講演情報
[14-O-C003-02]PNIは看取りの予後マーカーとなりうるか
*伊藤 元博1、花田 幸代1、田口 広子1 (1. 岐阜県 老人保健施設花トピア可児)
Prognostic nutritional index(PNI)は、血液検査から栄養状態と免疫能を評価できる免疫栄養学的指標である。当施設で経験した過去1年の看取り患者32例の生命予後予測尺度として、PNIを検討したので報告する。余命3週間以内ではPPS(palliative prognostic score)は感度、PPI(palliative prognostic index)は陽性的中率、余命6週間以内ではPNI<30が優れていた。PNIは生命予後予測尺度になりうると考えられた。
【はじめに】
生命予後の予測は、患者の意向を反映した治療を選択するうえで重要である。Prognostic nutritional index(PNI)は、血液検査から栄養状態と免疫能を評価できる免疫栄養学的指標である。今回我々は、当施設で経験した看取り患者32例の生命予後予測尺度として、PNIを検討したので報告する。
【対象及び方法】
2023年4月から2024年3月までに当施設で経験した看取り患者32例を対象とした。方法は、看取りの同意時期、看取り開始から死亡までの期間、体重、BMI(体格指数)、看取り開始前のPPS(palliative prognostic score)、PPI(palliative prognostic index)、PNIと予後について検討を行った。PNIは小野寺らに従い、PNI=10×血清アルブミン値(g/dL)+0.005×末梢血中リンパ球数(/μL)で算出した。群間の比較はt検定で行い、統計学的有意水準はp<0.05とした。
【結果】
1)看取り患者32例の性別は男性10例、女性22例、年齢中央値91(74~101)歳。死亡原因は老衰・廃用症候群20例(62.5%)、肺炎6例(18.8%)、心不全急性増悪5例(15.6%)、脳出血1例(3.1%)であった。認知症は30例(93.8%)に認め、補液は22例(68.8%)に施行した。
2)看取りの同意時期(日)
看取りの同意時期は31.5±81.9日であり、3~4年と長く入所している患者が多いためSD値の幅が大きかった。
3)看取り開始から死亡までの期間
看取り開始から死亡までの期間は13.0±19.3日であった。
4)終末期前後のBMIの推移
死亡3か月前、2か月前、1か月前のBMIは17.5±2.6、16.8±2.6、16.7±2.6で、死亡3か月前と2か月前、死亡3か月前と1か月前に有意差を認めた。
5)看取り開始前のPPS、PPI、PNIについて
看取り開始前のPPS、PPI、PNIは12.0±3.3、6.5±2.2、27.1±5.5であり、PNIが30未満の症例でも予後が1か月以上の症例も認め、その全例が老衰で死亡していた。余命3週間以内でPPS≧9の感度、特異度、陽性的中率、陰性的中率は90.9、50.0、80.0、71.4で、PPI≧6.5は72.7、70.0、84.2、53.8で、PNI<30は68.8、11.1、57.9、14.3であった。余命6週間以内の生命予後予測尺度はPNI<30症例では感度、陽性的中率は72.2、84.2であった。
【考察】
わが国において、2020年1月15日に最初の新型コロナ感染症が確認された。以後新型コロナ感染症のパンデミックが始まり4年目に入った。医療・介護現場は感染予防対策が続いており、家族の面談は感染リスクがあり、面会制限が行われている施設が依然として多い。家族、近親者との死別の悲嘆は大きく、老健入所者の看取り患者の死亡予測が重要となってきている。看取りの同意時期が1か月以内症例は急速に老衰症状が進行し、2か月前症例ではBMIが直前に低下していた。余命3週間以内では生命予後予測尺度としてPPSが感度、PPIは陽性的中率で優れていた。一方で栄養指標の一つであるPNIは、消化器悪性腫瘍における術前の栄養状態から手術危険度を判定する目的で考案された。小野寺らはPNIが40未満であることが消化管吻合後の縫合不全の高リスクであるとして報告している。そしてPNI40~45は危険・注意域、40未満は切除・吻合禁忌域としている。近年、社会の高齢化とともに高齢者にも積極的に手術を行う機会が増加しているが、高齢者では若年者に比べて末梢血リンパ球数は変わらないが、血中アルブミン値は加齢とともに低下することが知られており、高齢者では若年者に比べてPNIも低値であることが報告されている。当施設での看取り患者の年齢中央値は91歳で、PNIは46.2-0.071×年齢で39.8となる。余命6週間以内の生命予後予測尺度としてPNI<30が有用であると考えられた。
