講演情報

[14-O-C004-02]その人らしい最期に向けて~聞き取りシートの活用~

*小出 まみ1、高野 衣美1、村松 知実1 (1. 静岡県 介護老人保健施設まんさくの里)
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当施設では入所期間が短いうちに看取り期を迎える利用者様が多く、利用者、家族の意向の聞き取りが困難となり、
その人らしい看取りケアの提供ができていなかった。そこで、聞き取りシートを作成しその人らしい最期を迎えるための
取り組みを行った。聞き取りシートを活用することで、意図的に利用者様と関わることができ、その人らしさのある
看取りケアを提供することができた。
【はじめに】
  超高齢化社会を迎え、施設における看取りの需要が増大し老健施設にて看取りまで行うことは一般的になりつつある。
 当施設においても、年々看取り実績が増加傾向にあり、年間約30件近く看取っている。
 当施設入所者の平均年齢は86.9歳、入所者の約7割が認知症を患っており、基礎疾患も多く、
 入所してから1年未満で看取りとなる方が半数以上であり、入所期間が短いうちに看取りケアが必要となってきている。
  また、コロナ感染対策による面会制限に伴い家族とのコミュニケーションの機会も減少し、
 利用者様の情報や家族の意向を聞き取る機会が少なくなり、看取り期となり、何かしてあげたいと考えた時にはすでに
 利用者様から意向を聞き取るのは難しく、その人らしいケアの提供が困難な状態であった。ACPの必要性を学び、
 看取りケアを見据えた関りが必要であると感じた。
  そこで、エンディングノートを参考に聞き取りシートを作成、活用することでその人らしい看取りケアにつなげることが
 できたため報告する。


【目的】
  聞き取りシートを使用し、入所時から利用者様について聞き取りを行うことで、職員全体で利用者様の理解に努め、
 利用者様が看取り期を迎えた時にその人らしいケアを提供することができる。


【方法と結果】
 1)看取りケアの実際と課題、ACPについての勉強会を行った。
  その結果、看取り期にある利用者様の意向の聞き取りは難しく、コロナ感染対策による家族とのコミュニケーション不足
  からも利用者理解が不十分なまま看取りを迎え、その人らしい看取りケアができていないという現状が浮き彫りとなった。
  利用者様の価値観や希望を聞き取り、ACPの取り組みの一つとしてエンディングノートを活用した取り組みを課題とした。

 2)自分史の取り組みや生活史、エンディングノートをもとに聞き取りシートを作成し職員自身や職員の家族に実際に
  使用してもらい、使用してみての感想、アンケートを実施した。
  その結果、生活史やエンディングノートの項目を使用した聞き取りシートでは事情聴取のようになってしまう、
  どのように聞いたら分からない、職員によっては聞き取りのスキルが違う、時間がかかり勤務時間内にできるか
  不安などの意見があり、誰もが聞き取りやすく、利用者様も答えやすい項目に絞り、聞き取りシートを修正した。

 3)ACPの具体的な進め方とエンディングノートの活用についての勉強会を実施し、聞き取りシートの運用について
  職員全体で共通認識を図り、参加者に実際に使用してもらった。
  その結果、会話が広がりお互いの距離が縮まるのを感じた。

 4)職員に各受け持ち利用者様に対して聞き取りシートの使用を開始してもらい、家族に対しても郵送し説明文とともに
  聞き取りシートの記入を依頼した。
  その結果、家族からの聞き取りシートから得られた情報で多かったことして
  ・美空ひばりが好き、童謡が好き。茶碗蒸しが好き。ちらし寿司が好き。
  ・孫や兄弟、可愛がっていたペットに会いたいと思っている。
  ・お墓を大事にしていた。お祈り、手を合わせていた習慣があった。
  ・花や庭、畑を見るのが好き。モーニングやカフェが好き。
  などの具体的な情報があり、認知症などで今は分からない情報や利用者様の人となりが分かるような情報を得ることができた。

 5)看取りカンファレンス時に聞き取りシートを活用した。
  その結果、本人の食べたいもの、家族の食べさせてあげたいものを提供することができた。
  また、好きな音楽を提供でき、会いたい人に会ってもらうことができた。


【考察】
  今までは、意向を聞き取ろうとしたときには難しい状態であったが、聞き取りシートを使用することで意図的に利用者様と
 関わることができ、聞き取りシートの内容が会話の糸口となり利用者様の知らない一面を知ることができた。
 簡単な内容に絞ることで、利用者様も答えやすく、職員の誰もが聞き取りやすいものとなった。
 聞き取りを行うことで利用者様に対して親しみが増し信頼関係の構築につながった。
 また、聞き取りシートの内容が利用者様同士の会話にもつながり、家族が利用者様の思いを知るきっかけや考えるきっかけとなった。
 看取りケアにおいても利用者様の好きなことを知ることで家族へ具体的な提案をすることができ、ケアを通して、
 職員、家族が利用者様に対してやってあげることができたという満足感や後悔のない看取りにつなげることができた。


【まとめ】
  聞き取りシートは職員、家族、利用者様のコミュニケーションツールとして活用することができ、その結果、
 利用者理解につながりその人らしい看取りケアの提供につなげることができている。