講演情報
[14-O-C003-01]「食べる楽しみ」だけでない食支援看取り期における管理栄養士の取り組み
*志田 香代1、工藤 堅太郎1、阿部 裕太郎1、牛抱 祐太1、高橋 洋之1、山崎 洋子1 (1. 岩手県 介護老人保健施設アルテンハイム青山)
看取り期で食欲低下している利用者に対し、食支援を通じて本人の思いに触れることができた取り組みを報告する。管理栄養士が中心となり家族が希望する思い出のりんごを継続的に提供した。その結果、本人に良い変化が表れ、食は思い出に直結する強いツールであると再認識した。看取り期における食支援は、「食べる楽しみ」だけでなく、本人や家族の思いを支える力になると実感した。
【はじめに】
看取り期では、身体変化に伴い食べること自体が苦痛になっていく。その反面、家族は「最期に好きなものを食べさせてあげたい」という気持ちが募る傾向にある。看取り期で食欲低下している利用者に対し家族の「食べさせたい」という思いから、食支援を通じて本人の思いに触れることができた取り組みを報告する。
【事例紹介】
A様 80歳代、男性、要介護3
《既往歴》糖尿病、高血圧症、脳梗塞後遺症(左片麻痺)、膀胱癌(膀胱留置カテーテル)
《概要》約11年前から、当施設の介護サービス(通所リハ、ショートステイ、施設入所)を利用されている。X年12月施設入所。嚥下障害あり。食事は全粥、副食ミキサー(嚥下調整食2-2)、3食補食ゼリーを提供。自力で全量摂取していた。X+1年1月、発熱あり、尿路感染症と診断される。解熱後も体調回復せず、ADL低下。1日の摂取量は介助で補食ゼリー1個未満まで減少した。X+1年2月、看取りケア開始となる。食に対して利用者からの希望はなし。家族から「自宅では毎日親戚が作ったりんごをすりおろして食べていた。そのりんごを食べさせたい」と希望あり。家で食べていたりんごの提供を実践することにした。
【方法】
1,提供時間 15:00
2,家族からお預かりしたりんご1/4個を厨房ですりおろし、管理栄養士が居室へ持参する。
3,食介助はSTが行う。
【経過】
《1日目》管理栄養士が訪室し「りんごを食べませんか」と話しかけるが、利用者は「いらない」と返答。そこで切る前のりんごを見せ、自宅で毎日食べていた親戚のりんごであることを伝えると、「え!本当か!」と目を輝かせ、りんごにまつわるエピソードを話される。その後、STの介助ですりおろしたりんごを3口摂取される。食介助中、口を開けて待つような仕草から本人の「食べたい」という気持ちが表れていた。より美味しく食べていただくため提供方法へ変更した。また、利用者がいつでも「思い出のりんご」を見られるよう、床頭台にもりんごを置くことにした。
【提供方法の変更】
1,提供時間 14:30(職員が集まりやすい時間へ変更)
2,りんご1/4個を管理栄養士が本人の目の前ですりおろす。
3,食介助はSTが行う。ST不在時には看護師、介護士に依頼する。
《2日目以降》利用者に変化が表れる。(1)前向きな発言。管理栄養士が訪室すると「もうそんな時間か、早いな~」と笑顔になり、他の職員が集まるまでの間「楽しみだな~」「待ち遠しいな~」等と話される。訪室時に機嫌が悪い時もあったが、会話をしているうちに機嫌が直り、りんごを拒否することは一度もなかった。(2)りんご摂取量増加。1回に1/8~1/4個摂取。食器に残った果汁まで飲むこともあった。むせや痰がらみなく摂取することが増えた。(3)食への興味回復。摂取量は増えないものの、食事の際に「それは何?一口食べてみようかな」という発言がみられるようになった。これらの状況は連絡ノートで家族へ伝えた。
【考察】
良い変化が表れた要因として、(1)「思い出のりんご」を食べることができた喜び、(2)「食」をツールとして利用者が人生を振り返り思いを語る機会が増えたことが考えられる。看取り期だからこそ、実際に食べることだけに拘らず、本人の思いに触れるケアが大切である。今回は、本人が長い期間当施設を利用されていたため、本人と職員だけでなく、家族と職員もコミュニケーションをとれていた。このことも良い結果に繋がったと思われる。
【まとめ】
