講演情報
[14-O-C003-06]コロナ禍における看取りケア~最期まで夫婦一緒に~
*大井 実佳1、市川 智美1 (1. 東京都 介護老人保健施設イマジン)
新型コロナウイルス感染症の影響が残る中、看取りを行う際に「感染対策」と「利用者・家族の思いや願い」の両立は難しいと思われる。今回夫婦で入所された方の看取りにおいて、妻の夫に寄り添い死を受け入れようとする姿と、夫の残していく妻への思いや優しさに共感し、家族の協力も得ながら多職種一丸となり柔軟に看取り対応を行い、夫婦の思いに応えることができた事例について報告する。
【はじめに】2019年末より始まった新型コロナウイルス感染症の影響で、高齢者施設では面会や外出が制限され家族との関わりが少なくなってきた。感染症5類となった現在も依然として色濃く影響が残っており、コロナ禍以前の日常は取り戻せていない。そんな中で、同時期・同フロアに入所されたご夫婦の妻が、夫の最期のステージを共に過ごし、看取りを行うためにフロア職員全体で取り組んできたことを報告する。
【対象者】80歳台男性、要介護1
既往歴:高血圧、糖尿病、心房細動、脳梗塞による軽度右不全片麻痺あり
ADL:自立
食事:ミキサー食、自力摂取可能
性格:遠慮がちで、新聞やテレビ好き
【経過・対応】ケースは肺炎後の廃用症候群の為2023年2月に当施設へ入所される。その後妻も同月に転倒後の坐骨骨折後の廃用症候群の為入所される。入所後ご夫婦は食後や就寝前に会話し、リハビリも一緒に実施するなど、仲睦まじい姿が見受けられた。
2024年に入り心不全の憎悪の為か臥床する時間が増えていった。2024年2月に入り食欲低下、ADLの低下が顕著となり、意識の低下もみられた。奥様も夫の体調悪化を心配され職員に容体を尋ねることも増え、医師からの説明を受けたご家族が、入院はせず奥様がいる当施設での看取りを希望された。
その後奥様が「夫の顔が見たい」と希望され、違う居室でありながらも面会が出来るよう配慮し、二人の嬉しそうな会話や表情を目の当たりにすることができた。この時から職員間でできるだけ夫婦一緒の時間を作れるよう検討、実施していった。
調子の良い時は食堂へご案内し、介助にて食事を可能な限り召し上がり、奥様がそばへ来られ会話される際はいつもより多弁な様子であった。「こんな顔を見せるのは嫌だなぁ、妻の前ではかっこいい自分でいたい」と微笑ましい会話をすることもあった。
看取り対応を希望された日、更に容態が低下され、いつでもご家族・奥様と会うことが可能な個室へ、本人了承のもと移動となる。自由に会える環境になってからも、奥様をお連れするかと尋ねた際に「会うと心配するから」と奥様を気遣う様子が見られた。体調が日々大きく変化する事もあったが、体調の良い時を見計らい、ベッド上でTVを見ながら奥様と談笑する時間も作ることができた。
亡くなる当日午前に看護師が何か食べたいもの、飲みたいものはあるかと尋ねると、「男だから、やっぱりあれが飲みたいよ」とジェスチャーでお酒を飲む動作をされ、ビールを希望される。そこで看護師が介護士やリハビリスタッフに相談し、医師に許可を取り、家族の協力のもとノンアルコールビールを持参して頂いた。リハビリスタッフがベッド上の体勢やビールのトロミを調整し、奥様、息子様・弟夫婦・職員に見守られながら、ご自分でコップを持ち2/3程飲まれる。また、ケースが好きなおせんべいを持参されていたため、なめる程度ならと1枚本人に持たせると歯肉で割って口に含み、嚥下を心配した職員にダメと言われ笑いながら吐き出された。久しぶりに見る活気のあるステキな笑顔であった。その日は体調も優れ午後には本人希望により機械浴を実施する事も出来た。また、ご家族様より「一緒の場所にいるので最期の時は夜中でも奥様と会わせて欲しい。」と希望を述べられた。
同日19時頃バイタルが不安定となり、奥様を居室へお連れすると、夫の手をさすりながら「お父さん頑張って」など声をかけられていたが、20分後奥様に見守られながら永眠された。その後もしばらくお二人だけで過ごしていただいた。
また、奥様は翌朝のご出棺に立ち会われ、「ありがとう。あなたと一緒になれてよかったです」と涙を流された。
【考察】コロナ感染対策は看取りの現場に大きな影響を及ぼし、「感染対策」と「利用者・家族の思いや願い」を両立する事は難しいと思われ、ケースや家族が満足し、後悔のない看取りが出来るのか不安さえ感じていた。
しかし、徐々に衰弱していく夫に寄り添い、死を受け入れようとしている妻、また夫の残していく妻への思いや優しさに共感し、夫婦の尊厳を守る看取りを考え、職員一同で話し合いの場を設け、制限ある現状の中、形に捉われず柔軟に今できる事を実践していこうと意識統一を図っていった。
また、個室の利用での空間や時間を共有することで、最後まで妻としての役割も全うできたのではないかと思う。ご家族には可能な範囲で面会回数を増やし時間を延長し、家族の協力を求めケースの希望を叶えられたことは、後の家族の悲しみを和らげる事が出来たと信じている。
