くなる前に、実現出来ず心残りはあるか?の問いに「施設や職員に不満は一切ない」
5. エンゼルケアを実践し、何か感じた事はあるか?の問いに「大事な腕時計を着用し見つけた時は涙が止まらなかった」との回答だった。
フロア職員間でのデスカンファレンスでは、良かった点として「妻と一緒の空間で最期を迎える事ができた」、改善点として「面会制限についての見直しが必要」という意見があった。
【考察】
長女より「最後は夫婦2人で過ごしたい」と希望があった。アンケート調査や聞き取り調査から、「本人のライフスタイルを尊重し、寄り添えて家族の時間を最大限作って下さり感謝している」という回答だった。亡くなる時は、妻に看取られ夫婦2人の最期の時間となり家族の意向に沿えた対応ができたと考える。長女と本人の思いを尊重した対応を行い、寄り添ったケアを行ったとしても、「本当の最期を看取れなかった事は心残りである」と後悔の言葉が聞かれた。水野1)は「QODの向上を目指し、本人や家族とコミュニケーションを深め、悔いのない最期を支援する事が重要。入所から最期を迎えるまで段階を経過されている。ステージが移行するたびに家族の意向を確認する事が重要である。家族の元々の意向を振り返りながら、利用者本人の希望を再確認するなどして、慎重に一歩一歩進めていく事が大切」と述べている。LIFULL介護パーソン・センタード・ケア2)では、「介護される本人の生い立ちや価値観、ライフスタイルなどを考慮しそれに見合ったケアを行う事で本来の姿を取り戻せるのでないか」と述べており、臨終の際の対応方法について詳しく説明を行い、長女の意向を確認する必要があったと考える。
今回、長女は臨終の際に立ち会う事ができなかった。危篤となった際、家族の希望を事前に確認する事や、看取りについての説明を丁寧に行い、最期が近づいた時は、家族へ連絡する基準など体制を見直していく事が必要と考える。また施設全体でACP推進のための人材育成を行っていく事が今後の課題である。
【終わりに】
施設で看取りケアを行う上で、最期を迎える際には利用者や家族が安心、安全、安楽で迎えられるよう、個々の思いに寄り沿う事が大切である。また、今後本人や家族が悔いのない最期を迎えられるように支援していきたい。
【引用文献】
1)介護と医療研究会著、「介護現場で使える看取りケア便利帖」、水野敬生監修、株式会社翔泳社、2017、P.19 P.36~37
2)LIFULL介護、パーソン・センタード・ケアとは、橋本将吉監修、2024年6月24日閲覧
http://kaigo.home.co.jp/manual/dementia/care/pcc/