取り組む前は「りんごをすりおろすだけ。こんなことしかできないのか…」という思いだったため、利用者にここまで喜ばれるとは想像できなかった。また利用者の変化は家族にも「最期にしてあげられた」という思いに繋がったようだった。改めて食は思い出に直結する強いツールであると感じた。看取り期における食支援は「食べる楽しみ」だけでなく、実際は食べられないとしても、本人や家族の思いを支える力になると実感した。これからも最期の時まで本人や家族の思いを支える力になりたいと思う。
看取り期では、身体変化に伴い食べること自体が苦痛になっていく。その反面、家族は「最期に好きなものを食べさせてあげたい」という気持ちが募る傾向にある。看取り期で食欲低下している利用者に対し家族の「食べさせたい」という思いから、食支援を通じて本人の思いに触れることができた取り組みを報告する。
【事例紹介】
A様 80歳代、男性、要介護3
《既往歴》糖尿病、高血圧症、脳梗塞後遺症(左片麻痺)、膀胱癌(膀胱留置カテーテル)
《概要》約11年前から、当施設の介護サービス(通所リハ、ショートステイ、施設入所)を利用されている。X年12月施設入所。嚥下障害あり。食事は全粥、副食ミキサー(嚥下調整食2-2)、3食補食ゼリーを提供。自力で全量摂取していた。X+1年1月、発熱あり、尿路感染症と診断される。解熱後も体調回復せず、ADL低下。1日の摂取量は介助で補食ゼリー1個未満まで減少した。X+1年2月、看取りケア開始となる。食に対して利用者からの希望はなし。家族から「自宅では毎日親戚が作ったりんごをすりおろして食べていた。そのりんごを食べさせたい」と希望あり。家で食べていたりんごの提供を実践することにした。
【方法】
1,提供時間 15:00
2,家族からお預かりしたりんご1/4個を厨房ですりおろし、管理栄養士が居室へ持参する。
3,食介助はSTが行う。
【経過】
《1日目》管理栄養士が訪室し「りんごを食べませんか」と話しかけるが、利用者は「いらない」と返答。そこで切る前のりんごを見せ、自宅で毎日食べていた親戚のりんごであることを伝えると、「え!本当か!」と目を輝かせ、りんごにまつわるエピソードを話される。その後、STの介助ですりおろしたりんごを3口摂取される。食介助中、口を開けて待つような仕草から本人の「食べたい」という気持ちが表れていた。より美味しく食べていただくため提供方法へ変更した。また、利用者がいつでも「思い出のりんご」を見られるよう、床頭台にもりんごを置くことにした。
【提供方法の変更】
1,提供時間 14:30(職員が集まりやすい時間へ変更)
2,りんご1/4個を管理栄養士が本人の目の前ですりおろす。
3,食介助はSTが行う。ST不在時には看護師、介護士に依頼する。
《2日目以降》利用者に変化が表れる。(1)前向きな発言。管理栄養士が訪室すると「もうそんな時間か、早いな~」と笑顔になり、他の職員が集まるまでの間「楽しみだな~」「待ち遠しいな~」等と話される。訪室時に機嫌が悪い時もあったが、会話をしているうちに機嫌が直り、りんごを拒否することは一度もなかった。(2)りんご摂取量増加。1回に1/8~1/4個摂取。食器に残った果汁まで飲むこともあった。むせや痰がらみなく摂取することが増えた。(3)食への興味回復。摂取量は増えないものの、食事の際に「それは何?一口食べてみようかな」という発言がみられるようになった。これらの状況は連絡ノートで家族へ伝えた。
【考察】
良い変化が表れた要因として、(1)「思い出のりんご」を食べることができた喜び、(2)「食」をツールとして利用者が人生を振り返り思いを語る機会が増えたことが考えられる。看取り期だからこそ、実際に食べることだけに拘らず、本人の思いに触れるケアが大切である。今回は、本人が長い期間当施設を利用されていたため、本人と職員だけでなく、家族と職員もコミュニケーションをとれていた。このことも良い結果に繋がったと思われる。
【まとめ】
取り組む前は「りんごをすりおろすだけ。こんなことしかできないのか…」という思いだったため、利用者にここまで喜ばれるとは想像できなかった。また利用者の変化は家族にも「最期にしてあげられた」という思いに繋がったようだった。改めて食は思い出に直結する強いツールであると感じた。看取り期における食支援は「食べる楽しみ」だけでなく、実際は食べられないとしても、本人や家族の思いを支える力になると実感した。これからも最期の時まで本人や家族の思いを支える力になりたいと思う。