【おわりに】今後多死社会へと移行していく中で、施設での看取りも増えていくと思われる。「最期は幸せでいたい」と思う人間としての尊厳を守る為にも、どんな時代の変化、価値感の多様化にも順応して行けるよう模索を続けることが大切である。そのためにも看取りが始まる前から、ご本人、ご家族の思いや気持ちを汲み取り信頼関係を構築し、それぞれの職種の専門性を理解しあい、多職種が連携し最期の環境を整え、より良い看取りに繋げていきたい。
【対象者】80歳台男性、要介護1
既往歴:高血圧、糖尿病、心房細動、脳梗塞による軽度右不全片麻痺あり
ADL:自立
食事:ミキサー食、自力摂取可能
性格:遠慮がちで、新聞やテレビ好き
【経過・対応】ケースは肺炎後の廃用症候群の為2023年2月に当施設へ入所される。その後妻も同月に転倒後の坐骨骨折後の廃用症候群の為入所される。入所後ご夫婦は食後や就寝前に会話し、リハビリも一緒に実施するなど、仲睦まじい姿が見受けられた。
2024年に入り心不全の憎悪の為か臥床する時間が増えていった。2024年2月に入り食欲低下、ADLの低下が顕著となり、意識の低下もみられた。奥様も夫の体調悪化を心配され職員に容体を尋ねることも増え、医師からの説明を受けたご家族が、入院はせず奥様がいる当施設での看取りを希望された。
その後奥様が「夫の顔が見たい」と希望され、違う居室でありながらも面会が出来るよう配慮し、二人の嬉しそうな会話や表情を目の当たりにすることができた。この時から職員間でできるだけ夫婦一緒の時間を作れるよう検討、実施していった。
調子の良い時は食堂へご案内し、介助にて食事を可能な限り召し上がり、奥様がそばへ来られ会話される際はいつもより多弁な様子であった。「こんな顔を見せるのは嫌だなぁ、妻の前ではかっこいい自分でいたい」と微笑ましい会話をすることもあった。
看取り対応を希望された日、更に容態が低下され、いつでもご家族・奥様と会うことが可能な個室へ、本人了承のもと移動となる。自由に会える環境になってからも、奥様をお連れするかと尋ねた際に「会うと心配するから」と奥様を気遣う様子が見られた。体調が日々大きく変化する事もあったが、体調の良い時を見計らい、ベッド上でTVを見ながら奥様と談笑する時間も作ることができた。
亡くなる当日午前に看護師が何か食べたいもの、飲みたいものはあるかと尋ねると、「男だから、やっぱりあれが飲みたいよ」とジェスチャーでお酒を飲む動作をされ、ビールを希望される。そこで看護師が介護士やリハビリスタッフに相談し、医師に許可を取り、家族の協力のもとノンアルコールビールを持参して頂いた。リハビリスタッフがベッド上の体勢やビールのトロミを調整し、奥様、息子様・弟夫婦・職員に見守られながら、ご自分でコップを持ち2/3程飲まれる。また、ケースが好きなおせんべいを持参されていたため、なめる程度ならと1枚本人に持たせると歯肉で割って口に含み、嚥下を心配した職員にダメと言われ笑いながら吐き出された。久しぶりに見る活気のあるステキな笑顔であった。その日は体調も優れ午後には本人希望により機械浴を実施する事も出来た。また、ご家族様より「一緒の場所にいるので最期の時は夜中でも奥様と会わせて欲しい。」と希望を述べられた。
同日19時頃バイタルが不安定となり、奥様を居室へお連れすると、夫の手をさすりながら「お父さん頑張って」など声をかけられていたが、20分後奥様に見守られながら永眠された。その後もしばらくお二人だけで過ごしていただいた。
また、奥様は翌朝のご出棺に立ち会われ、「ありがとう。あなたと一緒になれてよかったです」と涙を流された。
【考察】コロナ感染対策は看取りの現場に大きな影響を及ぼし、「感染対策」と「利用者・家族の思いや願い」を両立する事は難しいと思われ、ケースや家族が満足し、後悔のない看取りが出来るのか不安さえ感じていた。
しかし、徐々に衰弱していく夫に寄り添い、死を受け入れようとしている妻、また夫の残していく妻への思いや優しさに共感し、夫婦の尊厳を守る看取りを考え、職員一同で話し合いの場を設け、制限ある現状の中、形に捉われず柔軟に今できる事を実践していこうと意識統一を図っていった。
また、個室の利用での空間や時間を共有することで、最後まで妻としての役割も全うできたのではないかと思う。ご家族には可能な範囲で面会回数を増やし時間を延長し、家族の協力を求めケースの希望を叶えられたことは、後の家族の悲しみを和らげる事が出来たと信じている。
【おわりに】今後多死社会へと移行していく中で、施設での看取りも増えていくと思われる。「最期は幸せでいたい」と思う人間としての尊厳を守る為にも、どんな時代の変化、価値感の多様化にも順応して行けるよう模索を続けることが大切である。そのためにも看取りが始まる前から、ご本人、ご家族の思いや気持ちを汲み取り信頼関係を構築し、それぞれの職種の専門性を理解しあい、多職種が連携し最期の環境を整え、より良い看取りに繋げていきたい。