【結語】
「老健で最後まで看取り、家に帰す、これも形を変えた在宅復帰支援である」と我々は考えている。高齢者ではPNI は低くなっているものの、当施設では、PNI<30の場合は余命6週間以内、PPI≧6.5の場合は余命3週間以内と考え、看取りを開始している。PNIは生命予後予測尺度になりうると考えられた。
生命予後の予測は、患者の意向を反映した治療を選択するうえで重要である。Prognostic nutritional index(PNI)は、血液検査から栄養状態と免疫能を評価できる免疫栄養学的指標である。今回我々は、当施設で経験した看取り患者32例の生命予後予測尺度として、PNIを検討したので報告する。
【対象及び方法】
2023年4月から2024年3月までに当施設で経験した看取り患者32例を対象とした。方法は、看取りの同意時期、看取り開始から死亡までの期間、体重、BMI(体格指数)、看取り開始前のPPS(palliative prognostic score)、PPI(palliative prognostic index)、PNIと予後について検討を行った。PNIは小野寺らに従い、PNI=10×血清アルブミン値(g/dL)+0.005×末梢血中リンパ球数(/μL)で算出した。群間の比較はt検定で行い、統計学的有意水準はp<0.05とした。
【結果】
1)看取り患者32例の性別は男性10例、女性22例、年齢中央値91(74~101)歳。死亡原因は老衰・廃用症候群20例(62.5%)、肺炎6例(18.8%)、心不全急性増悪5例(15.6%)、脳出血1例(3.1%)であった。認知症は30例(93.8%)に認め、補液は22例(68.8%)に施行した。
2)看取りの同意時期(日)
看取りの同意時期は31.5±81.9日であり、3~4年と長く入所している患者が多いためSD値の幅が大きかった。
3)看取り開始から死亡までの期間
看取り開始から死亡までの期間は13.0±19.3日であった。
4)終末期前後のBMIの推移
死亡3か月前、2か月前、1か月前のBMIは17.5±2.6、16.8±2.6、16.7±2.6で、死亡3か月前と2か月前、死亡3か月前と1か月前に有意差を認めた。
5)看取り開始前のPPS、PPI、PNIについて
看取り開始前のPPS、PPI、PNIは12.0±3.3、6.5±2.2、27.1±5.5であり、PNIが30未満の症例でも予後が1か月以上の症例も認め、その全例が老衰で死亡していた。余命3週間以内でPPS≧9の感度、特異度、陽性的中率、陰性的中率は90.9、50.0、80.0、71.4で、PPI≧6.5は72.7、70.0、84.2、53.8で、PNI<30は68.8、11.1、57.9、14.3であった。余命6週間以内の生命予後予測尺度はPNI<30症例では感度、陽性的中率は72.2、84.2であった。
【考察】
わが国において、2020年1月15日に最初の新型コロナ感染症が確認された。以後新型コロナ感染症のパンデミックが始まり4年目に入った。医療・介護現場は感染予防対策が続いており、家族の面談は感染リスクがあり、面会制限が行われている施設が依然として多い。家族、近親者との死別の悲嘆は大きく、老健入所者の看取り患者の死亡予測が重要となってきている。看取りの同意時期が1か月以内症例は急速に老衰症状が進行し、2か月前症例ではBMIが直前に低下していた。余命3週間以内では生命予後予測尺度としてPPSが感度、PPIは陽性的中率で優れていた。一方で栄養指標の一つであるPNIは、消化器悪性腫瘍における術前の栄養状態から手術危険度を判定する目的で考案された。小野寺らはPNIが40未満であることが消化管吻合後の縫合不全の高リスクであるとして報告している。そしてPNI40~45は危険・注意域、40未満は切除・吻合禁忌域としている。近年、社会の高齢化とともに高齢者にも積極的に手術を行う機会が増加しているが、高齢者では若年者に比べて末梢血リンパ球数は変わらないが、血中アルブミン値は加齢とともに低下することが知られており、高齢者では若年者に比べてPNIも低値であることが報告されている。当施設での看取り患者の年齢中央値は91歳で、PNIは46.2-0.071×年齢で39.8となる。余命6週間以内の生命予後予測尺度としてPNI<30が有用であると考えられた。
【結語】
「老健で最後まで看取り、家に帰す、これも形を変えた在宅復帰支援である」と我々は考えている。高齢者ではPNI は低くなっているものの、当施設では、PNI<30の場合は余命6週間以内、PPI≧6.5の場合は余命3週間以内と考え、看取りを開始している。PNIは生命予後予測尺度になりうると考えられた。