講演情報

[14-O-C004-04]看取りケアの取り組みと職員の気持ちの変化

*安保 友香子1、小幡 玲子1 (1. 岐阜県 坂下老人保健施設、2. 坂下老人保健施設)
PDFダウンロードPDFダウンロード
当施設の地域では高齢化が進んでいる。それに伴い在宅復帰が困難で長期入所となる利用者が多く、入所中に亡くなる事が増えた。老健で最期を迎える利用者に対して「安楽に最期を迎えていただく様にケアしていきたい」という方針のもと、職員の気持ちにも目を向けて取り組みを行なった。5年間の取り組みを通し、職員の看取りに対する意識や気持ちが前向きに変化したと感じ報告する。
【はじめに】 一般的に老人保健施設では在宅への復帰を目標とされている。当施設の地域では高齢化に伴い在宅復帰が困難で長期入所となる方が多く、入所中に亡くなる方が増えた。今後老健で看取りが必要である状況に対し、令和元年より終末期ケアを開始した。当初は老健が看取りを行なうことに不安や否定的な職員が多くいた。5年間の取り組みを通して職員の看取りに対する意識や気持ちが前向きに変化してきたことを報告する。【取り組み方法】 まず看取りに対する職員の思いを知る必要があると考え、アンケートを実施した。回答では「看取りを行なうことに不安がある」と答えた職員が多かった。老健で看取りを行なうことに反対する職員もいた。看取りケアを経験したことのない職員が多く、看取りのイメージは良いものではなかった。アンケートの結果から得られた結論としてまずは、「看取りとはなにか」を学ぶ必要があると感じた。またアンケートは毎年自由回答で記入してもらい、職員の思いを知り、取り組みに活かせるようにすることとした。今年度のアンケートでは不安な気持ちはあるものの、不安の解消やより良いケアのために「もっとこうしたらいいのではないか」という具体的な意見をしてくれる職員が増えた。 看取りケアにどう取り組むべきか、ケアの実際を学ぶため近隣の他施設へ事前に質問用紙で依頼し、見学と聞き取りをさせて頂いた。学んだことを基にケアの方法を考えフローチャートを作成した。対象者は長期入所されている方とした。その中で「最期老健でしまっていきたい(この地域独自の表現である)」という方に安楽に最期を迎えて頂くケアをする方針とした。 環境や身の回りを整える。看取り時期を捉える。食事量が減っている吸痰が必要になってきたADLの著しい低下。これは一般的な看取り期よりも早めである。【最期の時】を早くから考え、本人の思いをケアに繋げるためである。それにより家族とも今後について繰り返し話し合いをもてる。担当がケアの計画を立てる。看取りとなった時に「担当より」とケア記録に記載し他の職員へも指示を出す。本人の思いを代理して記述し、どんな生活(最期)を過ごしたいか共有する。【日々の記録】ノートの活用。PCによるケア記録とは別に、居室内にノートを準備し利用者と関わった時にその場で記入する。発言や気持ち、状態を記入する。ケアへの活用だけでなく家族の面会時に見て頂けるようになっている。当初は「看取りノート」としていたが、本人が大切に生きた数日を家族にも知ってもらいたいと思い名前を変更した。家族と繰り返し対話する。家族の思いも常にゆらいでいる。繰り返し話し合いの場を持ち、家族の気持ちにも寄り添うことが重要である。利用者の状態、小さなことでも来所がない時でも、変化など報告する。毎月多職種によるモニタリングと看取りの振り返りを行なう。モニタリングを行なうことで現在のケアについて評価し、職員の情報共有をする。振り返りでは総合的評価をすることで、これからのケアに繋げ、職員へのグリーフケアを目的とする。 職員への研修を年に1・2回行なう。これまでの研修として「看取りとは」「(グループディスカッション)看取りの方にどんなことをしてあげたいか」「ご家族との関り方~信頼関係を築く~」「ケアプランについて」「エンゼルメイク」などを行なった。【結果・考察】 これらの取り組みを通しての職員の変化について報告する。当初は「看取りの方に対してどう接していいかわからない」「何か特別なケアをしてあげなくてはいけない」「なにかあったらどうしよう」と不安に思う職員が多数いた。しかし取り組みと経験を重ねることで、利用者に寄り添うこと、「こんなことをしてあげたい」「元気な時はよく家族に会いたいって言ってたから面会を増やしてもらったら嬉しいのではないか?」と想いをめぐらせ、前向きに捉えるようになった。利用者の思いを聞き出すことも意識して出来るようになった。記録もケアの実施記録になっていたが、気持ちを引き出すためのやりとりを書くことが増えた。家族からも「本人の様子が感じられて嬉しいです」といってもらえることもあった。アンケートは毎年実施しているが、回を重ねるごとにケアに対して具体的に対策を出す職員も増え、否定的に考える職員は減った。看取りケアそのものも安楽に過ごせるような方法や技術の向上があった。 【まとめ】 超高齢化社会をむかえる日本にとって、中間施設は看取りをむかえる場としての役割も重要になってきた。また地域の中の役割として、住み慣れた地で長期入所に限らず、病院に替わり、また本人と家族に寄り添い看取りケアの提供を行なう場所ともなった。看取りは個々の利用者で対応の仕方が違う。このように取組みを継続し積み重ねることでまた地域に寄り添う看取りができるようになると考えている。【文献】 橋本美香:介護スタッフのための施設看取りハンドブック、学研、P57 介護と医療研究会(著) 水野敬生(監修):看取りケア便利帳、翔泳社、P48