講演情報
[14-O-C003-03]本人の思いを看取りケアに反映させる取り組み~エンディングノート【私ノート】を使用して~
*武下 成樹1、松本 高1 (1. 鳥取県 介護老人保健施設さかい幸朋苑)
老健の特性上、在宅復帰を目指した利用者が多く、日常生活場面で死に対するネガティブ感情や聴取するタイミングの難しさから、死について話をする機会がもてず、人生の最期に対する利用者本人の意思や希望を十分汲み取れていない現状がある。今回、エンディングノートを独自に作成し、そこから人生の最終段階における医療やケアに対する意思や希望、価値観など利用者の思いを汲みとる取り組みを試みたので報告する。
【はじめに】
老健入居目的として在宅復帰を目指した利用者が多く、延命治療希望や、最期を迎えたい場所、どのように最期を迎えたいかなどを具体的に考えている利用者、家族は多くない。昨今、アドバンス・ケア・プランニング(以下ACP)が推奨される中、死に対する日本人特有のネガティブ感情や聴取するタイミングの難しさなどから、利用者自身の最期の迎え方について、十分に本人の意思や希望を汲むことができていない現状がある。今回、当施設で作成した独自のエンディングノートの記入を通して、人生の最終段階における医療やケアに対する意思や希望、価値観などを知り、そこから知れる利用者の思いを汲みとる取り組みを試みたので報告する。
【研究方法】
1.期間:2023年11月30日~12月20日
2.対象:意思疎通が可能で同意を得られた者19名。年齢71~102歳(平均年齢87.6歳)。男性7名、女性12名。対象者19名のうち認知症の診断がある者は4名(4名の長谷川式簡易知能評価スケール3~21点)
倫理的配慮として、利用者本人に対して研究の主旨を説明し同意を得た。
3.方法
1.鳥取県看護協会鳥取県訪問看護支援センター発行のパンフレットを参考に、当施設で作成した、心臓マッサージや人工呼吸、胃瘻造設や中心静脈栄養などの延命治療希望の有無と、死ぬまでにしたいことリストを書き込む、独自のエンディングノート【私ノート】(以下:私ノート)を用いた。
2.対象者2~4名でグループを作り、研究者が延命治療やACPについて説明をした後、私ノートを一緒に書き込むワークショップ(以下WS)を「人生会議」と称して実施。書字可能な者には自身で記入してもらい、書字が困難な者は返答内容を職員がノートに代筆し、代筆者として記名した。WSは1回30~60分程度実施し、その間、利用者同士でも自由に話をしてもらった。
3.私ノートに記入された内容の分析を行った。
【結果】
1.延命治療希望に関する意思表示について
・心臓マッサージや人工呼吸、胃瘻造設や中心静脈栄養といった延命治療に関する内容について、全員が延命治療の希望の有無について意思表示をしており、わからないと答えた者はいなかった。
・心臓マッサージ、人工呼吸希望ありは2名、胃瘻造設や中心静脈栄養を希望した者はいなかった。
・延命治療を望まない者の理由は、「もう十分長生きしたのでよい」「えらいことはしたくない」などで、延命治療を希望した者の理由は「100歳まで生きたい」「ダイヤモンド婚をするまで死ねない」などだった。
2.「死ぬまでにしたいことリスト」に関する意思表示について
・したいことがあると意思表示した者は16名。その内容は「作品展がしたい」「ラーメンが食べたい」「お酒が飲みたい」など、施設での日常生活でも実施可能な内容が15名。「元気なうちに家に帰りたい」「墓参りに行きたい」など、家族等の協力があれば可能な内容が8名。「死んだ母親に会いたい」「麻痺で動かなくなった手で編み物がもう一度したい」など、実現困難な内容が4名だった。
・したいことリストに記入しなかった者は3名で、理由は「もう十分やったのでしたいことはない」「やりたいと思うことはない」「思いつかない」などであった。また、最初は「ない」と言っていた者も、やり取りの中で他者の意見を聞いて「ある」と意思表示をした者もいた。
【考察】
私たち職員が、死をネガティブなものとして捉え、延命治療やどういう人生の終末を迎えたいかなどの「死」に関する話題を避けがちなのに対し、本研究の対象となった高齢の利用者の多くは、延命治療を望んでおらず、心身の老化や社会的な喪失などを受容し、自身のそれに向き合って意思を決めている様子もうかがえた。死や看取りは日常生活の延長線上にあると捉えられているが、「死ぬまでにしたいこと」について「すぐにでもできる」内容が多くみられることからも、利用者は自身の老いや死を見据えて日常生活を過ごしており、私たち職員はそれを理解し、必要に応じて家族にも協力を得ながら、利用者の希望を可能な限り叶えることで、いずれ迎える最期の日までの充実した日常が送れるよう支援していく必要がある。
【本研究の限界と今後の課題】
本研究は、意思疎通可能で同意を得られた者を対象としており、意思疎通困難や、認知機能低下により意思表示や判断が困難な者の意思や希望を把握することはこの方法では実施困難である。今回の調査で知った利用者の意思や希望、気持ちを、本人・家族、多職種で定期的に確認し、必要変化に対応しながら終末を迎えるその時に【私ノート】に書かれた思いを医療やケアに反映し、実践していくことが求められる。
【まとめ】
・当施設の独自のエンディングノート【私ノート】の使用に同意した利用者は、自身の延命治療などの医療意向についてすべてのものが意思表明をしていた。
・「死ぬまでにしたいこと」があるものは84%おり、何らかの方法で実現可能な内容が多かった。
・【私ノート】を使用して利用者自身の終末期に関する話をする機会をもつことは、職員が利用者のその意思や希望を知る一助となった。
老健入居目的として在宅復帰を目指した利用者が多く、延命治療希望や、最期を迎えたい場所、どのように最期を迎えたいかなどを具体的に考えている利用者、家族は多くない。昨今、アドバンス・ケア・プランニング(以下ACP)が推奨される中、死に対する日本人特有のネガティブ感情や聴取するタイミングの難しさなどから、利用者自身の最期の迎え方について、十分に本人の意思や希望を汲むことができていない現状がある。今回、当施設で作成した独自のエンディングノートの記入を通して、人生の最終段階における医療やケアに対する意思や希望、価値観などを知り、そこから知れる利用者の思いを汲みとる取り組みを試みたので報告する。
【研究方法】
1.期間:2023年11月30日~12月20日
2.対象:意思疎通が可能で同意を得られた者19名。年齢71~102歳(平均年齢87.6歳)。男性7名、女性12名。対象者19名のうち認知症の診断がある者は4名(4名の長谷川式簡易知能評価スケール3~21点)
倫理的配慮として、利用者本人に対して研究の主旨を説明し同意を得た。
3.方法
1.鳥取県看護協会鳥取県訪問看護支援センター発行のパンフレットを参考に、当施設で作成した、心臓マッサージや人工呼吸、胃瘻造設や中心静脈栄養などの延命治療希望の有無と、死ぬまでにしたいことリストを書き込む、独自のエンディングノート【私ノート】(以下:私ノート)を用いた。
2.対象者2~4名でグループを作り、研究者が延命治療やACPについて説明をした後、私ノートを一緒に書き込むワークショップ(以下WS)を「人生会議」と称して実施。書字可能な者には自身で記入してもらい、書字が困難な者は返答内容を職員がノートに代筆し、代筆者として記名した。WSは1回30~60分程度実施し、その間、利用者同士でも自由に話をしてもらった。
3.私ノートに記入された内容の分析を行った。
【結果】
1.延命治療希望に関する意思表示について
・心臓マッサージや人工呼吸、胃瘻造設や中心静脈栄養といった延命治療に関する内容について、全員が延命治療の希望の有無について意思表示をしており、わからないと答えた者はいなかった。
・心臓マッサージ、人工呼吸希望ありは2名、胃瘻造設や中心静脈栄養を希望した者はいなかった。
・延命治療を望まない者の理由は、「もう十分長生きしたのでよい」「えらいことはしたくない」などで、延命治療を希望した者の理由は「100歳まで生きたい」「ダイヤモンド婚をするまで死ねない」などだった。
2.「死ぬまでにしたいことリスト」に関する意思表示について
・したいことがあると意思表示した者は16名。その内容は「作品展がしたい」「ラーメンが食べたい」「お酒が飲みたい」など、施設での日常生活でも実施可能な内容が15名。「元気なうちに家に帰りたい」「墓参りに行きたい」など、家族等の協力があれば可能な内容が8名。「死んだ母親に会いたい」「麻痺で動かなくなった手で編み物がもう一度したい」など、実現困難な内容が4名だった。
・したいことリストに記入しなかった者は3名で、理由は「もう十分やったのでしたいことはない」「やりたいと思うことはない」「思いつかない」などであった。また、最初は「ない」と言っていた者も、やり取りの中で他者の意見を聞いて「ある」と意思表示をした者もいた。
【考察】
私たち職員が、死をネガティブなものとして捉え、延命治療やどういう人生の終末を迎えたいかなどの「死」に関する話題を避けがちなのに対し、本研究の対象となった高齢の利用者の多くは、延命治療を望んでおらず、心身の老化や社会的な喪失などを受容し、自身のそれに向き合って意思を決めている様子もうかがえた。死や看取りは日常生活の延長線上にあると捉えられているが、「死ぬまでにしたいこと」について「すぐにでもできる」内容が多くみられることからも、利用者は自身の老いや死を見据えて日常生活を過ごしており、私たち職員はそれを理解し、必要に応じて家族にも協力を得ながら、利用者の希望を可能な限り叶えることで、いずれ迎える最期の日までの充実した日常が送れるよう支援していく必要がある。
【本研究の限界と今後の課題】
本研究は、意思疎通可能で同意を得られた者を対象としており、意思疎通困難や、認知機能低下により意思表示や判断が困難な者の意思や希望を把握することはこの方法では実施困難である。今回の調査で知った利用者の意思や希望、気持ちを、本人・家族、多職種で定期的に確認し、必要変化に対応しながら終末を迎えるその時に【私ノート】に書かれた思いを医療やケアに反映し、実践していくことが求められる。
【まとめ】
・当施設の独自のエンディングノート【私ノート】の使用に同意した利用者は、自身の延命治療などの医療意向についてすべてのものが意思表明をしていた。
・「死ぬまでにしたいこと」があるものは84%おり、何らかの方法で実現可能な内容が多かった。
・【私ノート】を使用して利用者自身の終末期に関する話をする機会をもつことは、職員が利用者のその意思や希望を知る一助となった。